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山手洋館コンサート
木島千夏ソプラノコンサート Vol.7
洋館で楽しむバロック音楽
リュート伴奏で聴く歌曲
〜 主に向かって歌おう 〜
sacred songs with the lute
2010年5月16日(日)午後6時開演
山手111番館(横浜市指定文化財)
主催: (財)
http://www.hama-midorinokyokai.or.jp
協力: アンサンブル山手バロッコ
出演:
木島千夏(ソプラノ):
国立音楽大学卒業後、同大学音楽研究所の研究員として、バロック歌唱の研究と演奏活動に従事し、数々のバロックオペラやコンサ−トに出演。川口絹代、橋本周子に師事。92年英国へ留学し、J.キャッシュに声楽を師事、ギルドホール音楽院にてE.カークビー、D.ロブロウ、 N.ノースのレッスンを受ける。第30回ブルージュ国際古楽コンクールにて4位入賞。翌年同音楽祭に招待され、モーツァルトの「聖墓の音楽」のソロ等を歌う。W.Christie指揮によるシャルパンティエのオペラ公演「ダヴィデとヨナタン」に参加、ロンドンと日本各地でリュートのN.ノースとデュオ・リサイタルを行った他、ヨーロッパ各地で音楽祭や演奏会、ラジオに出演。帰国後は、バロックを専門にグレゴリオ聖歌から現代曲まで幅広いレパートリーに取り組みソリストまたはアンサンブルで活躍している。
2004年から毎年、山手西洋館でのリサイタルを開催し好評を博す。現在、聖グレゴリオの家教会音楽科講師。現在、聖グレゴリオの家教会音楽科講師。
野入志津子(アーチリュート) :
京都生まれ。同志社女子大学音楽学科(音楽学専攻)卒業。在学中よりリュートを岡本一朗氏に師事。京都音楽協会賞受賞。同大学を卒業後、スイスのバーゼル・スコラ・カントルムに留学、リュートをオイゲン・ドンボア、ホプキンソン・スミスの両氏に,通奏低音をイェスパー・クリステンセン氏に師事。1991年ソリスト・ディプロムを得て卒業。以後、ソリスト及び通奏低音奏者として世界各国で活発な演奏活動を続けている。
現在、オランダに在住し、ルネ・ヤーコブス率いる、コンチェルト・ヴォカーレ常任リュート奏者、バロック・アンサンブル“パルナッソスの歓び”メンバー。
録音では、フィリップスからイ・ムジチ合奏団と共演したヴィヴァルディの「四季」他、ハルモニア・ムンディ・フランス、シンフォニア等のレーベルから多数リリースされている。ソロCD「G.A.カステリオーノ/様々な作曲家によるリュート作品集ミラノ1536年」と「ジョヴァンニ・ザンボーニ/リュートソナタ集・ルッカ1718年」をレグルスからリリースし、レコード芸術誌の特選版、レコード・アカデミー賞音楽史部門にノミネート、朝日新聞クラシック試聴室をはじめ各方面で絶賛された。
洋館で楽しむバロック音楽
リュート伴奏で聴く歌曲
〜 主に向かって歌おう 〜
プログラム
横浜山手の洋館、山手111番館は、広い芝生を前庭とし、ローズガーデンを見下ろす住宅として大正15年に建てられました。設計者は、ベーリック・ホールを設計したJ.H.モーガン。彼は横浜を中心に多くの作品を残していますが、山手111番館は彼の代表作の一つ。2階まで吹き抜けになった古き香りのただよう西洋館の贅沢な空間で、「主に向かって歌おう」と題して心に直に語りかけるようなアーチリュートの響きとバロック宗教歌曲を中心としたソプラノを味わいました。出演は、ソプラノ木島千夏さん、共演はヨーロッパに本拠を置き、国際的に活躍中の女流リュート奏者の野入志津子さんです。
