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89th Concert
アンサンブル山手バロッコ第89回演奏会
(中止に伴う試演会 3月20日@百段音楽室)
西洋館で味わう「モーツァルトのピアノ」
Mozart's Fortepiano Salon Concert
横濱・西洋館de古楽2020
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第96回
2020年3月28日(土) 14:00 横浜イギリス館 (中止に伴う試演会 3月20日)
出演
小野 萬里(クラシカル・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。現在、「チパンゴ・コンソート」、「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。
大村 千秋(フォルテピアノ)
東京藝術大学大学院古楽科を大学院アカンサス賞を得て修了。2009年度文化庁新進芸術家海外研修員としてオランダに留学、アムステルダム音楽院チェンバロ科およびフォルテピアノ科にて学ぶ。第21回古楽コンクール山梨において最高位受賞。帰国後は、チェンバロのみならず、フォルテピアノ、クラヴィコード、ポジティフオルガン等様々な鍵盤楽器に取り組み、ソリストとして、また通奏低音・アンサンブル奏者として演奏を行うほか、後進の指導にも力を注いでいる。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。http://www.chiakiomura.wordpress.com
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
曽禰 寛純(フラウト・トラヴェルソ)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で学び、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。 現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。
アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
黒滝泰道(チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。アンサンブル山手バロッコメンバー。
アンサンブル山手バロッコ第89回演奏会
西洋館で味わう「モーツァルトのピアノ」
Mozart's Fortepiano Salon Concert
横濱・西洋館de古楽2020
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第96回
プログラムノート
(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)
本日はコンサート「西洋館で味わうモーツァルトのピアノ」へお越しいただき有難うございます。横浜市イギリス館は、1937年に、英国総領事公邸として建設された由緒ある建物です。広々としたテラスで芝生の庭につながる素晴らしい客間で、モーツァルトの愛したワルターモデルのフォルテピアノを中心に、当時の様式のフルート、ヴァイオリンとチェロによるアンサンブルの響きで18世紀のサロンコンサートをご一緒に味わいましょう。
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モーツァルトとフォルテピアノ
W.A.モーツァルト(1756-1791)は、ザルツブルクで生まれ、幼少から父親レオポルトの英才教育と欧州各地の音楽先進地への音楽旅行を通じて、早くから演奏と作曲の才能を開花させ、30余年の短い生涯に多種多様なジャンルに多くの名曲を残しました。16歳の時にオーストリアの地方都市ザルツブルクの宮廷楽団に就職しましたが、その後も就職活動を兼ねて欧州の都市への旅行を重ねました。25歳でザルツブルクの司教と決別し、ウィーンへ移りフリーランスの音楽家として幅広く活躍しました。
モーツァルトがフォルテピアノといつ出会ったかは正確にはわかっていませんが、モーツァルトの時代は、それまでのチェンバロ(クラヴサン、ハープシコード)からフォルテピアノ(フォルテとピアノが演奏できるチェンバロということに由来)の時代に変化する時代でした。最初に鍵盤楽器を学んだザルツブルクで弾いたのはチェンバロと考えられていますが、幼少期のパリやロンドンへの旅行では、フォルテピアノとの出会いや、人気作曲家であったヨハン・クリスチャン・バッハ(J.C.バッハ)と知り合い、新しい時代の音楽の流れやフォルテピアノの活躍する曲にも接したはずです。その後のマンハイム、パリ旅行では、アウグスブルクの製作家ヨハン・アンドレス・シュタインの楽器に巡り合い、その楽器の可能性を父親に興奮して報告した手紙を残しています。その後、ウィーンに移り住んだのちは、ウィーンの製作家アントン・ワルターのフォルテピアノに出会い、その楽器を愛機として、作曲、教育やコンサート活動にも使い続けました。本日は、このワルターモデルのフォルテピアノを中心に、若きモーツァルトのピアノを中心としたアンサンブルをお届けします。
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W.A.モーツァルト(1756-1791)
W.A.Mozart
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ ト長調 KV 301
Sonata for Violin and Fortepiano in G-Major KV 301
アレグロ・コン・スピーリト - アレグロ
Allegro con Spirito - Allegro
1778年22歳のモーツァルトは、マンハイムに旅行し、ダイナミックな演奏と管弦の名手をかかえ欧州中に有名だったオーケストラで、自作プログラムを演奏するコンサートを開催し、大喝采を浴びました。またその後、パリ訪問をし、有名なコンセール・スピリチュエルの支配人と親交をもち、交響曲「パリ」の作曲、協奏交響曲の作曲など成功をおさめ、パリを訪問中の尊敬するJ.C.バッハとの再会も果たしました。一方で最愛の母、マリア・アンナが病気で急死しました。ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ ト長調 KV 301 、ホ短調 KV 304の二曲は、この年に作曲されたもので、同年の11月に6曲のセットとしてパリで出版されました。
