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93rd Concert
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲と交響曲-II
Mozart’s
Concertos and Symphony with period instruments-II
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第100回
2020年12月27日(日) 14時開演(13時30分開場)
横浜市開港記念会館講堂
14:00 27nd Dec. 2020 at Yokohama Port Opening Memorial Hall
主催: アンサンブル山手バロッコ
特別協力: 横浜市中区役所
協力:クラングレーデ・コンサート事務局
出演
朝岡
聡(お話)
横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後テレビ朝日にアナウンサーとして入社。1995年からフリー。TV・ラジオ・CMの他、コンサートソムリエとしてクラシック演奏会の司会や企画にもフィールドを広げている。特に古楽とオペラでは親しみやすく本質をとらえた語り口が好評を博している。リコーダーを大竹尚之氏に師事。著書に「笛の楽園」(東京書籍)「いくぞ!オペラな街」(小学館)など。1998年にフラウト・トラヴェルソの曽禰寛純と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手地区西洋館でのコンサートを継続している。
荒川 智美(フォルテピアノ)
東京藝術大学大学院フォルテピアノ専攻修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。モーツァルトのピアノ協奏曲における研究論文と演奏で、博士号を取得。文化庁新進芸術家海外研修派遣員としてミュンヘン音楽演劇大学で研鑽を積む。チェンバロの学士号とフォルテピアノの国家演奏家資格を取得。コンクールWettbewerb um den Kulturkreis Gasteig Musikpreisで第1位を受賞。2011年よりフォルテピアノを用いたコンサート「Mozart‘s Dialogue」を主催している。現在東京藝術大学古楽科教育研究助手。
満江 菜穂子(バセット・クラリネット、クラシカル・クラリネット)
昭和音楽大学大学院修了と同時に学長賞を受賞。在学中より数々のコンクールにおいて受賞・入選し、名古屋フィルハーモニー交響楽団と協奏曲を共演するなど国内外の演奏家と共演。2007年、ピリオド楽器を使用した演奏活動を開始。オランダ デン・ハーグ王立音楽院に留学し、歴史的クラリネットの第一人者であるエリック・ホープリッチ氏に師事する。「18世紀オーケストラ」、「フライブルク・バロック・オーケストラ」など著名な古楽オーケストラで演奏。帰国後も昭和音楽大学講師として指導に携わるとともに、「オーケストラ・リベラ・クラシカ」「バッハ・コレギウム・ジャパン」「オルケストル・アバンギャルド」などで活躍。
戸田 竜太郎(クラシカル・クラリネット)
武蔵野音楽大学卒業。クラリネットを坂本由美子、柏野晋吾の両氏に師事。2016年より歴史的クラリネットの活動を開始。2016年18年、ウルビーノ古楽音楽祭にてロレンツォ・コッポラ氏のマスタークラスを受講。2018年、ブルーニコ古楽アカデミーにてリサ・シュクリャーヴェル氏のマスタークラスを受講。これまでにアンサンブルジェネシス・東京バッハカンタータアンサンブル・オーケストラシンポシオン・モーツァルトアカデミートウキョウなどの古楽オーケストラに参加。
岩井 春菜(クラシカル・フルート)
桐朋学園大学フルート専攻を経て同大学フラウト・トラヴェルソ専攻に転科。同大学、大学研究科卒業。フルートを峰岸壮一、渡部亨、野津臣貴博に師事。ルネサンス、バロック、クラシック時代の時代楽器を有田正広に、室内楽を有田正広、有田千代子、寺神戸亮、エマヌエル・ジラールの各氏に師事。 第24回国際古楽コンクール山梨 審査員奨励賞受賞。オルケストル・アヴァンギャルドメンバー。ヘンデル・フェスティバル・ジャパン等のオーケストラで活動中。
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
