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57th Concert
アンサンブル山手バロッコ第57回演奏会
横濱・西洋館de古楽2015コンサート
ゲーテ座ホールで味わう
バッハの音楽劇“ドラマ・ぺル・ムジカ”
Bach’s “Dramma per Musica”
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第54回
2015年2月8日(日) 14時開演(13時30分開場) ゲーテ座ホール(横浜市中区山手町254 岩崎博物館内)
14:00 8th February 2015 at Gaiety Theater Hall
主催:「横濱・西洋館de古楽」実行委員会
共催:公益財団法人横浜市緑の協会/横浜古楽プロジェクト 後援:横浜市中区役所
協力:横浜山手聖公会/アンサンブル山手バロッコ/オフィスアルシュ
出演
原 雅巳 (ソプラノ)(賛助出演)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学院独唱科修了。渡仏。オルレアン・コンセルヴァトワール、ジュネーヴ・コンセルヴァトワールを修了。声楽、室内楽、バロック・ジェスチャー、朗唱法を学ぶ。帰国後、フランス・ルネッサンス、バロック音楽を中心に演奏活動を行う。「ふらんすの恋歌」(’05)、ラ・フェート・ギャラントと「パリの悦楽」(’06)をリリースする。また、日本ヘンデル協会においてジェスチャー研究会を主催し、演技・歌唱指導を行う。協会の主催する演奏会の監修およびオペラ公演の演出を行い、これまでにヘンデルのオペラ「リナルド」「セルセ」「アグリッピーナ」「パストール・フィードー」等を演出する。
藤井 大輔(バスバリトン)(賛助出演)
明治大学商学部、東京芸術大学声楽科卒業。声楽を直野資、牧野正人、ロバート・ホワイト、モンセラート・フィゲラス、ペーター・コーイの各氏に師事。宗教曲を中心に活動しており、パーセル「アーサー王」、バッハ「ミサ曲ロ短調」、「マタイ受難曲」、「ヨハネ受難曲」、カンタータ、ヘンデル「メサイア」、モーツァルト「レクイエム」、「ミサ曲ハ短調」、ベートーヴェン「第九」、フォーレ「レクイエム」などのソリストをつとめる。アンサンブル小瑠璃のメンバーとしてNHKFM名曲リサイタル、NHK名曲アルバムに出演。また、バッハ・コレギウム・ジャパンの定期公演、レコーディング、海外ツアーなどをはじめ国内外の公演にも参加している。近年は合唱指揮者としても活躍の場を広げている。
大山 有里子 (バロック・オーボエ、バロック・オーボエ・ダモーレ)(賛助出演)
大阪教育大学音楽科卒業。同大学専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事する。卒業後「大阪コレギウム・ムジクム」のソロオーボエ奏者として、バロック時代の作品を中心に数多くの月例演奏会、定期演奏会等に出演する。その後ピリオド楽器(バロック・オーボエ)による演奏に専念し、バロックアンサンブル「アルモニー・アンティーク」等で活動。現在、関東を中心に活発に活動している。
「クラングレーデ」 ,「ダブルリーズ」メンバー。
慶野 未来(バロック・ホルン)
東京芸術大学附属高校を経て、東京芸術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。 現在神奈川県立弥栄高校芸術科非常勤講師。さいたまJJホルニスツメンバー。
青木 宏朗(バロック・ホルン)(賛助出演)
東京音楽大学を卒業。第二回日本ホルンコンクール第五位入賞。2014年9月より兵庫芸術文化センター管弦楽団コアメンバー。これまでにホルンを水野信行、松崎裕、山岸博、ジョナサン・ハミル、深村友一の各氏に、ナチュラルホルンを大貫ひろし氏に師事。
