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41st
Concert
アンサンブル山手バロッコ第41回演奏会
洋館サロンで楽しむ
“スペシャルな”協奏曲と交響曲の世界
"Special Taste” of Haydn and Mozart Symphony and Concertos in
Salon Concert
横濱・西洋館de古楽2012コンサート “洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第25回コンサート
2012年2月12日(日) 18時開演(17時30分開場) ベーリックホール(横浜市中区山手町72)
18:00 12th February. 2012 at Yamate Berrick
Hall
主催:「横濱・西洋館de古楽」実行委員会 共催:財団法人横浜市緑の協会/横浜古楽プロジェクト
後援:横浜市中区役所 協力:横浜山手聖公会/アンサンブル山手バロッコ/オフィスアルシュ 協賛:東急グループ、元町SS会
崎川晶子(フォルテピアノ)
Akiko Sakikawa (Fortepiano
by P. McNulty, after F. Hoffman)
桐朋学園大学ピアノ科卒業。ピアノを故井口基成、兼松雅子、ジャン=クロード・ヴァンデンエイデン、指揮伴奏を故斎藤秀雄に師事。
ベルギーにてチェンバロに開眼し、シャルル・ケーニッヒ、渡邊順生、パリの古楽コンセルヴァトワールでノエル・スピース、フォルテピアノをパトリック・コーエンに師事。
ドレスデン・カンマーゾリステン、デイヴィッド・トーマスなど外国アーティストとも共演多数。
現在ソロ、コンチェルト、室内楽など多方面で活躍中。ソロCD「ア川晶子/クラヴサンの魅力」「モーツァルトの光と影」「夢見る翼」(ア川晶子のために書き下ろされた上畑正和作品集)等をリリース、好評を博している。
「モーツァルト・フォルテピアノ・デュオ」(渡邊順生氏と共演)は、2006年度レコードアカデミー賞(器楽部門)受賞。「音楽の泉シリーズ」主催。
2011年にはCD「バッハ/アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」をリリース、各誌で絶賛を受ける。
大山有里子(クラシカル・オーボエ)
Ariko Ohyama(Classical Oboe by Robert Cotton ,London late 18 Century )
大阪教育大学音楽科卒業。同大学専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事する。卒業後、関西を中心に活動し、大阪コレギウム・ムジクムのソロオーボエ奏者として、バロック時代の作品を中心に数多くの月例演奏会、定期演奏会等に出演する。
そのかたわらピリオド楽器によるバロック音楽の演奏に興味を持ち、バロック・オーボエを始める。
これまでに各地でオリジナル楽器によるオーケストラやアンサンブルに参加し、現在は関東を中心に活動している。
「アルモニー・アンティーク」「クラングレーデ」メンバー。
永谷陽子(クラシカル・ファゴット)
Yoko Eitani (Classical Fagott by Olivie Cottet after H.
Grenser)
桐朋学園大学卒業。同大学研究科修了。桐朋オーケストラアカデミー修了。ファゴットを浅野高瑛、武井俊樹、馬場自由郎各氏に、バロック・クラシカルファゴットを堂阪清高氏に師事。
2001年より中野仁礼氏と定期的にルネサンス・バロック室内楽コンサートを開催。第12回古楽の森コンサートに、バロック・ファゴットソロで出演。
CD「ヴィヴァルディ:協奏曲『恋人』江崎浩司」(マイスターミュージック)でトリオソナタを演奏。
モダン・クラシカル・バロック・ファゴット奏者としてオーケストラ、室内楽等で活躍。
出演 アンサンブル山手バロッコ
わたしたち「アンサンブル山手バロッコ」は、98年、横浜山手の洋館 山手234番館のリニューアルに行なわれた記念のコンサートをきっかけに、山手在住のリコーダー愛好家 朝岡聡を中心に結成された、バロック時代の楽器(古楽器)を使った演奏団体で、継続的に山手の洋館での演奏活動を続けています。本日の演奏メンバーを紹介します。
朝岡 聡(ナビゲーター)
Satoshi Asaok (Navigator)
1959年横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後テレビ朝日にアナウンサーとして入社。1995年フリーとなってからはTV・ラジオ・CM出演のほか、コンサート・ソムリエとしてクラシックやオペラの司会や企画構成にも活動のフィールドを広げている。リコーダーを大竹尚之氏に師事。福岡古楽音楽祭にも毎年参加して、オープニングコンサートで軽妙かつ的確な司会は好評を得ている。「音楽の友」などに音楽関連の連載多数。1998年にフラウト・トラヴェルソの曽禰寛純と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続している。横濱・西洋館de古楽2012実行委員長。
曽禰寛純(クラシカル・フルート)
Hirozumi Sone (Classical Flute)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で学び、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロックを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。「横濱・西洋館de古楽2012」実行委員会事務局長。