永谷 陽子(クラシカル・ファゴット)
桐朋学園大学卒業。同大学研究科及びオーケストラアカデミー修了。バロック・ファゴットを堂阪清高氏に師事。2012年横浜・西洋館 de古楽で、モーツァルトのファゴット協奏曲をピリオド楽器で熱演。第26回国際古楽コンクールにて 奨励賞を受賞。古楽、モダン両分野でオーケストラや室内楽、CD録音に参加。八王子音楽院、ドルミール音楽教室講師。「ダブルリーズ」他メンバー。
前原 聡子(クラシカル・ファゴット)
ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始める。現在、国分寺チェンバーオーケストラ、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。
飯島さゆり(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学、フランクフルト音楽大学を卒業、ブリュッセル音楽院を修了。在独中、トリア市及びドルトムント市立歌劇場管弦楽団の契約団員を務める。 ホルンを故千葉馨、故田中正大、守山光三、堀内晴文、マリー・ルイゼ・ノイネッカー、ヨアヒム・ペルテル、故アンドレ・ファン・ドリーシェの各氏に、ナチュラル・ホルンを、クロード・モーリー氏に師事。埼玉県立大宮光陵高校及び神奈川県立弥栄高校音楽科専攻ホルン非常勤講師。
慶野 未来(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学附属高校を経て、東京藝術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。 現在神奈川県立弥栄高校 音楽科非常勤講師。
小野 萬里(クラシカル・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。現在、「チパンゴ・コンソート」、「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。
宮崎 蓉子(クラシカル・ヴァイオリン)
東京音楽大学器楽科を卒業後、2004年渡英。ギルドホール音楽院在学中、理事長推薦により特待生として研鑽を積み、ディプロマを終了。バロック・ヴァイオリンを渡邊慶子、R・ポジャー、S・スタンデイジの各氏に師事。渡英中、オーケストラ・エイジ・オブ・エンライトメントなど著名なオーケストラに参加し各地で演奏活動をし帰国。ソロおよびアンサンブル奏者として活動を広げる一方、後進の指導にあたっている。2014年ソロCD “ciacconna”をリリース。
小玉 安奈(クラシカル・ヴァイオリン)
ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学 モダンバイオリン学士課程、大学院修士課程を最優秀で修了。バロック・ヴァイオリン及び古楽アンサンブルをドロテー・オーバリンガー氏、ヒロ・クロサキ氏に師事。更にラインハート・ゲーベル氏に師事し研鑽を積む。コンチェルトケルンなど著名なバロックアンサンブルで定期的に演奏し多数のCD録音や音楽祭などに参加。現在は日本を拠点に演奏家及び指導者として活躍している。
原田 純子(クラシカル・ヴァイオリン)
洗足学園音楽大学卒業。ヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏に師事。慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後古楽器での演奏に興味を持ちバロックヴァイオリン・ヴィオラを渡邊慶子氏に師事する。モダン・バロックのヴァイオリン、ヴィオラ奏者として室内楽を中心に活動している。弦楽合奏団アンサンブル「デュナミス」、アンサンブル山手バロッコメンバー。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
伊藤 弘祥(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリン、ヴィオラを演奏。また、同大学の日吉音楽学研究室主催の「古楽アカデミー」に、2010年より第一期生として参加し、バロック・ヴァイオリン、バロック・ヴィオラを演奏している。
榎本憲泰(クラシカル・ヴァイオリン)
学生時代は慶応バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後は各種オーケストラやアンサンブルに参加。大学の友人とともにアンサンブル・リンクス主催。