プ ロ グ ラ ム
C.モンテヴェルディ/主をほめたたえよ
Claudio Monteverdi / Laudate Dominum
(オープニングは天上からの音楽:モンテヴェルディ)
モンテヴェルディ(1567-1643)は、ルネサンス音楽からバロック音楽への転換点に立ち、バロックの音楽を開拓した重要な音楽家と言えます。北イタリアのクレモナに生まれ、クレモナ大聖堂の楽長であったマルカントニオ・インジェニェーリの元で学び、マントヴァ公の宮廷で歌手、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者を経て、宮廷楽長となりました。40代の半ばでヴェネツィアのサン・マルコ寺院の楽長に就任し、亡くなるまでこの地位にとどまりました。モンテヴェルディは、詩の内容に即した表現を取り入れることによって、ルネサンスの声楽曲になかった新たな緊張や劇的な音楽を追及しました。この転換が色々な分野に影響し、歴史的に見ればバロック音楽への転機にもなりました。特に声楽の分野で多くの傑作を残し、オペラやマドリガーレ、そして宗教音楽の分野においても、その後の音楽に多大な影響を与えました。主をほめたたえよは、詩篇第150篇にもとづくものです。
A.グランディ/おお、あなたはなんと美しい
Alessandro Grandi / O quam tu pulchra es
A.グランディ/主に向かって歌おう
Alessandro Grandi / Cantabo Domino
グランディ(1586–1630頃)は、バロック時代初期の北イタリアの作曲家。同時代では、先のモンテヴェルディに次ぐ音楽家で、協奏様式を発展させました。1617年にはモンテヴェルディが楽長を務めるヴェネツィアのサン・マルコ寺院の楽団に職を得、モンテヴェルディの助手として勤めました。その後にベルガモの楽長に就任し、新たな音楽活動を開始しましたが、3年後の活躍途上で亡くなりました。おお、あなたはなんと美しい、主に向かって歌おうはレチタティーヴォ様式と舞曲風の3拍子の部分が交互に現れ、また不協和音の使い方が美しい小品です。
G.カプスベルガー/トッカータ6番(リュート独奏)
Giovanni Girolamo Kapsberger/ Toccata sesta(lute solo)
G.カプスベルガー/おお、神聖なる宴
Giovanni Girolamo Kapsberger/ O sacrum convivium
カプスベルガー(1580-1651)はイタリア初期バロック音楽の作曲家で、リュートのヴィルトゥオーソとして名を馳せ、華麗な演奏を聴かせ宮廷で人気を集めました。主な作品は、さまざまな形式によるリュートやアーチリュートのための小品で、演奏するトッカータのように、躍動的なリズム、創意の豊かさで有名ですが、おお、神聖なる宴のような宗教歌曲も残しています。ピッチニーニと共に、カプスペルガーは当時の最も進歩的なリュート音楽の作曲家であり、なおかつ楽器の発展に大きく貢献した音楽家と言えます。
G.カッチーニ/愛の神よ、何を待っているの?
