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88th Concert
アンサンブル山手バロッコ第88回演奏会
西洋館で味わう
西洋館で味わう
バッハ チェンバロ協奏曲 1・2・3・4
“Cembalo Concerto” with
1,2,3,4 solo instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第95回
横濱西洋館de古楽2020
2020年2月11日(火・祝)14時開演(13:30 開場) 横浜山手聖公会聖堂
14:00 11th Feburuary
2020 at Yokohama-Yamate Seikoukai
Curch
主催:「横濱・西洋館de古楽」実行委員会
出演
寺村 朋子(チェンバロ)
©篠原栄治
東京藝術大学チェンバロ科卒業。同大学大学院修士課程修了。チェンバロと通奏低音を山田貢、鈴木雅明の両氏に師事。第7回国際古楽コンクール山梨にてチェンバロ部門第2位入賞。イタリア、オーストリア、ベルギーなど国内外のアカデミーに参加して研鑽を積む。NHK「FMリサイタル」に出演。その他様々な分野で多くの団体と演奏活動を行うほか、楽譜の出版も行っている。チェンバロソロCD「Capriccioお気に召すまま」(レコード芸術準推薦)リリース。宮地楽器小金井アネックス・チェンバロ科講師。日本チェンバロ協会会員。
大村 千秋(チェンバロ)
研修員としてオランダに留学、アムステルダム音楽院チェンバロ科およびフォルテピアノ科にて学ぶ。第21回古楽コンクール山梨において最高位受賞。帰国後は、チェンバロのみならず、フォルテピアノ、クラヴィコード、ポジティフオルガン等様々な鍵盤楽器に取り組み、ソリストとして、また通奏低音・アンサンブル奏者として演奏を行うほか、後進の指導にも力を注いでいる。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。http://www.chiakiomura.wordpress.com
小野 萬里(バロック・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。現在、「チパンゴ・コンソート」、「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。
片桐 恵里(バロック・ヴァイオリン)
東京藝術大学卒業。同大学院修了。埼玉県新人演奏会に出演。ヴァイオリンを掛谷洋三、浦川宜也、の各氏に、バロック・ヴァイオリンを小野萬里氏に、室内楽をピュイグ・ロジェ、ルイ・グレーラーの各氏に師事。古楽トリオ「ヴィアッジョ・ムジカーレ」メンバー。室内楽、古楽アンサンブルを中心に活動している。
曽禰 寛純(フラウト・トラヴェルソ)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で学び、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
原田 純子(バロック・ヴァイオリン)
洗足学園音楽大学卒業。ヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏に師事。慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後古楽器での演奏に興味を持ちバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを渡邊慶子氏に師事。弦楽合奏団アンサンブル「デュナミス」、アンサンブル山手バロッコメンバー。
山口 隆之(バロック・ヴァイオリン)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川 有沙(バロック・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
近藤 良子(バロック・ヴィオラ)
洗足学園音楽大学、同大学院ピアノ専攻修了。現在自宅などでピアノ講師を務める他、演奏活動も行う。ヴィオラは中学から副科として始め、アマチュアオーケストラやアンサンブルなどで演奏。
中尾 晶子(バロック・チェロ)
チェロを佐々木昭、アンサンブルを岡田龍之介、花岡和生の各氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー
飯塚 正己(コントラバス)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典の各氏より指導を受け演奏を続けている。アンサンブル山手バロッコメンバー。
和田 章(チェンバロ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。
アンサンブル山手バロッコ第88回演奏会
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バッハ チェンバロ協奏曲 1・2・3・4
“Cembalo Concerto” with
1,2,3,4 solo instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第95回
横濱西洋館de古楽2020
プログラムノート
(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)
横浜山手聖公会は日本の開国時期からの歴史を持ち、現在の教会も震災や火災の困難を受けましたが、60年以上山手の代表的な教会のひとつとして親しまれています。本日は、この由緒ある教会で、J.S.バッハ(1685〜1750)のチェンバロ協奏曲を、1台、2台のチェンバロ、チェンバロを含む3つの楽器をソロ楽器とする協奏曲と、4台のチェンバロ協奏曲の原曲の協奏曲をお聴きいただきます。響き豊かな聖堂で、様々な組み合わせ、趣向で味わう音楽のひととき。どうぞお楽しみください。
