これまでの演奏会へ戻る

 NEW!!
72nd Concert

  

アンサンブル山手バロッコ第72回演奏会

開港記念会館で祝う

〜バッハの音楽劇〜

Bachs Drama Per Musica

“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第72回 
横浜市 中区制90周年・開港記念会館100周年記念提案事業

2017729(土) 14時開演(13時半開場) 横浜市開港記念会館講堂 

14:00
 29th July 2017 at Yokohama Kaikou-kinenkan Hall

主催: アンサンブル山手バロッコ 特別共催: 横浜市中区役所
協力:公益財団法人 横浜市緑の協会

衣装・演出 原 雅巳
舞台装飾 Atelier Moet 森田 朋子   

 

出演

 

木島 千夏(ソプラノ)

国立音大在学中に古楽に出会い、卒業後バロックのオペラを初め様々なコンサート活動を経験した後、ロンドンに留学。第30回ブルージュ国際古楽コンクールにて4位入賞。ヨーロッパ各地で音楽祭や演奏会に出演し経験を積む。帰国後はバロックを専門にソリストとして活躍。また「ひとときの音楽」シリーズや横浜山手の洋館でのリサイタルを毎年開催し、身近で楽しめる独自のコンサート作りを続けている。「カペラ・グレゴリアーナ ファヴォリート」メンバーとしてヴァーツ国際グレゴリオ聖歌フェスティバルに出演。聖グレゴリオの家教会音楽科講師、横浜合唱協会ヴォイストレーナー。アンサンブルDDメンバー。

 

加藤 詩菜(ソプラノ)

フェリス女学院大学音楽学部演奏学科卒業。 洗足学園音楽大学大学院音楽研究科修了。 ウィーン国立音楽大学Wiener Musikseminarディ プロマ修了。第4回彩明ムジカコンコルソ第1回声楽部門「 読売賞」受賞。第15回日本演奏家コンクール声楽部門「奨励賞」 「協会賞」受賞。第83回横浜新人演奏会出演。声楽を、 川上勝功、平松英子、ウーヴェ・ハイルマンの各氏に師事。 東京室内歌劇場会員、横浜市民広間演奏会会員。現在、洗足学園音楽大学ミュージカルコース助手、東京音楽院講師。  

 

曽禰 愛子(メゾソプラノ)

鹿児島国際大学短期大学部音楽科、同専攻科卒業。洗足学園音楽大学大学院 音楽研究科修了。第 28 回鹿児島新人演奏会、第 85 回横浜新人演奏会出演。声楽を川上勝功、ウーヴェ・ハイルマン、ゲルト・テュルクの各氏に師事。現在、バーゼル・スコラ・カントルム在学。ヴォーカルアンサンブル・ヴィクトリア、 Affetti mvsicali Capella SacraEnsemble SCOPRIAMOメンバー。 

  

石川 洋人(テノール)

国立音楽大学声楽科卒業。スイスバーゼル音楽大学大学院、及びスコラ・カントルムに留学、ディプロム取得。 在学中よりヨーロッパ各地でコンサート、音楽祭に出演。 ジュネーブ音楽祭において、ミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽アンサンブルによる、モーツァルト「レクイエム」公演にソリストとして出演、好評を博す。また ミヒャエル・ラドゥレスク、アントニー・ルーリー、ジョシュア・リフキン等著名な音楽家とも共演。帰国後、バッハ・コレギウム・ジャパン等に参加。北とぴあ国際音楽祭において、ラモー「プラテ」にテスピス役で出演、オペラの分野にも活動の場を広げている。NHKFM 名曲リサイタル、同 BS クラシック倶楽部出演等、ソリスト及びアンサンブル歌手として、国内外で活躍している。  

 

藤井 大輔(バスバリトン)

明治大学商学部、東京芸術大学声楽科卒業。声楽を直野資、牧野正人、モンセラート・フィゲラス、ペーター・コーイの各氏に師事。宗教曲を中心に活動しており、パーセル、バッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーベンからメンデルスゾーン、フォーレまで幅広くソリストを務める。アンサンブル小瑠璃のメンバーとしてNHKFM名曲リサイタル、NHK名曲アルバムに出演。また、バッハ・コレギウム・ジャパンの定期公演、レコーディング、海外ツアーなどをはじめ国内外の公演にも参加している。