Giulio Caccini / Amor ch'attendi
G.カッチーニ/アマリッリ
Giulio Caccini / Amarilli
カッチーニ(1545頃-1618)はイタリア生まれのルネサンスからバロックにかけての作曲家で、歌詞の意味を明確に伝えるための新しい歌曲の様式(モノディー)を開拓したことでも知られています。アマリッリは彼の最も有名な作品。愛の神よ、何を待っているの?は、アリアという形式の軽快な3拍子の有節歌曲です。
A.ピッチニーニ/パッサカリア(リュート独奏)
Alessandoro Piccinini / Passacaglia(lute solo)
ピッチニーニ(1566−1638頃)は、北部イタリアのマントヴァやフェラーラで活躍した作曲家、リュート奏者です。カプスベルガーと同じくリュートの名手で、楽器改良や演奏法に大きく影響を与えました。音楽が大きく変動する時代に、緻密なポリフォニーから漸進的なスタイルまで駆使した高いレベルの作品を残しています。本日は繰り返す低音の上で楽想が展開するパッサカリアが演奏されます。
B.グラツィアーニ/サルヴェ・レジーナ
Bonifatio Graziani / Salve
グラツィアーニ(1604/5-1664)は、カリッシミとともに17世紀ローマで活躍した代表的な作曲家であり、神父でもありました。残された作品は演奏するサルヴェ・レジーナのような宗教声楽曲ばかりで、6巻におよぶソロ・モテットや数声部のアンサンブルによるモテット、ミサ、オラトリオなどがあります。
T.モーリー/五月祭りの季節
Thomas Morley / Now is the month of Maying
(モーリーでの2重唱)
モーリー(1557 または1558–1602)はシェイクスピア時代のイギリスの作曲家、オルガニスト。エリザベス朝の重要な宗教的合唱曲(マドリガル)作曲者として名を残していますが、五月祭りの季節を始め恋を歌った世俗的なリュート伴奏の歌曲やリュートを含む器楽合奏曲も残しています。
作者不詳/グリーンスリーブス Anon. / Greensleaves
グリーンスリーブスは、作者不詳ですが、シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」の中にも登場し、この時代から愛され続けた曲であることがわかります。
T.キャンピオン/古びたる帆
Thomas Campion / Never wether beaten sail
キャンピオン(1567-1620)はイギリスの作曲家、リュート奏者。同時に詩人・内科医としても活躍しました。ダウランドと並び称されたリュート歌曲の作詞家・作曲家で古びたる帆をはじめ100曲以上のリュート歌曲を残している他、劇音楽の作曲、音楽理論書の出版など幅広い活動をしています。
J.ダウランド/ファンシー(リュート独奏)
John Dowland / A Fancy(lute
solo)
ダウランド(1563-1626)は、イギリスの作曲家、リュート奏者。オックスフォード大学で音楽楽士となり、ドイツ、イタリアなどで活躍した後、イギリスに戻り国王付リュート奏者となりました。リュート歌曲とリュート独奏曲を主に残していますが、ファンシーはリュート独奏の幻想曲。即興のような自由な形式で書かれています。
H.パーセル/ひとときの音楽
Henry Purcell / Music for a while
H.パーセル/最も美しい島
Henry Purcell / Fairest isle
H.パーセル/夕べの賛歌
Henry Purcell /Evening Hymn
パーセル (1659-1695)は、イギリス音楽史上最大の作曲家。宮廷楽団の作曲家、ウエストミンスター寺院や王室礼拝堂のオルガニストを歴任し、王室向けの追悼音楽や祝典音楽も作曲し、まさにイギリス音楽界のあらゆる重要な地位を獲得しましたが、働き盛りの30代半ばで夭折しました。ひとときの音楽は劇音楽オイディプスの中の曲で、音楽を聴くことで、すべての悩みが癒され奇跡のように痛みが消え去ること、そんな音楽の力を歌っています。最も美しい島は劇音楽アーサー王の曲でイギリス・ブリテン島を讃えます。夕べの賛歌は文字通り一日の終わりに神への感謝を歌ったものです。
G.ザンボーニ/チャコーナ(リュート独奏)
Giovanni Zamboni/ Ciaccona(lute solo)
ザンボーニ(17世紀末〜18世紀初頭)は、もう少し時代をくだり1700年前後のイタリアの作曲家でリュート演奏家です。チャコーナは、1718年出版のリュート組曲集の中に収められていますが、バロック時代の後期の成熟した音楽が聴かれます。
W.A.モーツァルト/夕べの想い K523
Wolfgang Amadeus Mozart / Abendempfindung
モーツァルト(1756-1791)は時代がさらに大きく下り、18世紀後半の音楽になります。600曲以上の曲が残されている中で、歌曲は数十曲に過ぎませんが、多くの曲は作曲者の個人的な友情の証として作られたものです。演奏する夕べの想いはウィーン時代、ドン・ジョバンニの年にクラヴィーア伴奏の歌曲として作曲されたものです。人生のうつろいや生と死に対する諦めの感情が穏やかに流れていく詩(ドイツの詩人カンペの作)につけられたモーツァルトの繊細な音楽を、リュート伴奏で味わっていただけると思います。
(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)
アンコール
(フラワーアレンジメント協力 森田朋子)
カプスベルガー作曲の世俗歌曲「君のきよらかな美しい顔は」でした。ありがとうございました。
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洋館で楽しむバロック音楽
「主に向かって歌おう」について
コンサートの準備に忙しい合間に、プログラムや楽器、お二人の出会いなどについてうかがってみました。
− 木島さんは、西洋館のコンサートもいよいよ7回目ですね。リュートとの共演は初めてですが、今回はどのような趣向ですか?