木村
久美(クラシカル・ヴァイオリン)
ヴァイオリンを森田玲子、森悠子、北浜怜子、バロック・ヴァイオリンを小池はるみの各氏に師事。ザロモン 室内管弦楽団メンバー。
山口 隆之(クラシカル・ヴィオラ)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
永瀬 拓輝(クラシカル・チェロ)
桐朋学園大学音楽学部器楽チェロ専攻卒業。東京藝術大学院音楽研究科修士課程古楽科バロック・チェロ専攻修了。 これまでにチェロを金谷昌治、花崎薫、倉田澄子の各氏に、バロック・チェロを武澤秀平、E・ジラール、酒井淳、鈴木秀美の各氏に師事。 現在、古楽アンサンブル「メリッサ・ムジカ」「クラングレーデ」メンバー。永瀬音楽教室及びアルル音楽教室チェロ科講師。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。
飯塚 正己(コントラバス)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典の各氏より指導を受け演奏を続けている。アンサンブル山手バロッコメンバー。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第93回演奏会
開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲と交響曲-II
Mozart’s Concertos and Symphony
with period instruments-II
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第100回
本日は横浜開港記念コンサート「古楽器の響きで味わうモーツァルトの協奏曲と交響曲-U」へお越しいただき、有難うございます。 2009年に横浜開港150周年の記念行事としてスタートした開港記念会館でのコンサート、 今回のテーマは昨年に続き、開港と共に日本に流れ込んだクラシック音楽の中でも、日本人に愛され続けてきたモーツァルトです。開港記念会館を、往時の劇場や貴族の館に見立てて、フォルテピアノや珍しいバセット・クラリネットなど当時の楽器の響きでコンサートを再現します。いにしえのウィーンの貴族や市民をとりこにした世界に、みなさまをご案内いたしましょう
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W.A.モーツァルト(1756-1791)は、オーストリアのザルツブルクで生まれ、幼少から父親レオポルトの英才教育と欧州各地の音楽先進地への音楽旅行を通じて、早くから演奏と作曲の才能を開花させ、30余年の短い生涯に多種多様なジャンルに多くの名曲を残しました。16歳の時にザルツブルクの宮廷楽団に就職しましたが、その後も就職活動を兼ねて欧州の都市への旅行を重ねました。25歳でザルツブルクの司教と決別し、ウィーンへ移りフリーランスの音楽家として教師、演奏、作曲と幅広く活躍しました。
今回のコンサートでは、1788年から亡くなる1791年までの栄光への歩みの4年間のモーツァルトに焦点を当てます。1787年末に皇帝ヨゼフ二世に直接仕える作曲家への任命が決定しました。念願の宮廷作曲家に就任した1788年から亡くなるまでの栄光への歩みの4年間に生み出された交響曲第39番とクラリネット協奏曲、その時代のインペリアル様式とも呼ぶべき作曲様式の特徴を先取りしたピアノ協奏曲 第23番を組合わせて演奏します。
1788年の栄光への契機とインペリアル様式
1787年11月、宮廷楽長として長くウィーンの音楽界の頂点に立っていたグルックが死去しました。皇帝は、グルックの持っていた職務を2つに分けて、サリエリとモーツァルトに与えました。サリエリは国立劇場の楽長として宮廷オペラの運営を担当、モーツァルトは宮廷作曲家として舞曲などの一部の作曲の義務以外は、皇帝付きの作曲家として自由度の高い役割を任せられました。ザルツブルクの定職を辞し、ウィーンに出てきたモーツァルトにとっては、皇帝に仕える作曲家という最高の地位と定職を得て、皇帝ヨゼフ二世に直接曲を届ける立場になったことは、大きなモチベーションになり、精力的に作曲活動を進めました。1788年から91年の4年間の活動は、完成までの作曲の生産性も高く、先々のためのスケッチや断片も多く残しており、晩年という意識はなく、未来への扉を開いたという意識が強かったとC.ヴォルフは解析しています。今回演奏する曲は、不幸にして病に倒れることがなければ、とどまることのなかったであろう強い想いとアイデアに溢れたものという認識で、コンサートプログラムを組みました。