 

慶野 未来(ナチュラルホルン)

東京芸術大学附属高校を経て、東京芸術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。現在神奈川県立弥栄高校 芸術科非常勤講師。さいたまJJホルニスツメンバー。  

 

飯島 さゆり(ナチュラルホルン)

東京芸術大学、フランクフルト音楽大学を卒業、ブリュッセル音楽院を修了。在独中、トリア市、及びドルトムント市立歌劇場管弦楽団の契約団員を務める。ホルンを故 千葉馨、故 田中正大、守山光三、堀内晴文、マリー・ルイゼ・ノイネッカー、ヨアヒム・ペルテル、アンドレ・ファン・ドリーシェの各氏に、ナチュラルホルンを、クロード・モーリー氏に師事。埼玉県立大宮光陵高校及び神奈川県立弥栄高校音楽科専攻ホルン非常勤講師。

 

曽禰 寛純(フラウト・トラヴェルソ、リコーダー)

フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。

  

石野 典嗣(バロック・オーボエ、オーボエ・ダ・カッチャ、バロック・ファゴット、リコーダー)

バロック・オーボエを独学で学ぶ。古楽器演奏家の追っかけと押しかけレッスン受講歴有り。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、アンサンブル山手バロッコメンバー。 

 

大山 有里子(バロック・オーボエ、オーボエ・ダモーレ)

大阪教育大学音楽科卒業。同大学専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事する。近年はバロック時代だけでなく古典期のオーボエ曲のピリオド楽器による演奏にも取り組んでおり、関東を中心に活発に活動している。2016年、17年リサイタル「バロック・オーボエの音楽」を開催。「クラングレーデ」、

「ダブルリーズ」メンバー。

 

今西 香菜子(バロック・オーボエ、オーボエ・ダモーレ)

13歳よりオーボエを始め、これまでにオーボエを東野正子、故 本間正史、故 柴山洋の各氏に師事。リチャード・ウッドハムス、若尾圭介、ジョナサン・ケリー等のマスタークラスを受講。桐朋学園大学及び同大学研究科修了。在学中よりバロック・オーボエを始め、故 本間正史氏に師事。現在フリーで演奏活動中。エンゼルミュージック、フォレストミュージック講師、「ダブルリーズ」メンバー。

 

永谷 陽子(バロック・ファゴット)

桐朋学園大学卒業。同大学研究科及びオーケストラアカデミー修了。バロック・ファゴットを堂阪清高氏に師事。2012年横浜・西洋館 de古楽で、モーツァルトのファゴット協奏曲をピリオド楽器で熱演。第26回国際古楽コンクールにて 奨励賞を受賞。古楽、モダン両分野でオーケストラや室内楽、CD録音に参加。八王子音楽院、ドルミール音楽教室講師。「ダブルリーズ」他メンバー。

  

小野 萬里(バロック・ヴァイオリン) 

東京芸術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。現在、「コントラポント」、「クラシカル・プレイヤーズ東京」、「チパンゴ・コンソート」、「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。 

 

原田 純子(バロック・ヴァイオリン)

洗足学園音楽大学卒業。ヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏に師事。慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後古楽器での演奏に興味を持ちバロックヴァイオリン・ヴィオラを渡邊慶子氏に師事する。モダン・バロックのヴァイオリン、ヴィオラ奏者として室内楽を中心に活動している。弦楽合奏団アンサンブル「デュナミス」、アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

角田 幹夫(バロック・ヴァイオリン)

慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。

 

山口 隆之(バロック・ヴァイオリン)

学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。

 

小川 有沙(バロック・ヴィオラ)

慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

櫻井 茂(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

学習院大学及び東京芸術大学卒業。芸大ではコントラバスを専攻。また、芸大バッハ・カンタータ・クラブにおいて小林道夫氏の薫陶を受ける。ヴィオラ・ダ・ガンバを大橋敏成、L.ドレイフュスの両氏に師事、またC.マッキントッシュ、J.リンドベルイ、S.ハウグザンらにアンサンブルの指導を受ける。独奏者として国内外で活動。海外の著名バロックオーケストラの来日公演にも多数出演。L.ドレイ
フュス主宰のコンソート「PHANTASM」には94年の創設プロジェクトに参加以来、度々客演する。ヴィオローネ奏者としてはバッハ・コレギウム・ジャパン等の古楽アンサンブルに参加。東京芸大管弦楽研究部及び高知大学講師を経て、上野学園大学准教授、延世大学(ソウル)音楽研究所古楽専門課程特別招聘教授。

