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79th Concert
アンサンブル山手バロッコ第79回演奏会
西洋館で味わう
女流作曲家たちの詩
Baroque to Classical music of Women Composers
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第82回
2018年8月19日(日) 16時 山手111番館
16:00 19th August 2018 at Yamate Bluff 111
主催:アンサンブル山手バロッコ
出演
曽禰 愛子(メゾソプラノ)
鹿児島国際大学短期大学部音楽科、同専攻科卒業。洗足学園音楽大学大学院 音楽研究科修了。第 28 回鹿児島新人演奏会、第 85 回横浜新人演奏会出演。声楽を川上勝功、ウーヴェ・ハイルマン、ゲルト・テュルクの各氏に師事。現在、スイス バーゼル・スコラ・カントルム在学。ルネサンスからバロック、ロマン派のドイツリートなど幅広い時代の作品をレパートリーとし、ソリストとしてまた声楽アンサンブルメンバーとして活動して おり、ヨーロッパ各地でのコンサートに参加。バッハのカンタータ、 C.P.E.バッハ マニフィカート、C.グラウプナーのオラトリオのソリストをつとめる。ヴォーカルアンサンブル・ヴィクトリア、 Affetti mvsicali、 Capella Sacra、Ensemble SCOPRIAMOメンバー。
大村 千秋(チェンバロ、ピアノ)
東京藝術大学大学院古楽科チェンバロ専攻を大学院アカンサス音楽賞を得て修了。2009年度文化庁新進芸術家海外研修員としてオランダに留学、アムステルダム音楽院チェンバロ科およびフォルテピアノ科にて学ぶ。これまでに崎川晶子、大塚直哉、ボブ・ファン・アスペレン、リチャード・エガーの諸氏に師事。 第21回古楽コンクール山梨において最高位受賞。2011年に帰国後は、チェンバロ、フォルテピアノのソリストとして、また通奏低音奏者として国内外で活躍している。現在、桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。 http://www.chiakiomura.wordpress.com
アンサンブル山手バロッコ第78回演奏会
ギターと歌で巡る
バロック〜古典派の音楽
Baroque to Classical music of
Women Composers
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第81回
本日は「西洋館で味わう 女流作曲家たちの詩」にお越しいただきましてありがとうございます。今回の山手111番館サマーコンサートは、初期バロックからロマン派までの、女流音楽家や女性をテーマにした歌曲を中心にお届けいたします。
プログラムノート(出演者による)
B.ストロッツィ
Barbara Strozzi,(1619-1677)
愛の神よ、もう眠らないで Amor dormiglione
恋するヘラクレイトス L’Eraclito amoroso
本日最初にお届けする2曲は、バロック時代の有名な女流作曲家、バルバラ・ストロッツィ(Barbara Strozzi, 1619-1677)の作品です。彼女は自身の作品を出版した初めての女流作曲家とも言われています。当時のイタリア・ベネツィアで著名な知識人であった父親の援助を受けながら、サロンで一流の文化人たちと交流を持ち、歌手及び作曲家としてそのキャリアを築いていきました。作品の大半は自らが歌うために作曲したと推測されるモノディ様式(バロック時代初期に確立され後にオペラのレチタティーヴォへと発展した、独唱に伴奏楽器を伴ったスタイルの作品)の声楽曲で、歌詞に即した表現や抒情的な作風が独特です。
可愛らしいメロディの印象的な「愛の神よ、もう眠らないで」とは対照的に、「恋するヘラクレイトス」は”ラメント Lamento”と呼ばれるジャンルのひとつであり、伴奏の低音部で何度も繰り返される下降する4つの音(オスティナート・バス ostinato bassと呼ばれる)の上で、恋人に裏切られた女性の嘆きが切々と歌われます。
S.ディンディア
Sigismondo D’india (1582-1629)
悲しみの乙女 Piange Madonna
シジスモンド・ディンディア(Sigismondo D’India, 1582-1629)もこうしたモノディ様式の声楽曲を数多く残した作曲家です。ストロッツィよりも少し前、ちょうどルネサンス音楽とバロック音楽の過渡期であったこの時代に生きた彼は、まさしくこういった独唱のスタイルの確立と発展に大きく寄与した人物でした。「悲しみの乙女」は、かつて自分の愛を拒絶した女性が涙する姿の中に復讐の喜びを見出す、という矛盾した複雑な思いを、鋭い音のぶつかりやハーモニー、細かいリズムなどによって装飾し、魅力的に描いた作品です。
H.パーセル
Henry Purcell (1659-1695)
憐れみ深き天使よ、我に告げよ Tell me, some pitying angel