インペリアル様式というのは、C.ヴォルフによって提案されたもので、1788年に皇帝付きの宮廷作曲家になったことを契機に、進めた作曲の新たなアイデアを盛り込んだ作曲の様式と定義しています。 つまり皇帝にささげる音楽として、主題ついては優美で滑らかなのが多く用いられる一方、ウィーンにおけるモーツァルトのバッハ体験を含む、これまでの学びを集約し、斬新で幅広い、大胆にして掘り下げられたアプローチを進め、曲全体の構成や主題の展開については、これまでにない実験的な対応を進めています。特に、1788年以降、大規模な器楽作品の印象深い系列的な作曲が始まり、まもなくそこに、三大交響曲が折り込まれるとしています。代表的な主題の工夫の例として、本日演奏する(この様式を先取りした)ピアノ協奏曲KV.488、三大交響曲のスタートのKV.543、最後の協奏曲となったKV.622を挙げています。代表的な主題の工夫の例として、本日演奏する(この様式を先取りした)ピアノ協奏曲KV.488、三大交響曲のスタートのKV.543、最後の協奏曲となったKV.622を挙げています。
コンサートでは、歴史的な建物である横浜市開港記念会館の講堂で、当時の様式の楽器(ピリオド楽器)、オーケストラ編成と演奏のスタイルを大切に演奏いたします。指揮者なしの演奏、交響曲での弦楽器と管楽器の親密な会話や協奏曲でのフォルテピアノとオーケストラの会話、また新たなバセットクラリネットの響きをお楽しみください。。
ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 KV.488
Piano Concerto in A major KV.488
アレグロ
– アダージョ – アレグロ・アッサイ
Allegro-Adagio-Allegro assai
ピアノ協奏曲第23番イ長調は、1786年にモーツァルトによって初演されましたが、トランペット、ティンパニ、オーボエを含まず、室内楽的な曲に仕立てられていて、クラリネットの音色を考えた曲になっています。R.レヴィンによるとこの曲で始まる1786年の3曲のピアノ協奏曲(イ長調KV.488、ハ短調KV.491、ハ長調 KV.503)は、3曲セットとして考えられました。この3曲は、感情的な質において、2年後に作曲される3曲の最後の交響曲との相似を感じさせます。
曲は、アレグロ(イ長調)- アダージョ(嬰へ短調)- アレグロ・アッサイ(イ長調)の3つの楽章からなりますが、全体にきめ細やかな情緒に溢れており、親しみやすい曲として仕上げられています。(最初に書き出したときに考えたオーボエをやめて)クラリネットがオーケストラに使われており、他の管楽器との組合わせも、控え目ですが洗練された伴奏が構成されており、フォルテピアノと弦楽器、管楽器との会話、オーケストラにおいても弦楽器と管楽器の会話を楽しめます。また、第1楽章にはカデンツァがあり、その効果を織り込み、続く第2、第3楽章はカデンツァなしで、一気に音楽を最後まで進めているのも、この室内アンサンブル的な特徴を持つ曲に相応しい構成です。
コンサートで使用する ワルターモデルのフォルテピアノ(製作 野神俊哉、2013年)
ソリストの荒川智美さんに聞いてみました・・・
Q: フォルテピアノとの出会い、のめりこむようになったきっかけや理由はありますか?
「高校生の時から、古楽好きの友人に誘われてチェンバロでアンサンブルをしたり、モーツァルトのフォルテピアノで録音されたCDが好きでずっと聴いたりしていて、無意識に身近に古楽がありました。実際に自分でフォルテピアノ を弾いてみたいと思ったのは、大学生の時に友人のレッスンについてアルペッジョーネソナタを弾いた時に、チェロの先生から一度フォルテピアノ
を弾いてみるよう勧められたのがきっかけです。その後副科でフォルテピアノ を専攻し実際に楽器に触れてみると、その弾き心地の良さと、楽器を目一杯鳴らして作品を表現出来るという快感さから、あっという間に惹き込まれました。」
Q: ピアノ協奏曲をフォルテピアノでピリオド楽器オケと一緒に演奏する楽しみはなんでしょう?