 

飯塚 正己(コントラバス)

学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典の各氏より指導を受け演奏を続けている。アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

寺村 朋子(チェンバロ)

 

 

東京芸術大学チェンバロ科卒業。同大学大学院修士課程修了。チェンバロと通奏低音を、山田貢、鈴木雅明の両氏に師事。第7回国際古楽コンクール山梨にて、チェンバロ部門第2位入賞。イタリア、オーストリア、ベルギーなど国内外のアカデミーに参加して研鑽を積む。NHKFMリサイタル」に出演。その他バロックダンスとのセッションや声楽マスターコースの伴奏など様々な分野で多くの団体と演奏活動を行う。トリム楽譜出版より、「フルートバロックソナタ集」「J.S.バッハ作品集」(増刷)を編曲、出版。チェンバロソロCDCapriccioお気に召すまま」(レコード芸術準推薦)リリース。宮地楽器小金井アネックス・チェンバロ科講師。日本チェンバロ協会会員。 「ダブルリーズ」メンバー。


アンサンブル山手バロッコ第72回演奏会

開港記念会館で祝う

〜バッハの音楽劇〜

Bachs Drama Per Musica

“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第72回 
横浜市 中区制90周年・開港記念会館100周年記念提案事業

プログラムノート

(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)

本日はようこそ、コンサート「開港記念会館で祝う〜バッハの音楽劇〜」へいらっしゃいました。この公演は、横浜市の中区制90周年・開港記念会館100周年をお祝いし、その記念提案事業の一つとして行うものです。今年100周年を迎える、この由緒ある歴史的建造物からお届けする2つのお祝いの音楽劇、どうぞお楽しみください。 

 

♪ ♪ ♪

 

 本日演奏する2曲は、現在では世俗カンタータと呼ばれているものです。そもそもカンタータとは、イタリアの世俗的な独唱曲として成立した、音楽による語り(レチタティーヴォ)と歌(アリア)からなるものでした。カンタータというと、教会の礼拝のための教会カンタータをまずイメージされる方が多いかもしれませんが、この世俗的なカンタータの様式が教会音楽と結びつき始めたのは、ドイツでは18世紀のこと。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ1685-1750)がこれらを作曲演奏した時代には世俗カンタータ・教会カンタータのような呼び名はなく、今日親しまれている教会カンタータは、当時は教会コンチェルト、又は宗教的コンチェルトと呼ばれていました。バッハといえば教会とのつながりが深い音楽家という印象どおり、受難曲や数百曲の教会カンタータを作曲し、演奏していたのも事実ですが、一方で、宮廷音楽家としての活動も熱心に行っていました。仕えていた領主や街の有力者の誕生日や結婚式など、特別な機会のための声楽曲も数多く作曲し演奏していたのですが、これがいわゆる「世俗カンタータ」です。バッハの世俗カンタータは、現在確認できるだけでも約50曲ありますが、多くが一回限りの機会音楽だったことから残された状態も悪く、実際にはもっと多くの曲が作られたのではないかと考えられています。世俗カンタータは、当時はセレナータ又はドラマ・ペル・ムジカ(音楽劇)などと呼ばれていました。本日のテーマであるバッハの音楽劇(ドラマ・ペル・ムジカ)は、もともと祝賀行事に花を添えるものであり、宮廷の広間や庭園で演奏されることが多く、オペラと違って演技を伴わないものでした。しかし、主に神話のテーマにより登場人物が設定され、劇が進んでいくという意味では、オペラとの関連が深いものです。本日の2曲も、月の女神「ディアナ」や牧神「パン」などの神々や、「時」、「幸福」、「運命」などの神格化された人物が登場するなど、劇音楽への大いなる接近を感じます。(本日の演奏順序で曲の解説をいたします。)

 

J.S.バッハ / 「たのしきヴィーダアウよ」 BWV30a
 J.S.Bach :
Angenehmes Wiederau, freue dich in deinen Auen BWV30a