♪ ♪ ♪
バッハとチェンバロ協奏曲
バッハ(1685-1750)は1722年にライプツィヒ市の音楽監督に就任し、教会音楽の監督として、1750年に亡くなるまで、教会での礼拝をはじめとして市の宗教的行事に音楽を提供しつづけました。一方で、君主や貴族に向けて表敬の音楽を提供したり、台頭してきた市民階級の楽しみの音楽を提供したり、幅広く活動をしました。「しばらく中断していた、バッハ氏率いるコレギウム・ムジクムによる素晴らしい演奏会が、再開される予定。17日水曜日の午後4時から、グリムシュタイン通りのツィンマーマンの庭園にて。当地ではまだ演奏されたことのない新しいチェンバロが披露されるとのこと、音楽愛好家も専門家も大いに期待されたし」
これは1733年にライプツィヒで発行された新聞の記事の一節です。コレギウム・ムジクムはライプツィヒ大学の学生を中心とする合奏団。ツィンマーマンは有名なコーヒーハウス(当時ヨーロッパ中で流行したコーヒー専門の喫茶+娯楽施設)経営者で、彼の店や庭園で毎週開かれたこのコーヒー付コンサートは、ライプツィヒの街の呼び物となっていました。記事にある「新しいチェンバロ」を弾いたのはもちろんバッハ自身です。ここでは、バッハ自身の作曲の協奏曲、ソナタや独奏曲、カンタータなどが演奏されましたし、記録によれば、ヘンデルやテレマン、イタリアのヴィヴァルディの曲なども演奏され、当時台頭し始めた富裕な商人などの市民の楽しみの場を提供していたのでした。 この記事に紹介されているバッハのチェンバロ協奏曲は、独奏チェンバロが1台のものから4台のものまで、13曲が現存しています。(チェンバロを独奏楽器とした世界で最初の協奏曲は、ケーテン時代の1718年頃に作曲された有名なブランデンブルク協奏曲の第5番であるといわれています。)これらのチェンバロ協奏曲は、この音楽会でバッハ自身が(ときには息子達と一緒に)腕前を披露するために書かれたと思われます。同時代の作曲家に比べバッハがチェンバロを独奏楽器とした協奏曲をこれほど残しているのは、このためなのでしょう。その曲を調べてみると、このうちの何曲かは自作やヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲の編曲であり、残りの曲もほとんどは旋律楽器のための失われた協奏曲の編曲だろうと考えられています。
J.S.バッハ
Johann Sebastian Bach
2台のチェンバロのための協奏曲 ハ長調 BWV1061
Concerto in C-major for two Harpsichords BWV1061
アレグロ - アダージョ または ラルゴ - フーガ
Allegro - Adagio ovvero Largo
- Fuga
その中でただ1曲、最初からチェンバロを独奏楽器として選び、その特徴・性能をフルに発揮するように書かれたのが、2台のチェンバロのための協奏曲 ハ長調 BWV1061です。バッハ自身とコンビを組んで妙技を披露したのは長男のウィリアム・フリーデマン・バッハだったのでしょうか。全曲を通じてチェンバロの華麗な技巧が駆使され、絶大な演奏効果を上げています。一方、弦楽合奏には小さな役割しか与えられていないので、初めは2台のチェンバロだけで演奏する曲として書かれ、弦楽パートは後から追加されたのではないかと考えられています。2つのチェンバロを中心に協奏曲特有の(全奏と独奏が交互にでてくる)リトルネロ形式の第1楽章で始まり、第2楽章はチェンバロ2台だけで4つの声部が巧みに絡み合います。第3楽章は広い音域を活発に動く長大なテーマによるフーガです。
J.S.バッハ
Johann Sebastian Bach
フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1044
Concerto in A-minor for Harpsichord, Flute, and Violin BWV1044
アレグロ - アダージョ・マ・ノン・タント・エ・ドルチェ - アラブレーヴェ
Allegro - Adagio ma non tanto e dolce - Alla breve
次に演奏する、フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1044も、他の曲と同じようにこのコレギウム・ムジクムで演奏されたものと考えられています。この組み合わせの3つの楽器が独奏を受け持つ曲として、ブランデンブルク協奏曲の第5番を思い起こしますが、その由来も音楽的にも全く違った特徴を持っています。チェンバロ協奏曲と同様、旧作を基にして作られました。チェンバロ独奏用の「プレリュードとフーガ イ短調」BWV894のプレリュードは第1楽章に、フーガは第3楽章に使われました。第2楽章にはオルガン独奏用の「トリオソナタ第3番」BWV527の第2楽章が転用されています。協奏曲への編曲に際して、大幅に補充・拡大され、より緻密で緊張感あふれる曲となっています。第2楽章は3声が4声に拡大され(ブランデンブルク協奏曲第5番のように)3つの独奏楽器だけで演奏されます。
すべての楽章がバッハ自身による編曲とされていますが、チェンバロ奏者のG.レオンハルトは、この曲は、チェンバロの音域が唯一、チェンバロ協奏曲で使われていない上のF(ファ)までが必要とされること、ピチカート伴奏などバッハの様式感と異なること、また演奏していてバッハ独特の密度を感じないことから、演奏用の筆写譜を準備した弟子のミューテルなどバッハの次の世代の手による編曲ではとないかと考えていたそうです。一方、最近の研究成果を踏まえ、指揮者のJ.E.ガーディナーは、本編曲が晩年のバッハのドレスデンやポツダム訪問の際に披露するように、ギャラントなこれらの宮廷の音楽の特徴を取り入れて準備されたものではないかと推定しています。名曲であることには何の変わりもありませんので、楽しんでお聴きいただき、曲の陰に隠れた秘密についても、みなさまご自身の推理でお楽しみください。
