これまでの演奏会へ戻る
NEW!!
96th Concert
アンサンブル山手バロッコ第96回演奏会
西洋館で味わう
三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽
Baroque Ensemble Music with Three Melody Instruments and
Cembalo
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第104回
2021年3月28日(日) 14時開演(13時30分開場) 横浜市イギリス館
14:00 28th March 2021 at
British House Yokohama
主催:アンサンブル山手バロッコ
出演
坪田 一子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
国立音楽大学楽理学科卒業。在学中よりヴィオラ・ダ・ガンバを神戸愉樹美氏に師事。ベルギーでヴィーラント・クイケン氏、ポルトガルでパオロ・パンドルフォ氏のマスタークラスに参加。ヨーロッパの中世からルネサンス・バロック音楽まで、アンサンブルを中心に演奏活動をしている。上野学園中学校・高等学校、国立音楽大学非常勤講師。
曽禰 寛純(フラウト・トラヴェルソ)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
角田 幹夫(バロック・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
和田 章(チェンバロ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第96回演奏会
西洋館で味わう
三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽
Baroque Ensemble Music with Three Melody Instruments and
Cembalo
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第104回
プログラムノート
(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)
ようこそいらっしゃいました。西洋館サロンでバロック音楽をご一緒に味わいたいと思います。「三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽」というタイトルは、本日登場する3つの旋律楽器(フラウト・トラヴェルソ、バロック・ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ)それぞれの個性を聴いていただき、またあらゆる楽器を包み込みアンサンブルを支えるチェンバロの不思議な力を聴いていただきたいということで付けました。
(もう一つ、この3月は横浜三塔(キング・クイーン・ジャック)の記念の月でもあり、わたしたち山手バロッコは記念のコンサートに何度も呼んでいただいておりました。今年も本日の編成で3月にジャックの塔(開港記念会館)でのコンサートを準備しておりましたが、感染症の影響で中止となってしまいました。聴いていただけないのは残念!と本日の会を開催することにいたしました。三塔のコンサートでは3つの楽器を塔になぞらえました。誰がクイーンかは明白ですが、キング、ジャックと不思議な力をもつジョーカーについてはご想像にお任せします。) どうぞよろしくお願いいたします。
♪ ♪ ♪
J.S.バッハ(1685−1750)
Johann Sebastian Bach
フルート、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト長調 BWV525
Sonata for Flute, Violin and Basso continuo in G Major BWV525
(記載なし) - アダージョ - アレグロ
( ) -
Adagio - Allegro
バロック時代には、2つの旋律楽器と通奏低音(低音のラインと和声を担当)のためのソナタ(トリオソナタ)が、大変好まれ数多く作曲・演奏されました。
バッハはこのジャンルに更に新しい2つの構成を開拓し貢献しました。一つ目は、2人で演奏するトリオです。旋律楽器と(旋律と低音を同時に担当する)チェンバロの構成のトリオソナタです。6つのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタがその代表曲ですが、フルートとチェンバロ、本日演奏するヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの編成の曲も残しています。もう一つの構成は、1人で演奏するもので、右手と左手で二つの旋律を、足で低音を担当するオルガンのための6曲のトリオソナタがその構成です。このトリオソナタは1730年頃作曲され、円熟した作曲技法とオルガン演奏の妙技を盛り込んでいます。この曲は長男フリーデマンのオルガニストしての就職活動のために作曲したとも言われいます。作曲の経緯はどうであれ、このオルガン1台で演奏するトリオソナタ(オルガントリオ)は、バッハの曲以外には見つかっておらず、バッハの類まれな腕前と探究心の結果と思います。この6曲のオルガントリオの楽章の中には、以前に作曲した定型的なトリオソナタをオルガン一台のために編曲したものも含まれていますので、本日はオルガントリオの最初のソナタを、当時一般的な形にして演奏します。