第83回日本音楽コンクール・ホルン部門最高位受賞。兵庫芸術文化センター管弦楽団ホルン奏者。
アンサンブル山手バロッコ
1998年、横浜山手の洋館「山手234番館」のリニューアルに行なわれた記念のコンサートをきっかけに、山手在住のリコーダー愛好家・朝岡聡を中心に結成された古楽器を使った演奏団体。継続的に横浜山手の洋館での演奏活動を続けています。
また、西洋館でのコンサート「洋館で親しむバロック音楽」などの企画・プロデュース、古楽祭「横浜・西洋館de古楽」にも演奏・運営を通じて参加し、バロック音楽を分かりやすく伝える活動も行っています。本日の演奏メンバーを紹介します。
朝岡 聡 (ナビゲーター)
1959年横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後テレビ朝日にアナウンサーとして入社。1995年フリーとなってからはTV・ラジオ・CM出演のほか、コンサート・ソムリエとしてクラシックやオペラの司会や企画構成にも活動のフィールドを広げている。リコーダーを大竹尚之氏に師事。1998年にフラウト・トラヴェルソの曽禰寛純と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続している。横濱・西洋館de古楽2015実行委員長
加藤詩菜(ソプラノ)
フェリス女学院大学音楽学部演奏学科卒業。洗足学園音楽大学大学院音楽研究科修了。ウィーン国立音楽大学WienerMusikseminarディプロマ修了。第4回彩明ムジカコンコルソ第1回声楽部門「読売賞」受賞。第15回日本演奏家コンクール声楽部門「奨励賞」「協会賞」受賞。第83回横浜新人演奏会出演。声楽を、川上勝功、平松英子、ウーヴェ・ハイルマンの各氏に師事。東京室内歌劇場会員。横浜市民広間演奏会会員。現在、洗足学園音楽大学ミュージカルコース助手。東京音楽院、一音会ミュージックスクール講師。
曽禰愛子(メゾソプラノ)
鹿児島国際大学短期大学部音楽科卒業、同専攻科修了。洗足学園音楽大学大学院音楽研究科修了。ザルツブルグ・モーツァルテウム音楽大学夏季国際音楽アカデミーディプロマ修了。第28回鹿児島新人演奏会、第85回横浜新人演奏会出演。これまでに声楽を川上勝功、ウーヴェ・ハイルマンの各氏に師事。ヴォーカルアンサンブル・ヴィクトリア、Affetti mvsicaliメンバー。
並木隆浩(テノール)
国立音楽大学音楽学部演奏学科声楽専修卒業。洗足学園音楽大学大学院音楽研究科修了。成績優秀者による卒業演奏会に選抜。2009年いしかわミュージックアカデミー、マスタークラス修了。2013年バッハ『マタイ受難曲』公演でエヴァンゲリストを務める。声楽を河合孝夫、岩渕嘉瑩、山下浩司、U.ハイルマンの各氏に師事。
曽禰寛純(フラウト・トラヴェルソ)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で学び、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロックを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
角田幹夫(バロック・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを学ぶ。現在、カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
原田純子(バロック・ヴァイオリン)
洗足学園音楽大学卒業。ヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏に師事。慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後古楽器での演奏に興味を持ちバロックヴァイオリン・ヴィオラを渡邊慶子氏に師事する。モダン・バロックのヴァイオリン、ヴィオラ奏者として室内楽を中心に活動している。弦楽合奏団アンサンブルデュナミスメンバー。