「モーツァルトは自分で演奏するためにピアノ協奏曲を作曲しました。当時のモーツァルトの演奏スタイルに少しでも近づけて演奏してみることで、作品の魅力をさらに発見できると思っています。例えば、モダンピアノでモーツァルトの協奏曲を演奏した場合には、ピアノがオーケストラに音量で負けることはおそらくないので、どうしても一種の余裕が生まれてしまいますが、フォルテピアノで演奏した場合は、奏者はお互いの音をよく聴き合わなければなりません。その緊張感から生まれる、楽器同士の生き生きしたやりとりができるところは、フォルテピアノとピリオド楽器だからこそ味わえる楽しみの一つだと思います。」
交響曲
第39番 変ホ長調 KV..543
Symphony No.39 in Eflat major KV..543
アダージョ/アレグロ- アンダンテ・コン・モート
- メヌエット(アレグレット)/トリオ - アレグロ
Adagio/Allegro– Andante con moto– Menuetto (Allegretto)/Trio – Allegro
交響曲第39番変ホ長調(KV.543)は、モーツァルト32歳の1788年6月に作曲されました。モーツァルトの三大交響曲と呼ばれる39番(変ホ長調)、40番(ト短調)、41番(ハ長調)は3カ月余りで完成しました。最近の研究により、この3曲は3部からなるセットで、それぞれの性格が全く異なる曲でありながら、動機や構成、和声など多様性と統一を意図したものだと考えられるようになりました。ニコラウス・アーノンクールはこの3曲を「器楽によるオラトリオ」と呼び、39番の導入から、ト短調を経て、41番のフーガへと終結される言葉のない宗教劇だと考えて、3つをセットで録音し、コンサートでもひと続きで演奏していました。
また、J.v.インマゼールは「この3部作で人の表現のすべての側面を表現している」と述べており、栄光の年のモーツァルトは楽天的に、前向きにこの3部作を生み出し、最初の第39番は、室内楽的な輝きを放つ曲、第40番は器楽によるオペラ的な曲、第41番はバロック的な様式をもつ曲と分析しています。第39番の現代における人気は他の2曲に及びませんが、今回、古楽器による変ホ長調の弦楽の響きとクラリネットを含む管楽器の響きの組合せを、小さな空間で味わうことで新しい魅力が感じられ、モーツァルトと同時代の音楽家が「歌詞を伴わないが、歌詞がある曲より大きな表現力がある」と絶賛したのも、納得できました。今回の演奏では、トランペット、ティンパニなしで演奏し、より親密な響きを追求しています。
アンサンブル山手バロッコのメンバーに聞いてみました。
Q: モーツァルト時代のオーケストラは、現代と異なる楽器を使っていたそうですが、どのような編成で演奏し、舞台配置はどうなっていたのでしょうか?
「当時の弦楽器はガット弦、管楽器もキーの少ない木管楽器やバルブのないクラシカル・ホルンといった軽やかな音色が現代楽器とは大きく異なる点と思います。フォルテピアノも現代のピアノに比べるとずっと軽やかで立ち上がりの良い音を響かせます。オーケストラのサイズは、第1ヴァイオリンが2から6人程度が一般的でしたが、随分小さな規模もあったようです。管楽器は弦楽器の本数にかかわらずほぼ一定(各パート1本)であったことが分かっています。私たちの今回の編成は、当時の編成に近く、管楽器もほぼ当時のバランスです。また、通奏低音については、当時は殆どのオケで利用されています。指揮者はなくコンサートマスターを中心に、作曲者自身が鍵盤楽器につくというケースが多かったためと考えられています。私たちも指揮者なしで演奏しますので、通奏低音(鍵盤)楽器は重要と考え、フォルテピアノで通奏低音を演奏します。」
コンサートミストレスを担当の小野萬里さんに聞いてみました。
Q: コンサートミストレスを担当、指揮者なしの演奏会ですが、リハーサルに参加されていかがでしたか。またピリオド楽器でのモーツァルトの交響曲や協奏曲の愉しみはどんなところにありますか?