ト長調のソナタは、曲集の巻頭をかざるのびやかで、活気あふれる曲です。 2つの楽章からなり、第1楽章は、ヴァイオリンのソロで主題が提示された後、フォルテピアノ、ヴァイオリンそれぞれの特長を生かした、独奏やアンサンブルが続き、成熟した作曲技法を習得していることが分かります。それに続き、短調の中間部を持つロンド形式の第2楽章で曲を閉じます。
W.A.モーツァルト(1756-1791)
W.A.Mozart
フォルテピアノ、フルート、チェロのためのソナタ イ長調 KV 12
Sonata for Fortepiano、Flute and
Violoncello in A-Major KV 12
アンダンテ - アレグロ
Andante – Allegro
8歳になったモーツァルトは、父レオポルトにつれられて、パリとロンドンに長期の旅行に出かけ、王室や貴族の館で神童ぶりを披露しました。ロンドンでは、J.C.バッハを教師として雇い、歌と鍵盤楽器が堪能だった英国王室のシャーロット王妃に謁見しました。フォルテピアノ、フルート、チェロのためのソナタ イ長調 KV 12は、ロンドン訪問の際に作曲され、翌年出版しこの王妃に景帝された6曲のフルートまたはヴァイオリン、チェロの伴奏のついたフォルテピアノのためのソナタの中の1曲です。イ長調のソナタは、しゃれた旋律をフォルテピアノが奏で、3連符でフルートとチェロが伴奏する2部形式の第1楽章に、ロンド形式の第2楽章の2つの楽章の2楽章構成となっています。
W.A.モーツァルト(1756-1791)
W.A.Mozart
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ ホ短調 KV 304
Sonata for Violin and Fortepiano in e-minor KV 304
アレグロ - テンポ・ディ・メヌエット
Allegro - Tempo di Menuetto
ト長調と同じ曲集に含まれる、ホ短調のソナタは、2楽章構成です。分散和音となだらかな旋律を組み合わせたモーツァルトに特徴的な主題ではじまる第1楽章、第2楽章は、古風なバスの上に、さまざまな感情が交錯し、激しさや微妙なニュアンスも保ちつつ静かに曲を閉じます。(マンハイムでの失恋、パリでの母の死や就職活動の挫折などをこのモーツァルト唯一の短調のヴァイオリンソナタと結びつける人もいますが、モーツァルトの音楽への向き合い方を考えると当たらないと思います。)
W.A.モーツァルト(1756-1791)
W.A.Mozart
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ KV 377 へ長調
Sonata for Violin and Fortepiano i n F-Major KV 377
アレグロ - アンダンテ(主題と変奏) - テンポ・ディ・メヌエット
Allegro grazioso - Thema (andante) con variazioni - Tempo di minuetto
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ KV 377 へ長調は、本日演奏する曲の中では、もっとも年長の25歳(1781年)に作曲された曲で、ウィーンで作曲・出版された曲集に含まれています。僅か数年の差ですが、熟練かつ先進的な曲で、ザルツブルクと父親から離れ、独立した音楽家としての未来が開かれたことを感じさせます(翌年、結婚し、ウィーンに定住した年には、オペラ(ジングシュピール)「後宮からの誘拐」、弦楽四重奏「ハイドンセット」や「ハフナー」交響曲など、代表的な意欲作が生み出されていきます。)
さて、ヘ長調のソナタは、本日演奏の他の曲と異なり、3つの楽章から構成された作品で、主題を深く刻み込み展開する第1楽章、バラエティに富んだ変奏を駆使する第2楽章、そして、メヌエット/トリオ/メヌエットの伝統的な舞曲を下敷きにしながら、主題を材料とした展開が見事な第3楽章からなります。
W.A.モーツァルト(1756-1791)
W.A.Mozart
フォルテピアノ、2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ト長調 KV 107-2
Concerto for Fortepiano, Two Violins and Violoncello in G-Major KV
107-2
アレグロ - アレグレット
Allegro – Allegretto
フォルテピアノ、2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ト長調 KV 107-2は、ロンドンで知り合い、終生尊敬した作曲家で鍵盤楽器の名手J.C.バッハが、1768年に出版した「6つのフォルテピアノ・ソナタ 作品5」を、モーツァルトが14歳となった1770年ころに、2つのヴァイオリンとチェロの伴奏パートを追加して協奏曲に仕立てたものです。この曲集からモーツァルトは3曲を協奏曲にしていますが、そのうちの2曲目(ト長調)が本日お聴きいただく曲です。曲は2つの楽章から構成されていて、最初の楽章はモーツァルトのピアノソナタを思い起こさせるような主題で始まる快活な楽章。第2楽章は主題と4つの変奏からなる変奏曲。第2から第4変奏は、元となったフォルテピアノ・ソナタの音楽に、弦楽器による変化のある伴奏や掛け合いを組み入れた、しゃれた作りになっています。
最後に、フォルテピアノについて、モーツァルトが演奏したフォルテピアノにはいくつかのタイプがありますが、本日演奏するフォルテピアノはウィーンのワルターの楽器をモデルに、製作者野神俊哉さんにより2013年に製作されたものです。構造的にはそれまでのチェンバロの木の響板やボディーを継承しています。現代のピアノに比べてはるかに軽いハンマーやシンプルなアクションにより、軽やかで素早い反応ができ、音の立ち上がりも速いですが、一方で音の減衰は速く、音量はそれほど大きくありません。 チェンバロと同じように低音の弦と高音の弦が平行に張られているため、音の濁りがなく、低音と高音のバランスが良く、ガット弦の弦楽器とのアンサンブルのバランスも良いと感じています。
参考文献:
海老沢敏ほか/モーツァルト辞典 東京書籍(1991)
三國正樹/モーツァルトのピアノ協奏曲 モーツァルト・スタディーズ 玉川大学出版(2006)
K.Komlos/Mozartthe
Performer, Cambridge Companion to Mozart (2003)
R.Levin/ Performance Practice in the Music of Mozart,
Cambridge Companion to Mozart (2003)
その他、これ迄のアンサンブル山手バロッコのプログラムノートも参考にいたしました。
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