山口隆之(バロック・ヴィオラ)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。都留音楽祭実行委員。アンサンブル山手バロッコメンバー、歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川有沙(バロック・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動。アンサンブル山手バロッコメンバー。
中尾晶子(バロック・チェロ)
チェロを佐々木昭、アンサンブルを岡田龍之介、花岡和生の各氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。
松永秀幸(コントラバス)
学生時代に楽器に出会い、社会人になってから前田芳彰氏等に指導を仰ぐ。西荻窪の本郷教会で開催されるSoli Deo Gloria 等でバッハのカンタータ演奏に参加。
和田章(チェンバロ)
小林道夫にチェンバロを師事。慶応バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。当アンサンブル発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第57回演奏会
横濱・西洋館de古楽2015コンサート
ゲーテ座ホールで味わう
バッハの音楽劇“ドラマ・ぺル・ムジカ”
Bach’s “Dramma per Musica”
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第54回
横濱・西洋館de古楽2015へ、ようこそいらっしゃいました。アンサンブル山手バロッコのコンサートは、日本最初の西洋式劇場(1885年建設)跡に建てられた「ゲーテ座ホール」でバッハの音楽劇(ドラマ・ぺル・ムジカ)をお届けします。ここゲーテ座は、シェークスピアの劇など、西洋人による生の西洋演劇に触れることのできる当時唯一の劇場でありました。朝岡聡の進行で、みなさまを教会音楽家バッハのもう一つの顔である世俗的、当世風音楽家の「音楽劇」の世界にお連れします。
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本日演奏する2曲は、今日は「世俗カンタータ」と呼ばれていますが、バッハがこれらを作曲演奏した時代には、そのような呼び名はありませんでした。カンタータはイタリアの世俗的な独唱曲として成立した、音楽による語り(レチタティーヴォ)と歌(アリア)からなるものでした。この世俗的なカンタータの様式は、ドイツでは18世紀に教会音楽と結びつき始めました。今日親しまれている「教会カンタータ」は、当時は教会コンチェルトとか宗教的コンチェルトと呼ばれていました。バッハは、教会オルガニスト、またライプチッヒでは2つの教会のために、受難曲や数百曲の教会カンタータを作曲し演奏した、教会とのつながりが深い音楽家という印象が強いですが、宮廷音楽家としての活動も熱心に行いました。殿様のために演奏し、また教会行事をこなしながら同時にコレギウムムジクムという大学の学生を中心とした演奏団体を率い、当時まだ珍しかった市民のための公開演奏会を行うという一面も持っていました。この演奏会は、当時流行のコーヒーハウスやその庭園で何百回と行なわれ、見本市で有名な商業の街、ライプチッヒへ詣でる目的の1つを提供するほどになりました。これらの宮廷や市民のための音楽の場では、結婚式、誕生日や送別など特別な機会のための声楽曲(いわゆる「世俗カンタータ」)も演奏されました。