角田幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
Mikio Tsunoda (Classical Violin)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを学ぶ。現在、カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
伊東ゆき乃(クラシカル・ヴァイオリン)
Yukino Itoh (Classical Violin)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。モダンヴァイオリンを久保田良作氏、木村恭子氏に師事。バロック・ヴァイオリンを渡邊慶子氏に師事。
原田純子(クラシカル・ヴァイオリン)
Junko Harada (Classical Violin, Classical Viola)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。バロック・ヴァイオリンを渡邊慶子氏に師事。モダンとバロックの両楽器で活躍。カメラータ・ムジカーレ同人
山口隆之(クラシカル・ヴァイオリン, クラシカル・ヴィオラ)
Takayuki Yamaguchi (Classical Violin, Classical Viola)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサ
ンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川有沙(クラシカル・ヴィオラ)
Arisa Ogawa (Classical Viola)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。
中尾晶子(クラシカル・チェロ)
Akiko Nakao (Classical Violoncello)
チェロを佐々木昭、アンサンブルを岡田龍之介、花岡和生の各氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。
飯塚正己(コントラバス)
Masami Iizuka (Contrabass)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典の各氏より指導を受け演奏を続けている。
アンサンブル山手バロッコ第41回演奏会
洋館サロンで楽しむ
“スペシャルな”協奏曲と交響曲の世界
"Salon Concert of Haydn and Mozart: Special Symphony
and Concertos”
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第25回コンサート
モーツァルトの生きた18世紀
モーツァルトの生きた18世紀。ピアノ協奏曲や交響曲が室内楽用に編曲されて上流階級のサロンで楽しまれていました。イギリスの伝統的サロンを持つベーリックホールで18世紀風演奏会を再現します。ハイドンとモーツァルトの曲を集め、交響曲、協奏曲を含め、貴族や商人の館などサロンで楽しまれたアンサンブルの形でお届けします。オーケストラがなくても立派に響く交響曲やピアノ・コンチェルトは品格に満ちた美しさ。古楽器ならではのプログラムを、西洋館の親密な空間で山手十番館提供の香り高いワインやコーヒーと共にご一緒に味わいたいと存じます。
ハイドンが晩年招聘され数々の名曲を生み出したロンドンでも、モーツァルトがピアノ協奏曲を引っ提げて活躍したウィーンのコンサートでも、交響曲、協奏曲やアリアが組み合わされ演奏されていました。コンサート会場といっても今日のように音楽専用のホールはありませんでしたので、劇場や集会所を借りていました。ウィーンでは100人ほどが入れる規模でも実施され、本日のような邸宅でのサロンコンサートも数多く催されたようです。交響曲は、イタリアで序曲を意味するシンフォニアに由来を持ち、また大序曲(Grand Overture)とも呼ばれており、コンサートの幕開けに演奏されました。そこで、本日のコンサートをハイドンの交響曲のサロン版の演奏でスタートしたいと思います。
F.J.ハイドン(1732〜1809) /J.P.ザロモン(1714〜1815)
F.J.Haydn(1732〜1809) /J.P.Salomon(1714〜1815)
交響曲 第83番 ト短調 「めんどり」 Hob.-I 83より 第1、第4楽章
Symphony or
Grand Quintett g-minor from Symphony No.83 “Hen”
アレグロ・スピリトーソ – アレグロ
Allegro
Spiritoso – Allegro
交響曲83番「めんどり」は、パリのコンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックの依頼による6曲の交響曲(いわゆるパリ交響曲)の最初に作られた2曲の1つで、宮廷楽長時代の1785年に作曲されました。この曲が委嘱された頃、ハイドンは長く続けてきた宮廷でのオペラの作曲を(エステルハージ侯との趣味とハイドンの進める新しい音楽の流れが徐々に合わなくなったからだとも言われていますが)終わらせ、そのエネルギーを外部に向け、このパリ交響曲に注ぎ込みました。遠く離れたパリの豊かなオーケストラをどのように理解し、パリの聴衆をどのように魅了しようとしたのでしょうか。そのあたりは良くわかりませんが、パリ交響曲が、最晩年のロンドン交響曲と並んで、ハイドンの交響曲の中でも際立って充実しているとともに、斬新で刺激的なことも事実です。ニックネームの「めんどり」は、第1楽章の第2主題が、鶏の鳴き声を想像させることから名づけられたようですが、ハイドン自身の命名ではありません。曲は、4つの楽章からなりますが、本日は第1楽章と第4楽章を演奏します。パリ交響曲で唯一短調で始まる第1楽章は、劇的な足取りの第1主題と、ニックネームにもなった軽やかな付点リズムの第2主題からなります。第1主題にも付点のリズムが組み込まれており楽章全体が、その動きに支えられています。第4楽章は12/8拍子の生き生きとしたジーグのリズムに基づいたもので、軽やかな流れの中で曲が締めくくられます。