フルート、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト長調は、新しい船出を祝うような軽やかな主題で始まり展開される第一楽章に、二つの旋律が歌い合いまた、掛け合い合うと共に、低音も同じ主題で応え、後半では最初のテーマを上下ひっくり返した〔鏡像〕テーマが加わるなど、変化に富んだ構成の第二楽章が続きます。最後の第三楽章では、最初の軽やかな気分に戻り、思わずリズムを刻んでしまう軽快な3拍子で駆け抜け曲を閉じます。
G.Ph. テレマン(1681−1767)
G.Ph.Telemann
フルート、ヴァイオリン、チェロと通奏低音のための四重奏曲 ホ短調 「食卓の音楽」第3集より
Quartet in e minor for
Flute, Violin, Violoncello and Basso continuo from “Tafelmusik” Production III
アダージョ - アレグロ - ドルチェ - アレグロ
Adagio - Allegro - Dolce – Allegro
テレマンは当時ヨーロッパ中に知られた最も有名な作曲家で、大変な数の曲を残していますが、本日はその中でも名曲中の名曲の2曲をお届けします。バッハより4歳年上のテレマンはドイツのマクデブルクに生まれ、幼少のときから多くの楽器を演奏する楽才に恵まれていました。20歳の時には、ライプチヒの大学に入学し法学を学びますが、大学でコレギウム・ムジクム(学生を中心とした演奏団体)を組織し活動をはじめ評判を呼びました。卒業後は音楽家として活躍をはじめ、アイゼナッハやフランクフルトの宮廷楽長を経験した後、1721年、40歳の時に、現在では横浜港と姉妹港であるハンブルク港を持つ商業都市ハンブルクの音楽監督に就任し、生涯その地で精力的な音楽活動を続けました。
1733年には彼の名を一躍高めることになった3つの曲集からなる「食卓の音楽」を予約出版しました。食卓の音楽とは、古くから宮廷や貴族のバンケットを彩る音楽のことを意味していますが、テレマンは、当時の器楽合奏曲の代表的なジャンルである「組曲、協奏曲、四重奏曲、トリオ・ソナタ、ソロソナタ」を1つにまとめで曲集(Production)として編み、楽器の組み合わせを変えて3つの曲集を出版しました。友人であるラインホルトへの手紙に「この作品は、いつの日か私の名声を高めてくれることになるでしょう。(出版譜を)購入して後悔することなど決してありません。」とその自信のほどを記しています。多くの予約の中には、ロンドンのヘンデル、フランスのフルートの名手ブラヴェ、ドイツのヴァイオリンの名手ピゼンデルなど著名な音楽家も名を連ねており、当時の人気がうかがわれます。
さて、演奏するフルート、ヴァイオリン、チェロと通奏低音のための四重奏曲 ホ短調は、食卓の音楽の第3集に収められています。(本日はチェロのパートはヴィオラ・ダ・ガンバで演奏します) 曲は4つの部分からなりますが、全体に3つの旋律楽器だけで演奏する部分も多く、また流行のロンバルディアリズム(♬♪)も多く取り入れられ軽やかな曲に仕上がっています。3つの楽器で静かに始まる第一楽章アダージョ、続くフーガ形式のアレグロの第二楽章も3つの旋律楽器から曲が始まります。第三楽章ドルチェは、4つの楽器が寄り添いながら曲を進めていきます。最後の楽章アレグロは、3拍子の歯切れの良いテーマを中心に、3つの旋律楽器が腕前を競います。
J.S.バッハ
Johann Sebastian Bach
ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ ニ長調 BWV1028
Sonata for Viola da Gamba and Cembalo in
D Major BWV1028
アダージョ - アレグロ - ドルチェ - アレグロ
Adagio - Allegro - Dolce – Allegro
バッハのヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタは3曲が残されていますが、1曲(ト長調)が原曲(2本のフルートと通奏低音のためのソナタ)とライプチヒ時代の自筆譜が残されている以外は、バッハの死後の筆写譜で伝えられているため作曲の経緯や時期は明確でありませんでした。長く(ヴィオラ・ダ・ガンバを愛好した領主のいた、ケーテン宮廷の楽長時代の作とされていましたが、資料的な裏付けもなく、今では、ライプチヒでの活動に関連して作曲されたとも考えられています。