バッハの世俗カンタータは、現在確認出来るだけでも、約50曲ありますが、多くが、結婚式や高貴な人への表敬など、一回限りの機会音楽だったことから残された状態も悪く、実際にはもっと多くの曲が作られたのではないかと考えられています。さて、世俗カンタータは、当時、最初に述べた独唱用のものがカンタータと呼ばれましたが、それ以外は、セレナータ、ドラマ・ペル・ムジカ(音楽劇)などと呼ばれていました。本日のテーマであるバッハのドラマ・ペル・ムジカは、主に神話のテーマにより登場人物が設定され、劇が進んで行くという意味では、オペラ(特にオペラセリア)との関連が深いものです。もともと祝賀行事に花を添えるものであり、バッハの場合も、劇場ではなく宮廷の広間、コーヒーハウスや庭園で演奏されることが多く、オペラと違い演技を伴わないものでした。しかし、本日演奏する二曲は、ヘラクレスやマーキュリーなどの神話の人物や、ミーケという農家の娘と農夫が登場するなど、他のバッハの声楽曲に比べて劇音楽への大いなる接近を感じます。
ヨハン・ゼバスチャン・バッハ(1685〜1750)
J.S.Bach
音楽劇「われらに任せて見張りをさせよ」BWV213(岐路に立つヘラクレス)
Drama Per Musica 《Lasst uns sorgen, lasst uns wachen》BWV213
最初に演奏する、音楽劇「われらに任せて見張りをさせよ」は、1733年9月5日に、ザクセン選帝侯の嫡子であるフリードリヒ・クリスチャン皇太子の誕生祝いとして、ライプチッヒのツィンマーマン・コーヒーハウスの庭園で、上演されたものです。バッハはドレスデンに王宮をかまえるザクセン選帝侯国の国王(選帝侯)フリードリヒ・アウグスト2世への表敬として国王や王族のライプチッヒ訪問や誕生日などの祝日には、(今日、世俗カンタータと呼ばれる)大規模な声楽曲が記録にあるだけでも10回ほども演奏し、曲を献呈しました。この曲も、その活動の一環と考えられています。バッハはこの活動と同時期の1733年7月に選帝侯(国王)へ選帝侯国の宮廷楽長の称号を賜るべく請願書を提出し、1736年に選帝侯から宮廷楽長の称号が授けられました。
この曲は、「岐路に立つヘラクレス」と副題が台本に書かれたように、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスを皇太子に見立て、歓楽からの誘いを遮り、徳の道を進む決断をする筋書きになっており、皇太子の徳をたたえ、健やかな成長を祈念する内容になっています。台本作者は、バッハの教会音楽のテキストを数多く提供しているピカンダーです。(彼は、農民カンタータの成立にも深くかかわっています)。編成は、ヘラクレス(アルト)、歓楽(ソプラノ)、徳(テノール)、こだま(精霊)(ソプラノ)とマーキュリー(メルクリウス)(バス)の5人の歌手と管弦楽アンサンブルで、アンサンブルには、2本の狩りのホルン(ナチュラル・ホルン)、2本のオーボエが用いられ、神話の牧歌的な雰囲気を作り出しています。登場人物と人間関係図を参考に掲載しておきます。
ヘラクレスカンタータ 登場の神々と人間関係図
まず、合唱(神々の御心)「気を付けていよう、見張っていよう」*1は、全員での演奏で、天上の神々が有徳の青年ヘラクレスに大いなる期待をかける様子を伸びやかな曲想で表しています。続いて、ヘラクレスが、徳の道を進む道を求めて語るレチタティーヴォで、それに続く第3曲は、「歓楽」が、弦楽合奏のゆりかごや眠りの伴奏にのって「お眠り、愛しい子、安らぎに身を任せなさい」*2と青年の知性を眠り込ませようとアリアを歌います。続くレチタティーヴォで、歓楽は自分の道へヘラクレスを誘惑しますが、そこにテノールの徳が割って入り、正しい徳の道を説きます。ここでヘラクレスは、アリア「この辺りの忠実なこだまよ」*3で、オーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)の器楽伴奏を伴って、精霊(こだま)に進むべき道を尋ね、徳の道を進むことを選択します。