「コンチェルトでは、ソリストの音をよーく聴き、また見ていると、音楽になっていく感じでした。シンフォニーでは、はじめは交通整理がいるのではと思いましたが、結局は、モーツァルトの書いた楽譜を、ゆっくり和音を確かめたり、展開の仕方を前と比べてみたり理解するのにたくさん時間を使つたようです。オクターブがどんな効果を生むのか、一つの臨時記号がどんな色で現れてみんなをどこへ連れて行くか。私達はもともとがそうであるように自発的で勇敢な練習をしました。当時の楽器でのアンサンブル、今回のような実験が楽しい結果に終わって、明らかになるだろうとおもいます。さてどうなりますか。
」
バセット・クラリネット協奏曲 イ長調 KV.622
Basset Clarinet Concerto in A major KV.622
アレグロ
– アダージョ –ロンド(アレグロ)
Allegro-Adagio-Rondo(Allegro)
モーツァルトのバセット.クラリネット協奏曲は、最後の協奏曲として知られている名曲ですが、作曲の契機となったクラリネットの名手とモーツァルトの出会いでは、名曲だけでなく、新たな楽器の変化も生み出していました。クラリネット協奏曲は、モーツァルトが名手で友人であるアントン・シュタードラーのために1791年に作曲した名曲中の名曲。低音が拡張され、独特の外形を持ったバセット.クラリネットのために作曲された曲を、今回はオリジナルな形で演奏します。伴奏のオケもクラシカル・フルート、クラシカル・ファゴット、クラシカル・ホルンと弦楽という構成で、ソロとも親密で室内楽的な関わり合いに特徴があると思います。モーツァルト最後の協奏曲を指揮者なしで、親密に演奏します。
ソリストの満江菜穂子さんにうかがってみました・・・
朝岡聡さんと満江菜穂子さんでモーツァルト時代のバセット・クラリネットの紹介
Q: 古典クラリネットとの出会い、のめりこむようになったきっかけや理由はありますか?
「過去の音楽を演奏するにあたって、その時代の様式について深く知りたいと思い、知るための手がかりの1つが『その時代の楽器』だったのです。実際に演奏してみると遠い過去の音楽や作曲家をより身近に感じることができ、より共感できるようになりました。」
Q: 演奏するバセット.クラリネットでの協奏曲は、知られているモーツァルトのクラリネット協奏曲と何が違いますか?
「今回わたしが演奏する楽器は、1794年の演奏会プログラムに掲載されていた楽器のイラストから復元された楽器で、普通のクラリネットよりも低い音を出すことができます。その音域を使うことによって、低い音の男性的なキャラクターと、高い音の女性的なキャラクターとを、はっきりと分けて表現することができます。まるでオペラで1人2役を演じているように感じています。」
Q: モーツァルトの協奏曲はどんな存在ですか。指揮者なしのピリオド楽器オケと一緒に演奏する楽しみは何ですか?
「私にとってこの作品は『人生の道しるべ』です。この作品を深く知りたいと願ったからこそ出会えた人・物・場所がたくさんあります。オランダ留学もそのうちの1つです。この作品を指揮者なしで演奏するのはこれが初めてです。おそらくモーツァルトが生きていたころは『指揮者』という人はいなかったでしょうから、よりその時代に近いシチュエーションで演奏できるのが楽しみです。」
参考文献
1)海老澤 敏/モーツァルト事典(東京書籍、1991年)
2) C.Wolff / Mozart at the Gateway to His Fortune: Serving the Emperor, 1788-1791 (W.W.Norton & Company, 2012)
3) R.L.Marshall / Mozart‘s Unfinished – Some Lessons of the Fragments(Bach and Mozart, Univ. of Rochester Press,2019)
4) R.D.Levin / Mozart’s Keyboard Concertos (Eighteen-Century Keyboard Music, Routledge, 2003)
5) A.Hutchings / A Companion to Mozart’s Piano Concertos (Oxford University Press, 1948/reprit2001)
6) N.Zaslaw / Mozart’s Symphonies- Context, Performance Practice, Reception (Oxford University Press, 1989)
7) C.Lawson / Mozart Clarinet Concerto (Cambridge University Press, 1996)
(プログラムノート 曽禰寛純)
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