♪ ♪ ♪
A.ヴィヴァルディ
Antonio Vivaldi
4台のヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調 「調和の霊感」作品3-10
Concerto in B-minor for four Violins, Violloncello
and Strings, Op.3-10 ”L'estro armonico” RV580
アレグロ - ラルゴ/ラルゲット - アレグロ
Allegro - Largo/ Larghetto - Allegro
バッハのチェンバロ協奏曲の中で最大の編成である4台のチェンバロのための協奏曲は、ヴィヴァルディ(1678-1741)の4台のヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ロ短調の編曲であることがわかっています。この曲は、バッハがワイマールの宮廷に使えていた時期に知った、ヨーロッパ全体を震撼させるほど斬新で有名となったヴィヴァルディの合奏協奏曲集「調和の霊感」の中の曲です。原曲の4台のヴァイオリンとチェロの独奏パートを4台のチェンバロの右手に当てはめ、対旋律や内声を加え厚みの有る曲に仕上げています。
本日は、ヴィヴァルディの書いた原曲の形でお楽しみください。ヴィヴァルディの原曲は、明快な旋律と特徴あるヴァイオリンの音色の取り扱いが魅力的です。独奏ヴァイオリンとチェロがそれぞれ腕前を発揮する活気に溢れた第1楽章、4つのヴァイオリンの独自の分散和音のフレーズを積み重ねることで全体が豊かな織物のように作られている、ゆったりとした第2楽章、再びソロの妙技が光る、流れるような第3楽章、の3つの楽章より構成されています。
J.S.バッハ
Johann Sebastian Bach
チェンバロ協奏曲 ホ長調 BWV1053
Concerto in E-major for Harpsichord BWV1053
アレグロ - シシリアーノ - アレグロ
Allegro - Siciliano -
Allegro
最後にお聴きいただくチェンバロ協奏曲 ホ長調 BWV1053は、1台のチェンバロのための協奏曲の2曲目です。1726年の2曲のカンタータに3つの楽章と同じ曲が使われていますが、チェンバロ協奏曲との関係は明確になっておらず、新バッハ全集ではチェンバロ協奏曲は、失われたオーボエまたはフルートのための協奏曲からの編曲としています。G. バトラーは、この曲が、ヴィヴァルディをモデルにしたものでなく、アルビノーニの作品4の協奏曲(1722)をモデルとしていること、したがってまた、初期の作品の改作ではなく、原曲となった旋律楽器のための協奏曲はライプツィヒに移ってからの作品であるとしています。
さらに最近、C.ヴォルフはチェンバロ協奏曲の最初の2曲(二短調BWV1052とこのホ長調BWV1053)はバッハによりオルガンのために作曲された鍵盤のための協奏曲であると論考しています。その理由は、バッハのドレスデン訪問での記録に「(1725年9月にドレスデンを訪問した)バッハはこの地のソフィア教会でコンサートを開き、弦楽伴奏でコンチェルトを演奏し、それは一時間以上の長きにわたり妙技を披露し、宮廷の名手や市民に大評判を博した」とあるからです。すなわち、バッハは、いろいろな調性でも美しく響く(Wohl)ことで有名なソフィア教会のオルガンで、旧知のヴァイオリンの名手ピゼンデルがコンサートマスターを務めるドレスデンの宮廷楽団の素晴らしい伴奏とともに、♭1つのニ短調に加え、#4つのホ長調の協奏曲を演奏したのではないかと推定しているのです。バッハのチェンバロ協奏曲のなかでも第1番とこの第2番は、とりわけ入念なチェンバロ独奏パートとなっていますので、みなさまも、この曲の起源を思いを馳せながらお楽しみください。
使用楽器: チェンバロ: イタリアンタイプのチェンバロ 製作 堀栄蔵(1990)、島口孝仁(2003)
参考文献:
礒山雅ほか:バッハ辞典 東京書籍(1996)
W.Berg:“Composition as arrangement
and adaptation”, The Cambridge
Companion to Bach, Cambridge Univ. Press(1997)
G.Butler:“Bach the Cobbler,The Origins of J.S.Bach’s E-Major Concerto(BWV1053)”, Bach
Perspective Vol.7, University of Illinois Press(2008)
G.Butler:“J.S.Bach’s reception of Tomaso Albinoni’s mature
concertos”, Bach Studies 2, Cambridge University
Press(1995)
Ch.Wolff:”Did J.S.Bach
Write Organ Concertos? Apropos the Prehistory”, Bach
and the Organ, Univ. of Illinois Press (2016)
その他、これ迄のアンサンブル山手バロッコ・コンサートのプログラム・ノートも参考にいたしました。
アンコール
たくさんの拍手をいただきましたので
管弦楽組曲第3番(BWV1068)からエアをお聴きいただきます。
ありがとうございました。
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