これを受けて徳は、青年の輝かしい未来の予感を告げ、次いでアリア「私の翼にのって、高く浮かんでください」*4で自らの翼を差出し、ヘラクレスを高みへと誘います。音楽もオーボエ、ヴァイオリンと低音が、輝き、光、そして上昇や浮遊を表す音型で見事な掛け合いをし、テノールソロも加わり密度の高い四重奏を形成します。徳はさらにレチタティーヴォで、歓楽に対しての手を緩めず、ヘラクレスに決意を促します。これに応えてヘラクレスはアリア「お前に耳を貸すつもりはない」*5で強い意志で歓楽との決別を歌います。ユニゾンのヴァイオリンが歯切れの良い前奏でヘラクレスの意思を示し、中間部では、ヘラクレスの宿敵である蛇の音型が低音に現れます。
次のレチタティーヴォで、ついにヘラクレスと徳の契りは固いものとなり、続いて、中音域のヴィオラ二本をオブリガートに愛の二重唱「わたしはあなたのもの、あなたはわたしのもの」*6を歌います。最後に商業の神、ライプツィヒの象徴であるメルクリウスが登場し、ヘラクレスは実は皇太子フリードリヒのことであるのを明かし、ミューズたちの喜びの終曲へと続きます。合唱「諸国民の楽しみ」は、最初の編成に戻り、ホルンの輝かしい響きと舞曲のリズムでこの大曲を閉じます。
*1:多くの曲が、翌年に教会で演奏された「クリスマスオラトリオ」に転用された。この合唱は、第4部の最初の合唱「感謝してひれ伏せ」に転用された。
*2:クリスマスオラトリオの第2部のイエスの子守歌(アリア)に転用された。
*3:クリスマスオラトリオの第4部のアリア「死を喜ぶべきか」に転用された。
*4:クリスマスオラトリオの第4部のアリア「我ただ汝の栄光に生きん」に転用された。
*5:クリスマスオラトリオの第1部のアリア「信ずる者たちよ、用意して下さい」に転用された。
*6:クリスマスオラトリオの第3部のデュエット「主よ、あなたの情けと憐れみ」に転用された。
第1曲 合唱(神々の御心)
気を付けていよう、見張っていよう、われらの神々の、あの息子を。
われらの王座は 地上で権威と輝きを得ることになるだろう。
われらの王座は彼に奇跡を生み出すだろう。
第2曲 レチタティーヴォ(ヘラクレス)
いったい、どこに? どこに正しい道筋はあるのか。
どの道をたどれば生来の望み、徳と輝き、誉れと気高さをしたいという望みが 目標まで至ることができるのか?
理性と分別と光とが、そのすべてを追い求めることを熱望している。
ほっそりとした枝よ、お前たちにはできないか、助言し手立てを教えることが。
第3曲 アリア(歓楽)
お眠り、愛しい子、安らぎに身を任せなさい。燃え上がる思いに誘われたら、従うのですよ。
歓楽を味あわれませ、みだらな胸の歓楽を。どうか存分になさいませ。
第4曲 レチタティーヴォ(歓楽、徳)
(歓楽) さあ、私の道筋をおたどりなさいませ。そこならあなた様を、重荷も強制もなく、足取りも軽やかにお導きいたします。
優美の女神は一足先に行き行く手にバラの花を蒔いていますのよ。躊躇なさいますな、この気持ちの良い散歩道を喜んでお選びなさいませ。
(徳)どこへ、私のヘラクレスよ、どこへ行くのですか。正しい道を失ってしまいますよ。徳、度量と勤勉を通じてこそ高貴な志は高められるのです。
(歓楽) 誰が好きこのんで汗をかくでしょう? のんびりと心行くまで遊んでいれば 本当の癒しが得られますのよ。
(徳) それがすなわち、本当の癒しを損なうことになるのです
第5曲 アリア(ヘラクレス、こだま)
(ヘラクレス) この辺りの忠実なこだまよ、わたしは媚びた言葉に潜む 甘い誘いに惑わされるべきだろうか? 答えをおくれ、「違う!」と。
(こだま) 違う!
(ヘラクレス) あるいは、戒めの告げる 多大の労苦こそ わたしにより良い道を開くのだろうか? ああ、むしろいって欲しい、「そうだ!」と。
(こだま) そうだ!
