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山手西洋館コンサートシリーズ

 

洋館で親しむバッハのチェンバロ その1

〜 早春・光へのあこがれ 〜

 

“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第1回記念コンサート

 

2009124() 午後2時開演

山手234番館 レクチャールーム(元町公園前、えのき亭隣り)

 

主催:(財)横浜市緑の協会 山手234番館

企画・協力:アンサンブル山手バロッコ

(財)横浜市緑の協会 ホームページ: http://www.hama-midorinokyokai.or.jp
アンサンブル山手バロッコ ホームページ:http://www.geocities.co.jp/yamatebarocco

 

出演:

野口詩歩梨 (チェンバロ):

 福井県生れ。桐朋学園大学古楽器科卒業、同研究科修了。ピアノを伊原道代、雨田信子、チェンバロを故鍋島元子、又アンサンブルを有田正広、本間正史、中野哲也の各氏に師事。その後クイケン兄弟、モルテンセン氏などの指導を受ける。現在東京を中心に通奏低音奏者、ソリストとして幅広く活動。これまでにもフルートのM.ラリュー、F.アーヨ、中野哲也など数々の音楽家や室内オーケストラと共演。2000年、2002年、2004年「音の輝きをもとめて」と題したソロリサイタルを開催、各方面より好評を得る。古楽情報誌アントレ製作ビデオ等に出演。山手西洋館で、ソプラノの木島千夏氏、アンサンブル山手バロッコと共演。横浜市在住。

 


 

洋館で親しむバッハのチェンバロ その1

〜 早春・光へのあこがれ 〜

 

プログラム

 

アンサンブル山手バロッコ主宰の朝岡聡より「洋館で親しむバロック音楽」の紹介、今日のコンサートを解説

横浜山手の洋館での古楽器による音楽のひとときに、ようこそおいでいただきました。山手234番館の実験公開の時期にスタートした、洋館でのバロックコンサートもおかげさまで、2008年で10周年を迎えました。私たちのボランティアコンサートに加えて、古楽演奏家にも参加いただく様々な種類のコンサートを、お客さまと一緒に楽しめる、親しみやすいシリーズとして「洋館で親しむバロック音楽」という形で計画しておりましたが、山手西洋館のご協力を得て、いよいよ開始することになりました。オープニングを飾る本日は、バッハのチェンバロ曲に親しむコンサートです。早春の西洋館で、春への憧れを感じさせる輝きのあるバッハのチェンバロ曲を集めて、女流チェンバロ奏者としてソロ、伴奏に活躍中の野口詩歩梨さんに登場いただきます。どうぞ最後まで、ごゆっくりお楽しみください。

 

プ ロ グ ラ ム

J.S.バッハ / 前奏曲とフーガ ニ長調 (平均律クラヴィーア曲集 第2巻より) BWV874

J. S. Bach / Prelude und Fuge D-dur (Das Wohltemperierte Klavier - Teil II) BWV874 

 

J.S.バッハ / インヴェンションより ハ長調、ニ短調、ヘ長調 BWV772,775,779

Johann Sebastian Bach /  Inventionen C-Dur, d-moll und F-Dur BWV772,775,779

美しいチェンバロの音色、演奏が、お花でおしゃれをした234番館に響き渡りました

J.S.バッハ / フランス組曲 第6番 ホ長調 BWV817

J. S. Bach / Französische Suiten Nr.6, E-Dur BWV817

Allemande / Courante / Sarabande / Gavotte / Polonaise / Bourree / Menuet / Gigue

 

J.S.バッハ / シンフォニアより ト短調 BWV797

Johann Sebastian Bach / Sinfonien g-moll BWV797

 

J.S.バッハ /前奏曲とフーガ ニ短調(平均律クラヴィア曲集 第2巻より)BWV875  

J. S. Bach / Prelude und Fuge d-moll (Das Wohltemperierte Klavier - Teil II) BWV875

 

J.S.バッハ / イタリア協奏曲 へ長調 BWV971

J. S. Bach / Italienisches Konzert F-dur BWV 971

- / Andante / Presto

野口さんから、演奏だけでなく、楽器の構成や仕組みのおはなしも、ありました。

アンコール 

フランス組曲 第5番 ト長調 BWV816から サラバンド

でした。

♪♪♪♪♪

 