音楽劇「たのしきヴィーダアウよ」BWV30aは、バッハの(現在に伝えられている)世俗カンタータの中で音楽劇(ドラマ・ペル・ムジカ)と記載されている最後の作品です。狩のカンタータの上演から四半世紀、バッハの円熟期(52歳)に作られました。ライプチヒ郊外の領地ヴィーダアウの新領主にJ.C.フォン・へニッケが就任したことを祝って献呈した音楽劇で、初演は1737928日、新領主へニッケの館にて行われました。このへニッケという人物は、ザクセンの貴族であり、当時のザクセン選帝侯アウグスト三世の宰相で大きな権力を誇ったブリュール公の寵臣でもあり、ドイツ各地で重要な地位を持っていました。バッハは、ザクセン選帝侯国の宮廷作曲家称号を得ており、そのお殿様の臣下であるヘニッケの赴任への表敬ということがこの作曲・上演につながった訳です。(当時のライプチヒの裕福な市民や貴族にとって、お祝いごとに際して祝祭の詩を作り音楽を付けて演奏することは楽しみであり、その地位の象徴でもありました。詩人や作曲家にも重要な収入源であったようです。)

作詞はライプチヒで組んでいた詩人ピカンダーです。(この作品は翌年、教会カンタータ「喜べ、贖われし群よ」BWV30に転用されていますが、その作詞もピカンダーが担当しています。)詩には、愛、運命、時という神格化された人物と、ライプチヒの象徴としてエルスター川が登場し、領地の素晴らしさ、新しい領主を向かえた領地・領民の喜び、永遠の栄の祈願がうたわれています。

バッハは、このピカンダーの典型的な表敬・祝祭の詩に若々しく素晴らしい曲をつけました。最初と最後に合唱を、そしてその間に5組のレチタティーヴォとアリアを置いた大規模なものであることに加えて、全曲に当世風(ギャラント)な要素を見事に取り入れていることが特徴的だと思います。実はこの作曲の直前に(現在のバッハの伝記の中で有名な)シャイベのバッハ批判が起こりました。詩・音楽が一体になって神を讃えることが重要であるというルター以来の考えとそれを支える音楽は、個人としての言葉や理性に大きな意味を置く新しい啓蒙思想の時代の音楽にはふさわしくない、というのがシャイベの批判だと現在では俯瞰されています。しかし、当時のバッハとその周辺の人たちには、その批判は「バッハの音楽は古臭くわかりにくく、当世風な音楽の取り込みができない」と理解されたようです。その意味で、この時期に書かれたこの曲は、シャイベ批判へのバッハの反論であるとも考えられています。

なお、最後のテノールのアリアは、狩のカンタータを捧げたヴァイセンフェルスのクリスティアン公が1729年にライプチヒを訪問した時に演奏された表敬カンタータ(BWV210a)から転用されており、2つのカンタータのつながりも発見しました。本日は、原曲のトランペットとティンパニを、ホルンとファゴットで演奏し、ヴィーダアウの沃野のイメージにつなげます。

この曲の作曲された世俗の世界の関係と、音楽劇中で繰り広げられる神話(寓話)の世界の対比を図にまとめておきます

この音楽劇を、3部からなる劇と考え、それぞれシーンと劇進行、音楽の関係を整理すると、以下のようになります。

構成と場所

登場人物

曲番号

展開

領地(沃野)

ヴィーダアウの神々

1

良き領主を迎えたヴィーダアウの領地・領民の幸が称えられる。

劇の趣旨提示する軽快なシンコペーションのリズムにのった全奏(合唱)で幕が上がる。

1

領地
(象徴としての館)

運命

神々

2

3

新領主へニッケの歓迎

運命が、これまでのヴィーダアウの幸を振り返り、神々全員で新領主を、喜びをもって迎える

続いて運命が新領主を歓迎するアリアを、パスピエ風のリズムに乗せ軽やかに歌い、楽しく、羽ばたく様を歌う。

2

領地
(象徴としての館)

幸福

運命

45

67

89

忠誠と守護の誓い

幸福が登場し、この良き日にウィーダアウの新領主への忠誠と愛を誓い、アリアでは、喜びを当世風のシンコペーションのリズムと弦楽器のピチカートに乗って歌う。

び運命が登場し、これよりますます心して領主を守る表明をし、へニッケを支える決意を歌う。曲はロンバルディアリズムやエコーの多用などギャラントな構成で、オーボエとヴァイオリンのソロが華を添える。