第6曲 レチタティーヴォ(徳)
これは頼もしい英雄殿! 私自身もあなたの同類 同じ血筋の者です。 こちらに来てわたしの手を取り、信頼のおける私の策をお聞きなさい。 それは先祖たちの誉れと功を 鏡のようにあなたの眼前に映し出すものです。
あなたの手を取り、私はもう感じています、将たる器の若者が、私に捧げられていると。あなたは、私の真の息子。私はあなたの証人、「徳」なのです。
第7曲 アリア(徳)
私の翼にのって、高く浮かんでください、私の羽根にのって あなたは昇ってゆくのです。星空まで、鷲のように。
このわたしを通じて あなたの輝きと微光は 完全の域にまで高められるのです。
第8曲 レチタティーヴォ(徳)
しどけない歓楽は確かに魅力たっぷり。 しかし、誰が知らないだろうか、その危険が 国と英雄たちを損なうことを。
誰が知らないだろうか。おおこの男たらし、お前がずっと昔から将来まで いかなる時代を思い見ても、われら神々の群れから 永遠に締め出されていることを。
第9曲 アリア(ヘラクレス)
お前に耳を貸すつもりはない、お前のことを知ろうとも思わない、おぞましい歓楽よ、お前などは知りはせぬ。
なぜなら、蛇たちが 赤子のわたしを捕えようとした時、わたしはとっくに踏み砕き、千切り捨てたのだから。
第10曲 レチタティーヴォ(ヘラクレス、徳)
(ヘラクレス)募わしい徳よ、ただあなただけが わたしの導き手として 常に側にいてください。あなたの命ずるところにわたしは赴きます。
(徳)私もあなたと、固く、密な契りを結ぶつもりです。あなたと私以外には、私の存在を誰も認識できないほどに。
(二人)誰がこれほどの契りを引き離せましょう。
第11曲 二重唱(ヘラクレス、徳)
(ヘラクレス)わたしはあなたのもの、(徳)あなたは私のもの、
(ヘラクレス)わたしに口づけしてください。(徳)あなたに口づけしましょう。
(二人)婚約者が結び合うように、その感ずる歓びのように、忠実にして優しく、そして熱烈なものを、私/わたしもそう感じているのです。
第12曲 レチタティーヴォ((メルクリウス)
神々よ、ご覧ください、これこそお姿なのです。ザクセンの若き選帝侯子フリードリヒの!
日々健やかな成長は、すでに今、世の驚嘆を呼び起こしています。一歩進むごとに、徳も増してゆくのですから。
ご覧ください、この忠実な国が喜びで満たされるさまを。
なぜなら、飛び翔る若い鷹を見やれば、そこに菱形の御紋章が認められるのですから。
また前途洋々の侯子が世の喜びのために花開いたのですから。
それでは、ミューズたちの楽しい輪舞をご覧になり、喜びの歌声をお聴きくださいますように。
第13曲 合唱(ミューズたち)
諸国民の楽しみ、あなたの民の楽しみ、花開け、いとしきフリードリヒ!
(メルクリウス)あなたの徳の価値にふさわしい輝きが、すでに準備されています。御代の到来を熱望しているのです。お急ぎください、私のフリードリヒよ、時代があなたを待っています!
訳詞は、Richard
D.P. Jones、礒山雅、各氏の訳を参考に作成しました
ヨハン・ゼバスチャン・バッハ(1685〜1750)
J.S.Bach
喜劇風カンタータ「わしらの新しいご領主に」BWV212(農民カンタータ)
Cantate burlesque 《Mer hahn en neue Oberkeet》BWV212
後半に演奏する喜劇風カンタータ「わしらの新しいご領主に」は、一般に農民カンタータと呼ばれていますが、1742年に、ライプツィヒ郊外にあるクライン・チョッハー村の領主に就任した貴族カール・ハインリヒ・フォン・ディースカウの誕生日に行われた祝典のための表敬音楽です。この領主ディースカウのもとで徴税官として仕えていたのがヘンリーツィ(バッハに台本・歌詞作者として大いに協力した詩人ピカンダーと同一人物)であり、彼(ピカンダー)の台本に基づいて作曲されました。これからの進行はどうぞ朝岡聡の案内でお楽しみください。
登場人物と人間関係図を参考に掲載しておきます。