プログラム・ノート     

横浜山手の洋館での古楽器による音楽のひとときに、ようこそおいでいただきました。山手234番館の実験公開の時期にスタートした、洋館でのバロックコンサートもおかげさまで、2008年で10周年を迎えました。主宰の朝岡聡と相談し、私たちのコンサートに加えて、古楽演奏家にも参加いただくコンサートを、お客さまと一緒に楽しめ、親しみやすいシリーズとして「洋館で親しむバロック音楽」という形で計画しておりましたが、山手西洋館のご協力を得て、いよいよ開始することになりました。オープニングを飾る本日は、バッハのチェンバロ曲に親しむコンサートの第1回として女流チェンバロ奏者としてソロ、伴奏に活躍中の野口詩歩梨さんに登場いただきます。野口さんには、早春の西洋館で、春への憧れを感じさせる輝きのあるバッハのチェンバロ曲を集めて選曲いただきました。「どんな思いでバッハを弾きますか?」という質問に、「バッハが持つ大きなエネルギーを、そのままチェンバロという楽器で表現できたらいいな、と思っています。時には弦楽器のように、時には歌手のようにと、何声部にも渡っていろんな顔をみせるバッハの作品は、弾き手にとってどれも気が抜けませんが、時々ひょっこりみせる彼の遊び心を感じるとき、私自身とても幸せな気分になります。」と答えてくださいました。そんなバッハの春に向かうエネルギーを感じ、光のように様々に移ろうバッハの顔を発見しながら、最後まで、ごゆっくりお楽しみください。

バッハは、1685年生まれのドイツの作曲家です。現在では、バロック音楽で最高の作曲家として、また「音楽の父」と呼ばれるように、西洋音楽の原点となる偉大な作曲家として知られていますが、当時は、パイプオルガンやチェンバロなどの鍵盤楽器の名手として、その名がヨーロッパ中に知れ渡っていました。

バッハは、代々音楽家の家系に生まれ、幼い時から、パイプオルガン、チェンバロの鍵盤楽器に優れた腕前を発揮しました。近隣の教会のオルガニスト、宮廷の音楽家などにはバッハの一族が名前を連ねていましたし、親戚で集まると宴会と音楽会をあわせたような楽しみも多く開かれていましたので、生まれながらにして音楽に親しみ、その手ほどきを受け成長したのだと思います。バッハは、2度の結婚で20人の子供に恵まれましたが、成人した息子は5人全員が音楽家になり、次の世代の重要な作曲家になった人もいます。バッハは、友人に宛てた手紙で「我が家の子供は生まれながらの音楽家なのです」と誇らしげに書いていますが、一方で、子供を含む師弟の音楽教育にも力を注ぎました。特に、1710年に生まれた長男ヴィルヘルム・フリーデマンについては、その教育に力を注ぎ、1720年には、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのためのクラヴィーア小曲集という音楽帳を書き始め、チェンバロや作曲のレッスンを進めていったようです。本日演奏される明るい輝きをもつ曲も多くはそのような機会にチェンバロの演奏の練習、作曲の技法の取得と音楽の楽しみのために作られたものです。今日の演奏曲目を、年代順に眺めてみましょう。

プログラムのなかで、最初に作られたのはインヴェンションとシンフォニアです。この曲集は、初期稿の形で前述の音楽帳に収められています。今日でもピアノを学ぶ人は必ず練習することになるこのインヴェンションとシンフォニアは、鍵盤楽器の練習曲としての意味だけでなく、バッハの残した曲集の前書きにあるように「歌うように2つまたは3つの声部を演奏し、作曲の着想や方法を習得する」作曲の技法を学び、音楽の味わいを深めるための曲でもありました。本日は、インヴェンションのから有名な1番ハ長調、しっとりとしたニ短調と飛び跳ねるように快活なヘ長調を、シンフォニアからしっとりと3つの声部が絡みあうト短調が演奏されます。

同じ1722年ころ、この音楽帳には、インヴェンションと違ったジャンルの曲が書き込まれました。今日6曲のセットで知られるフランス組曲の第1曲から第5曲がそれにあたります。組曲とはルイ王朝の華やかなフランスが起源の形式で、さまざま舞曲を組合せた曲です。欧州全土に流行し、管弦楽、室内楽や鍵盤楽器のために数多くの曲がかかれました。ゆっくりと整然としたアルマンド、軽快に走るようなクーラント、荘重なサラバンド、そして躍動感のあるジーグの4つの舞曲が定番として並べられ、それにいくつかの流行の舞曲を組み合わせるのが当時のお決まりでした。本日の6は、音楽帳には書き込まれていませんので、もう少し後の作曲と考えられています。ホ長調という明るく、はじける様な曲想と高いテクニックの要求があり、もまた流行の舞曲が4曲も入っていますので、成長した息子のために提供したショーピース的な曲ではないかと感じています。