”女性”というモチーフは今も昔も、多くの歌曲でテーマとして扱われ歌詞の中に登場しますが、それは何も愛や恋を歌った世俗曲に限ったことではありません。イギリスで活躍したヘンリー・パーセル(Henry Purcell, 1659-1695)は、宗教的な内容の作品において女性を主人公においた作品を残しました。宗教作品において用いられる女性像といえば、聖母マリアです。「憐れみ深き天使よ、我に告げよ」は聖書のルカによる福音書第2章に基づいた内容で、幼子イエスと神殿ではぐれてしまった聖母マリアの苦悩を描いています。一人の若い女性が経験した母になった喜びと希望、そして守護者ガブリエルへの苦悩の訴え、恐れと絶望の入り混じった思い、という激しい感情の移り変わりを、バーセルはロンドンの劇場で培ったドラマティックなセンスをふんだんに用いて描きました。
G.F.ヘンデル
George Friedrich Händel (1685-1759)
歌劇『ジュリアス・シーザー』より「心の支えを全てなくし」‘Priva son d’ogni conforto’ (from “Giulio Cesare”)
シャコンヌ ト長調 Chaconne in G major HWV435
劇場、すなわちオペラの世界へと目を向ければ、もちろんそこにもたくさんの女性のキャラクターたちが登場します。バロック時代のオペラやオラトリオなど、劇場用音楽の重要な作曲家であるゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデル(George Friedrich Händel, 1685-1759)は、ドイツ出身ながら後にパーセルの活躍したイギリス・ロンドンへと移り住み、多くのオペラ作品を残しました。歌劇『ジュリアス・シーザー』は1724年にロンドンで初演された作品で、物語は紀元前48-47年のローマ将軍ユリウスカエサルのエジプト遠征における、エジプト女王クレオパトラやその弟で国王であるトロメーオとの関わりを描いたもの。登場人物は実際の史実に基づいてはいるものの、物語の筋の詳細はフィクションとなっています。
今回歌うのは主人公であるシーザーに敗れた政敵のポンペーオの妻、コルネリアのアリアです。物語の冒頭、息子のセストとともにシーザーの前に現れて和平を願い出、承諾を受けるものの、そこにエジプト国王トロメーオの使いの将軍が現れ、シーザーへの貢ぎ物としてポンペーオの首が差し出されます。無残な夫の死を目にしたコルネリアは絶望し、息子の剣をとって夫のあとを追おうとしますが周囲に止められ、死ぬことすら叶わない、と深い絶望を嘆きます。
同じくヘンデル作曲のシャコンヌは、8小節の主題と21の変奏から成るチェンバロソロ曲です。シャコンヌとは、バスに主題を持つ気品高くゆったりとした3拍子の舞曲で、もともとは劇場で踊られていました。それが器楽曲としても発展を遂げ、変奏曲としてヨーロッパ中で大流行しました。ヘンデルによるこの作品は様々な技巧を駆使することにより、チェンバロならではの華やかな音 色を効果的に描き出しています。
C.シューマン
Clara Shumann (1819-1896)
美しさゆえに愛するのなら Liebst du um Schönheit
何も言わない蓮の花 Die stille Lotosblume
『ジュリアス・シーザー』が演奏された18世紀の世界からもう少し歩みを進めて、19世紀の音楽の世界をみてみると、そこにも一人の有名な女流作曲家がいます。ドイツリートの大家、ロベルト・シューマンの妻、クララ・シューマン(Clara Shumann, 1819-1896)です。彼女は当時の指折りの名ピアニストでありがなら、母としても8人の子を育て、さらに夫ロベルトの作品の編集やマネジメントを行い、なおかつ作曲家としてもいくつかの作品を残しました。彼女の作曲手法は夫であるロベルトの影響ももちろん受けていましたが、それをおいても彼女の作品には彼女独自の繊細でユニークな音楽手法が溢れています。
「美しさゆえに愛するのなら」は女性が自身の恋人に、美しさや若さ、豊かさではなく、ただ愛のために愛して欲しいのだと歌う短いながらも美しい歌曲。「何も言わない蓮の花」は、湖に浮かぶ蓮の花と、その蓮の花の周りを泳ぐ白鳥についてうたった象徴的な歌で、これをクララは繊細なメロディーで色付けています。
J.ブラームス
Johannes Brahms (1833-1897)
昔の恋 Alte Liebe
本日最後に演奏するのは、そんなクララ・シューマンと関わりの深かったヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833-1897)の歌曲です。ブラームスは200曲近い歌曲を残していますが、彼の作品の特徴は、その大部分が心の痛みや人間の孤独をテーマにしたものだということです。今回歌う「昔の恋」も、そのタイトルの通り、ふとしたきっかけで過去の愛の苦悩を思い出すというもの。こうした彼独特のテーマ性の根源は、彼自身の人生を反映していると考えざるを得ないでしょう。もしかしたら彼にとっての”昔の恋”とは、若き日のクララへの大きな情熱や、それに続く他の女性たちとの実らなかった恋愛関係だったのかもしれません。.
アンコール
たくさんの拍手をいただきましたので
ファニー・メンデルスゾーン(有名なメンデルスゾーンの姉)の“Die Mainacht”(五月の夜)をお聴きいただきます。
ありがとうございました。
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