農民カンタータ 登場人物と人間関係図
1.序曲
2. アリア(二重唱)
新しいご領主様ができた、宮廷の偉い方でいらっしゃる。お祝いのビールのお振る舞いだ、頭にキュッとくる、とびきりの品。
牧師さんにゃ顔をしかめててもらおうぜ、楽隊の衆、さあさ支度だ。ミーケのスカートはもう揺れている、これはちょっとしたお楽しみ。
3. レチタティーヴォ
(農夫)さあ、ミーケ、キスしておくれ。
(ミーケ)それだけでいいならね。でも、あたしには、とうに分かっているよ、このスケベ、いつだってその先を欲しがるんだから。今度の殿様は、厳しそうなお人だよ。
(農夫)いやいや、殿様は怒りはしねえ。殿様は俺たちと同じくらい、いや、もっと良くご存知さ。ちょっとやるのがどんなにいい気持ちかってな。
4. アリア(ミーケ)
ああ、なんて気持ちが良いのでしょう、二人が本当に仲良くする時は。ほら、もう、お腹の中が騒いでいるわ、まるでノミや南京虫、すごいスズメバチの群れがみんなで喧嘩を始めたみたい。
5. レチタティーヴォ(農夫)
殿様は良い方だ。だが税金取りがな。 あいつは地獄の回し者だ、まるで稲妻のように罰金を取り立てる、ちょっと指先を川につけただけでさ。
6. アリア(農夫)
ああ、税金取りの旦那、あんまり厳しくしなさんなや、俺たち貧しい百姓に。皮くらい残してくれや、毛虫みたいに葉っぱを食って、芯まで裸にしちまったら、そこらで満足しなされや。
7. レチタティーヴォ(ミーケ)
誰がなんと言ったって、お殿様は最高だわ。これ以上の方がいるなんて想像もできないし、袋いっぱいの銀貨でもとても買えやしないわ。
8. アリア(ミーケ)
あの素晴らしい、いとしいお殿様はずば抜けたお方。誰も悪口を言う人はいない。
9. レチタティーヴォ
(農夫)殿様は、老も若きも、みんなを助けて下さる。こりゃ内緒の話だが、先だっての徴兵を、うちの村はまんまと逃れたというじゃないか。
(ミーケ)もっといいこと知ってるよ。税金にお情けをかけて下さるのさ。
10. アリア(ミーケ)
これは粋なお計らい、ここじゃ誰も言わないわ、まだ残っている税金の支払いのことなど。火のないところに煙は立たぬ、クナウトアインやコースプデンの村は自業自得なのよ。
11. レチタティーヴォ(農夫)
奥方様も、ちっともお高くとまらぬお方だ。俺たちのような、食えない木偶(でく)の坊にも、声をかけて下さるんだ、まるで仲間みたいにな。
奥方様は信心深く、愛想が良く、そして家計のやりくりもお上手。殿様のために、上手な蓄えをなさったとか。
12. アリア(農夫)
50ターラーの現金をあっという間に、使い果たしたとしたら、大変なことだ、毛をむしられちまう。
でも、終わったことは終わったこと、いつかどこかで、二倍に貯めることにするから、50ターラーは。ほっておいておくれ。
13. レチタティーヴォ(ミーケ)
ちょっと真面目に聞いておくれ!あそこのいつもの飲み屋に行って楽しい踊りとしゃれこむ前に、お殿様を讃える、あたしの作った歌を聴いておくれ。
14. アリア(ミーケ)
クライン・チョッハーはアーモンドの実のように、優しく、甘くある村。あたしらの村に、今日ただただ、あふれるような祝福が注ぎますように。
15. レチタティーヴォ(農夫)
こいつは、お前には出来すぎだ、街の節を使っているじゃないか。俺たち百姓は、そんなに気取っちゃ歌わないぞ。おいらにピッタリのこの曲を聴いてくみな!
16. アリア(農夫)
侍従様、どうぞ一万ドゥカーテン毎日もうけなされや!ぶどう酒をたっぷり召し上がり、お達者におやりなされや!
17. レチタティーヴォ(ミーケ)
ちょっと品がないんじゃない?ご立派な方達が、これを聞いたら、お腹を抱えて笑うでしょうよ。まあ、あたしが昔の節をこんな風に歌っても、同じことだろうけどね。
18. アリア(ミーケ)
下さいな、美しい奥方様、男の子をたくさん、姿りりしい男の子を!立派に大きくお育てください、これこそチョッハー村とクナイトアイン村が、一日も早くと願っています!