最後に時が登場し、へニッケの末長い幸せを約束し、自分の配下の「時」にへニッケの護りを命ずるアリアを歌う。ジーグのリズムで流れる時間を表す。

3

宮廷

(領地)

エルスター川

1011

神々の結合と長い守護を促す

いよいよ、ライプチヒを象徴するエルスター川が登場し、運命、幸福、時の神々に住処を与え、ヴィーダアウの地を守るように促す。

宮廷

(領地)

神々

1213

領地と新領主の永遠の繁栄を願う

これまでのまとめとして4人の神々が会して、領地ヴィーダアウと領主へニッケ家の永遠の幸の願いを語り、最後に劇の趣旨となっている最初の合唱の楽曲を使い、ヘニッケを迎える側から、ともに繁栄のための守護を約した守護神の立場に歌詞を替え歌い、大団円となる。

合唱「たのしきヴィーダアウよ その緑の野で喜びなさい!」

アリア(運命)「ようこそ健やかなところへ ようこそ喜びのもとへ」

アリア(幸福) 「魂を喜ばせうるもの楽しくかけがえのないものは皆」                      アリア(運命) 「私の大切なものとして 私は、あなたをお支えし」 

アリア(時) 「時よ、あなたの望み通り、急ぎなさい」

アリア(エルスター川) 「私が水を行き渡らせることで 私のヴィーダアウの地を緑にするように」

合唱 「たのしきヴィーダアウよ あなたの牧場でいまや輝きなさい」で大団円

 

J.S.バッハ / 「楽しき狩こそ我が悦び」 BWV208(狩のカンタータ)
J.S.Bach :
Was mir behagt, ist nur die muntre Jagd BWV208

狩のカンタータ「楽しき狩こそ我が悦び」BWV208は、バッハの(現在に伝えられている)最初の世俗カンタータです。17132月、ザクセン・ヴァイセンフェルス公クリスティアンの誕生祝いに、ヴァイセンフェルス公の館で初演されました。バッハが仕えていたヴァイマル宮廷のヴァイマル公ヴィルヘルム・エルンストが、宮廷詩人ザーロモ・フランクに作詞を、宮廷オルガニストバッハに作曲を命じて作らせ、親しい間柄であったヴァイセンフェルス公クリスティアンに贈った誕生日の祝典曲だと考えられています。狩を趣味とする公を祝うために狩や獣の神様を登場させたストーリーの詩に対して、バッハは変化に富んだ構成を工夫し、当時の教会カンタータに比べて遥かに長大で、また田園趣味を取り入れるなど先進的な取り組みに溢れた曲を書き上げました。27歳の若きバッハの意欲作です。後年、バッハがライプチヒの音楽監督となった時代に盛んに用いられたジャンル「ドラマ・ペル・ムジカ」とは書かれていませんが、神話の登場人物が設定された祝祭劇であるドラマ・ペル・ムジカのスタートとなるものと言えます。(なお、この曲は、バッハのお気に入りだったようで、ワイマールでも再演され、また晩年の1742年にも、ライプチヒでザクセン選帝侯アウグスト三世の誕生祝いに再演された記録が残っています。)

 当時の記録では、クリスチャン公主催の狩のコンテストが行われた後、公の館に客人が集まり、食卓の音楽が演奏されたとありますので、本日は、狩のホルン信号が響くブランデンブルク協奏曲第1番の初期稿BWV1046aの第1楽章を狩のコンテストに見立てて、最初に演奏することにしました。また、田園気分を盛り上げるべく、森の神パラスが歌う第13曲のアリア「豊かな毛並みの羊は」では、自筆楽譜に含まれている器楽のリトルネロ(BWV1040)を後奏として演奏いたします。