演奏するニ長調のソナタは、7弦のヴィオラ・ダ・ガンバを想定したもので、4つの楽章からなります。ニ長調という華やかな調性の曲ですが、瞑想的な第一楽章で始まります。活発な第二楽章に続いて、息の長い旋律が歌い交わされる深い味わいを持つ第三楽章が印象的です、最後はチェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバの特徴を生かした独奏部分が挟み込まれた協奏曲のような第四楽章で曲を閉じます。坪田さんは、「バッハとヴィオラ・ダ・ガンバと言えば、やはりケーテン宮廷時代のアーベルとの親交を思い浮かべます。アーベルはガンバの名手で、バッハが彼の演奏からインスピレーションを受けたことは間違いないでしょう。後にバッハの末息子と、アーベルの息子がイギリスに渡り、《バッハ=アーベル・コンサート》を立ち上げ人気を博します。今日使う楽器はその頃ロンドンで作られたものです。もしかしたら彼らの音楽を奏でたかもしれません。」とお話しいただきました。
G.Ph. テレマン
G.Ph.Telemann
フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための四重奏曲 ト長調 (パリ四重奏曲 協奏曲第1番)
Quartet in e minor for Flute, Violin,
Violoncello and Basso continuo from “Tafelmusik” Production III
グラーヴェ/アレグロ/グラーヴェ/アレグロ - ラルゴ - プレスト - ラルゴ - アレグロ
Grave/Allegro/Grave/Allegro - Largo - Presto - Largo - Allegro
テレマンは、先の曲でも顕著なように、いろいろな趣味(お国ぶり、音楽形式)の融合を進め、新しい楽しみを提供し続けた作曲家であり、いくつかのジャンルは彼を発信地としその周辺へ広まりました。「フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ(またはチェロ)と通奏低音のための四重奏曲」というジャンルもその一つです。この曲はハンブルクで1730年に出版された6曲の四重奏曲の中に含まれています。6曲は協奏曲、ソナタ、組曲がそれぞれ2曲の構成になっています。この曲集は「ハンブルク四重奏曲」とも呼ばれていますが、出版された曲集の評判は上々で、気位の高いパリの音楽界も唸らせ、1736年にはフランス語のタイトルを付けてパリでも出版され、そして翌年、パリの一流の音楽家たちがテレマンをパリへ招待する契機にもなりました。そのため「パリ四重奏曲」とも呼ばれています。また、パリに招待されたテレマンは新たに6曲の(同じ編成の)四重奏曲を「新しいパリ四重奏曲」として作曲出版し、パリのフルート(ブラヴェ)、ヴァイオリン(ギニョン)、ヴィオラ・ダ・ガンバ(フォルクレ)やチェロ(エドワール)の名手とテレマンは共演し、たいへんな評判になりました。自伝の中で「・・・この四重奏曲に対する宮廷や町の人々の関心は稀に見るものであって、しばらくの間に私の名声がほとんど町中に広がると、私は日増しに丁重な扱いを受けるようになった・・・」と述べています。
さて、演奏するト長調の四重奏曲(協奏曲第1番)は、1730年に出版された曲集のオープニングを飾るに相応しく、フランス趣味も採り入れ、しゃれた作りになっています。序曲形式の第一楽章のあと、短いラルゴの第二楽章を経て、そのまま、すべての声部が対位法的に組合さった精緻なプレストの第三楽章のあと、第二楽章と同じ短い経過の第四楽章に引き続き、最後に楽しい舞曲(ジーグ)のリズムの終楽章で曲を閉じます。
演奏する楽器について:
■チェンバロ:イタリアの楽器(1600年頃)をモデルに堀栄蔵氏が製作(1990年)
■フラウト・トラヴェルソ:
G.A.ロッテンブルク(18世紀中頃)をモデルに木下邦人氏が製作(2013年)
■バロック・ヴァイオリン:
D.ヴァディアロフ氏が製作( 2001年)
■ヴィオラ・ダ・ガンバ: ナサニエル・クロス製作(ロンドン 1700年代)のオリジナルのチェロを、ヴィオラ・ダ・ガンバに改造(2005年)
参考文献:
礒山雅ほか編/バッハ事典 東京書籍 (1996)
D.Schulenberg/Bach, Oxford University Press (2020)
S.Zohn/Music for a Mixed Taste, Oxford University Press (2006)
カール・クールベ著、服部幸三・牧マリ子共訳/ テレマン〜生涯と作品 音楽の友社 (1981)
アンコール
たくさんの拍手をいただきましたので
テレマンのパリ四重奏曲「第4番」からメヌエットをお聴きいただきます。
ありがとうございました。
これまでの演奏会へ戻る