19. レチタティーヴォ(農夫)
確かにお前の言う通りだ、あの曲はちょっといただけないな。それじゃ、がんばって歌うとするか、ひとつ街風のやつをな。
20. アリア(農夫)
御身の栄え揺るぎなくあれ、楽しみて笑いたまえ!御身の優れた心映えが、御身の土地を耕し、そこに、必ず花が咲くでしょう。
21. レチタティーヴォ
(ミーケ)もうそんなところにしといたら?
(農夫)それじゃ、これからひと跳び、いつもの飲み屋に押しかけにゃなるめえ。
(ミーケ)ということは、こう言いたいのね。
22. アリア(ミーケ)
それじゃいいかな、皆の衆、ちょうど潮時、飲むとしよう。喉が渇いたやつは手を上げな。右手が言うことを聞かなきゃ、躊躇なく左手に乗り換えて!
23. レチタティーヴォ
(農夫)素敵なお前、まさにその通りだ!
(ミーケ)もうここじゃ、あたしらお役御免だから、それじゃぶらぶら行きつけの飲み屋に行きましょう。
(農夫)誰か一緒に行ってもいいが、そうだな、徴税官のルードウィヒ様には、今日は付き合ってもらわなくちゃ。
24. 二重唱
さあ行こう、バグパイプがブカブカ鳴っている、いつもの飲み屋へ。あそこで楽しく騒ごうぜ。ディースカウ様、ご一家万歳、殿様に望みのものが、授けられますように、何事も、お心のままに!
訳詞は、Richard
D.P. Jones、礒山雅、川端純四郎各氏の訳を参考に作成しました。
本日の編成について
バッハの教会カンタータは、1960年代までは大きなオーケストラと合唱団で演奏されてきましたが、当時の演奏スタイルを追求する古楽運動によって、バッハの残したライプチッヒ市当局への教会音楽についての嘆願書を解釈し、各パート数人の合唱団とソリスト、小規模のオーケストラで演奏される機会が増えてきました。また、90年代の終わりに音楽学者リフキンが、残されている当時の楽譜(パート譜)の構成や当時の音楽活動のサイクルから、教会カンタータは歌も器楽も各パート1人で演奏するという新たな解釈を提案しました。世俗カンタータは、特に表敬の機会の曲はトランペットやティンパニの入る賑々しい曲も多く、この限りではないと考えられていましたが、ヘラクレスカンタータのパート譜は声楽4部とエコーのアルトパートが1部の構成であり、声楽も器楽も教会カンタータと同じ構成であることが分かりました(イギリスの学者であり指揮者のパロットの調査)。本日は合唱も独唱も4人+1人で、器楽は各パート1名で演奏します。(オーボエ2本のパートの一方は、アンサンブルの構成で、フラウト・トラヴェルソで演奏します。) 農民カンタータは、スコアのみしかのこされていませんので、編成は不明です。ただ、喜劇風カンタータと記述されているように、歌手はミーケ[マリア]と男性バスの二人ですし、アンサンブルも田舎風を意識して第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが同じである曲も多いので、同じ構成に致しましたが、楽しい曲なので、声楽アンサンブルの参加の部分も一部構成いたしました
(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)
参考文献
The Cantatas of J.S. Bach (Alfred Durr)
The Essential Bach Choir (Andrew Parrott)
バッハの風景(樋口隆一)
バッハ=カンタータの世界II 世俗カンタータ(Ch.ヴォルフ、T.コープマン、礒山雅監訳)
バッハカンタータの森を歩む3「ザクセン選帝侯家のための祝賀音楽/追悼音楽」(礒山雅)
アンコール
どうもありがとうございました。
沢山の拍手をいただきましたので、
ナチュラル・ホルンの活躍するバッハ:シンフォニアヘ長調BWV1046aからメヌエット
そして最後に本日の演奏者全員で、クリスマスオラトリオBWV248第4部から終曲コラール「イエス、わが行いを導き給え」 をお送りします。
ありがとうございました。
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