この曲の作曲された世俗の世界の関係と、音楽劇の中で繰り広げられる神話の世界の対比を、図にまとめておきます。

この音楽劇を、3部からなる劇と考え、それぞれシーンと劇進行、音楽の関係を整理すると以下のようになります。

構成場所

登場人物

曲番号

展開

狩場

宮廷の客人と侯の一行

-

宮廷の客人と侯の一行が現れ、狩のコンテストを表す序曲が響く。

1

女神ディアナと
エンデュミオン

12

34

5

ディアナが狩の楽しみを語り、獲物をしとめた歓喜を表した後、アリアで狩のホルンを従えて、狩への賛美と英雄のたしなみであることを歌う。

エンデュミオンは狩に夢中な恋人ディアナを嘆き、盲目的な愛に駆り立てるというアモールの網を例えに、ディアナを振り向かせようとする。

狩に夢中なのは王子クリスチャンの誕生日を祝うためであるとディアナが告白し、安心したエンデュミオンも従い、希望と歓喜を揃って歌う。

2

沃野

 牧神パン

羊飼の神
パラス

ディアナ

神々

67

89

10

11

牧神パンが登場し、羊の統率をクリスチャンに任せ、領民の統治を優れて行うクリスチャンを自分に例えて賛美する。

パラスが領民だけでなく領土もクリスチャンへの歓喜に満ちた場所にする決意を述べ、のびやかに草を食む羊を例えに領土の安寧を歌う。

ディアナが登場しクリスチャンへの讃歌を歌うように促す。

地上の太陽クリスティアンを讃える人々の合唱で中締めとなる。

3

宮廷

(領地)

ディアナと

エンデュミオン

パラス

牧神パン

神々

12

13

14

15

ディアナとエンデュミオンが息を合わせクリスチャンへの賛美を歌う。

パラスも楽しな羊(領民)の姿を通して領主を讃える。器楽のリトルネロが続き気分を盛上げる。

パンも領地の自然を賛美する歌を踊りのリズムで歌う。こうして、すべての神からクリスチャンは賛美を受け取る。

最後に全員がクリスチャンの栄光を祈り、狩の響きが、ホルン、オーボエ、弦楽にちりばめられた曲を歌い、狩りの楽しみを想起させ大団円となる。

 

クリスティアン侯が登場し、前口上

狩のシンフォニア(BWV1046a-1)で幕開き

アリア(ディアナ) 「狩りは神々の悦び 狩りは勇者にふさわしい!」                  アリア(エンデュミオン) 「あなたは もはや楽しもうとはしないのですか?」

(ディアナとエンデュミオン) 「その通り!私たちは二人の炎を願いと喜びを込めて共に運びます!」

アリア(パン) 「君主は、その国のパンである!」                          アリア(パラス) 「羊は安らかに草を食むことができる」

合唱(神々) 「万歳、地上の太陽よ」

 

二重唱(ディアナとエンデュミオン) 「私たち二人を魅了しなさい 喜びの光よ」                    アリア(パレス) 「毛豊かな羊の群れが」

アリア(パン) 「野と牧場よ 緑にあふれるその姿を見せて」

合唱(神々) 「愛らしい眼差しよ 喜ばしき時間よ」

参考文献

1) 川端純四郎 / J.S.バッハ―時代を超えたカントール(日本キリスト教団出版局)
2)   Peter Williams
 / Bach: A Musical Biography (Cambridge University Press
3)   Jones, Richard D. P. /
 The Creative Development of Johann Sebastian Bach: 1695-1717: Music to Delight the Spirit (Oxford Univ Press)
4)   Jones, Richard D. P. /
 The Creative Development of Johann Sebastian Bach: 1717-1750: Music to Delight the Spirit (Oxford Univ Press)
5)  Alfred Durr / The Cantatas of J. S. Bach (Oxford Univ Press)
6)   A.Parrott / The Essential Bach Choir (Boydell Press)
7)   C.
ヴォルフ、T.コープマン(礒山雅 監訳)/バッハ=カンタータの世界U 世俗カンタータ (東京書籍)
8)  
鳴海史生、小林義武 / バッハ事典 (東京書籍)
9)  
若林敦盛 / 新装版 対訳J.S.バッハ声楽全集 (慧文社)

 

アンコール

たくさんの拍手をいただきましたので、まず、本日の音楽劇につかわれた楽器を紹介し、

開港記念会館のお祝いと皆様への感謝の気持ちを込めて、全員で狩のカンタータの合唱「万歳、地上の太陽よ」をお届けします。

 

ありがとうございました。

これまでの演奏会へ戻る

Home