(木島) バロック時代の宗教歌曲を中心にプログラムを組みました。宗教曲と言うと合唱曲が思い浮かぶかもしれません。オルガンやチェンバロやリュートなどの伴奏だけで歌う独唱曲はあまり知られていませんが、素敵な曲がたくさんあるのでご紹介したいと思いました。
− リュートという楽器、特に今晩聴かせていただくアーチリュートについて少し教えていただけますでしょうか?
(野入) リュートのご先祖様はアラビアの弦楽器でウード(今もアラビアの代表的な民族楽器です。)といいます。中世の時代にシチリア島とスペインからヨーロッパに渡り、名前も演奏法もヨーロッパ風に変わって、リュートという楽器は15世紀から18世紀まで現代のピアノのように、音楽あるところにはいつも奏でられていました。ウードは同時代にシルクロードを通って中国へ、さらには日本まで到来して琵琶という楽器で知られています。
アーチリュートは、本来のリュートの大型版です。16世紀の初めごろから音楽のスタイルが急変化するにつれて楽器も音域の拡大など変化が生じました。アーチリュートの音域は一般的なチェンバロの音域をカバーしますし、低音楽器としても和声楽器としても演奏できたので、当時の室内楽やオペラなどで重宝されました。
- ところで、お二人はどのようなご関係ですか?お二人ともヨーロッパで研鑚・演奏を重ねられていますが、現在は本拠が、日本とヨーロッパに分かれているので、プログラムの相談やリハーサルのスケジュールあわせに苦労されたのでは?
(木島) 何年だったか忘れてしまいましたが、野入さんがアンサンブルのグループを連れて日本に来た時に、栃木の音楽祭でレクチャーとコンサートを聴き、共演したいなあと思ってラブコールしたのが最初でした。これまでに「イタリアの愛の歌」「リコーダー、リュートと歌によるささやかな時間」などのコンサートを行っています。
コンサートの準備は、メールでプログラムの相談をし、リハーサルはコンサート直前の数日だけです。たっぷり時間があるわけではありませんが、野入さんは数えきれないほどオペラで演奏していますし、歌手との共演経験も豊富なので、合わせることに関してはまったく心配はしていません。
(野入) 木島千夏さんとの出会いは、ご紹介いただいたように1996年にアンサンブルと初来日公演したときがきっかけだったそうです。もう長いお付き合いですね。オランダのうちまで訪ねてきてくださったこともありましたね。
コンサートの本番もさながら、一緒に音楽を作り上げてゆくリハーサルも大変楽しく、今回もありがたい機会をとても楽しみにしています。
− 今回は2階まで吹き抜けの歴史的な西洋館で30余席の親密な空間でのコンサートで、今回歌っていただける曲やリュート演奏には最適だと思いますが、お客様にどのように楽しんでいただきたいですか?
(木島) リュートは繊細で小さな音から、大きな劇場でオーケストラの中で弾いていてもよく聴こえるくらい充実した音まで鳴らすこともでき、幅広い表現力をもっています。
大きな会場では味わえない様々な表現を間近でお楽しみいただければと思います。
(野入)喜びが天まで吹き抜けるくらい楽しんでいただきたいと思います。
− どうもありがとうございました。
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