バロック時代に栄えたもうひとつのジャンルである協奏曲は、イタリアを起源としソロの輝きとオーケストラとの強弱の対比などダイナミックな曲想で組曲と同様に、欧州に広く流行しました。バッハは、若い時期にヴィヴァルディのオーケストラの合奏協奏曲を、チェンバロやオルガン独奏に編曲し、仕える宮廷の音楽好きの殿様に供しました。後年、1735年にバッハは、クラヴィーア練習曲集としてチェンバロ独奏のための協奏曲を作曲し、出版しました。今日イタリア協奏曲として知られるこの曲は、「イタリア趣味による協奏曲」というタイトルでした。この曲は若いころに学び、またブランデンブルク協奏曲やヴァイオリン協奏曲などで磨き上げた協奏曲の原理を、1台のチェンバロの上に実現したものです。この曲は編曲ではなく、チェンバロを念頭に作曲されたため、オーケストラの協奏曲では実現しない、大きなうねりのある対位法の原理を協奏曲の原理と融合するという、いわば「イタリアの太陽の輝きとドイツの深い森の味わいを掛け合わせた」新たな試みをした曲でもあります。この曲は、当時も大きな評判になり、バッハを時代遅れとひどく非難していた若い世代の批評家シャイベでさえ「1つの楽器での協奏曲の鏡である」と称えるほどでした。構成はヴィヴァルディの協奏曲の原理に則った、はやい・ゆっくり・はやい、の三楽章から成っており、2段鍵盤のチェンバロでフォルテ(合奏)とピアノ(独奏)を巧みに弾き分けるように作られています。

2曲のプレリュードとフーガは、バッハの晩年の173942年に編まれた「平均率クラヴィーア曲集第2巻」から選ばれています。平均率クラヴィーア曲集とは、鍵盤楽器のオクターブを構成する12の鍵盤全てに対して、長調と短調のプレリュード(前奏曲)とフーガ(対位法曲)24曲をもって構成されたもので、バッハは前述の音楽帳にその一部を書きはじめ、1722年に第1巻を完成しました。第2巻は、20年の時間を待って完成させましたが、第1巻に比べて、より様式は多様、構成は研ぎ澄まされ、円熟の境地に達しているように思います。第1巻のタイトルでバッハは「音楽を学ぶ若者のために、熟達した者の格別な楽しみになるように」と書いています。バッハは息子や弟子のチェンバロ教育の仕上げをこの24曲のプレリュードとフーガでさせたと伝えられていますが、音楽を学ぶものの総仕上げに、「音楽は楽しむもの!」ということをあらためて強調しているように思います。第2巻の各曲は、コーヒーハウスでのバッハの演奏会でも演奏されたのではないかと考えられていますが、ニ長調は、神様や祝典の調であるニ長調にふさわしく、トランペットのファンファーレを思わせる輝かしいテーマで始まり、賛美歌のような響きが次々と重ねあわされるフーガで終わる堂々たる演奏会作品に仕上げられています。ニ短調は、走り抜けるようなインヴェンション風のプレリュード、三連符がうねりながら様々な気分で走り回る力強いフーガが組み合わさっています。(なお、今日一般的な、平均率・・・いうのは正確でなく、バッハは、「うまく調律された・・・」と書いています。当時は全ての音律が等しく響くような現在の平均率でなく、調性によって響きの違う不等分な調律がされていました。バッハの工夫した調律は、現代の平均率と違い不等分平均率と呼ばれ、多くの調整が美しく響くと同時に、調性によって響きの個性の差があるようなものだったと考えられています。本日は、不等分平均率で調律したチェンバロでお聴きいただきます)

最後に楽器について少しだけ説明します。チェンバロは、弦をはじいて音を出す鍵盤楽器で、ジャックと呼ばれる木片にプレクトラムと呼ばれる小さな爪(材質は鳥の羽軸)が、はめこまれてあり、鍵盤を押すと先端にあるジャックが上がり、その爪が金属弦をはじいて発音します。本日お聴きいただくチェンバロには2つの鍵盤に対して、3本の弦が張られています。それぞれの弦にジャックが装置されています。そのうち、2本の弦は同じ高さの音が、もう1本はそれより1オクターブ高い音が出るようになっています。基本は1本の弦をはじいている状態ですが、鍵盤を押し込むことで、下の鍵盤では2本の弦を同時に鳴らしたり(音は大きくなる)、上の鍵盤では1本の弦を鳴らしたり(音は小さくなる)することが出来ます。

(詳細はhttp://www.geocities.jp/yamatebarocco/cembalo.htmlを参照ください。)

(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)

 

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