この交響曲の作曲の5年後、エステルハージ候がなくなり、自由の身になったハイドンは、英国の興行師ザロモンの招聘を受けロンドンに2度滞在し、12曲の名作「ロンドン交響曲」を作曲・演奏し、熱烈な歓迎を受けました。ザロモンは、ハイドンのこの交響曲の演奏の際にコンサートマスターも務めた名ヴァイオリニストであり、作曲家でもありました。彼はハイドンの交響曲の版権を買い取り、弦楽四重奏にフルートと通奏低音のピアノを加えた室内楽曲として編曲出版しました。この編成は大オーケストラの曲を、効果的に演奏するのに実に適切であり、かつ構成もコンパクトなので、サロンでの演奏の機会を一気に開きました。この編曲が成功したためか、ザロモンは他のハイドンの交響曲も、編曲し出版しています。出版年は不明ですが、本日演奏する楽譜は、ロンドンの出版社バーチャルが出版したものです。(慶応義塾大学音楽学教授 石井明先生所蔵のオリジナルの出版譜を提供いただきました。紙面を借りて御礼申し上げます。) オリジナルの出版譜のタイトルは「ザロモンにより五重奏(2台のヴァイオリン、フルート、ヴィオラ、チェロと伴奏ピアノフォルテ)に編曲されたハイドンの3つの大交響曲」となっており、パート譜には、「五重奏曲もしくは交響曲」と書かれています。
W.A.モーツァルト(1756〜1791)
W. A. Mozart(1756〜1791)
オーボエ四重奏曲 ヘ長調 K.370(368b)
Oboe
Quartett F-Major K.370(386b)
アレグロ – アダージョ - ロンド(アレグロ)
Allegro -
Adagio – Rondo(Allegro)
モーツァルトは、多種多様な楽器のための室内楽を書いています。新たに台頭した鍵盤楽器ピアノフォルテを中心とした曲、ハイドンによって生み出された弦楽四重奏曲や、各種の管楽器のための室内楽を残しています。中でも、管楽器と弦楽器を組み合わせた四重奏曲や五重奏曲は、当時の管楽器の名手とモーツアルトの親交から生まれたものも多く、現在まで管楽器奏者にとって重要なレパートリーになっています。オーボエ四重奏曲 ヘ長調 は、1781年にオペラ「イドメネオ」の上演のために訪問したドイツのミュンヘンで、当地の宮廷楽団のオーボエ名手のフリードリヒ・ラムのために作曲されました。モーツァルトよりひと回り年上のこのオーボエ奏者は、大変優れた腕前をもっており、繊細で軽やかな表情をこの楽器に持ち込んだと言われています。ラムとは親しい親交があったようで、マンハイムではオーボエ協奏曲を演奏し、パリでは協奏交響曲を演奏するなど、ラムを念頭とした独奏曲も多く、また晩年まで親交が続いたようです。モーツァルトの交響曲、オペラ、協奏曲でのオーボエの巧みな使用の背景には、このような優れた奏者を通じて楽器の特徴や表現力を理解していたことがあったのだと思います。
このオーボエ四重奏曲は3つの楽章より構成されています。室内楽ではありますが、名手ラムのためにある時は協奏曲風に、またある時は聴く人をはっとさせるほど技巧的な独奏を取り入れていますが、同時にアンサンブルの楽しみや深い表現など完成した美しさをもった曲です。第1楽章は、オーボエがきっぱりとした第一主題で曲を開始します。オーボエのソロパッセージや自由な展開をしながらも、第1主題に関連付けて第2主題を展開するなど熟練の構成が感じられます。第2楽章は短いですが、オーボエが美しく歌う印象的な楽章です。第3楽章は舞曲風のテーマで始まるロンド形式で作られています。ロンドとエピソードは、オーボエ協奏曲の全奏とソロのように構成されていますが、2番目のエピソード部分は、8分の6拍子で演奏し続ける弦楽器の上に、突然、2拍子で書かれた、駆け回るようなオーボエのパッセージが舞い降ります。この趣向は、聴衆を喜ばせるだけでなく、初演時にびっくりしているラムを、弦楽器を弾きながらにこにこして眺めているモーツァルトがいるような気がしてなりません。オーボエは、バロックの時代に大きく変化し、野外の楽器から室内・オーケストラの重要な楽器として用いられるようになりましたが、古典派の時代に向け、もう一段の変化(より細い内径、いくつかの鍵の追加)があり、より繊細で広い音域を演奏できるようになってきました。本日聴いていただく楽器は当時イギリスで作られたオリジナルの楽器で、バロックオーボエと鍵の構成は同じですが、ずっと軽く・繊細に作られています。このような楽器で演奏すると楽器間のバランスがよいのはもちろんですが、モーツァルトの意図した、楽器の能力の限界(いわば鍵盤の端から端)まで使う曲作りを実感できます。
W.A.モーツァルト(1756〜1791)
W. A. Mozart(1756〜1791)
ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191
(186e)
Fagott
Concerto B♭-Major K. 191 (186e)
アレグロ – アンダンテ・マ・アダージョ - ロンド(テンポ・ディ・メヌエット)
Allegro – Andante ma Adagio – Rondo(Tempo di Menuetto)
室内楽だけでなく、協奏曲の分野でもモーツァルトは様々な独奏楽器を扱っています。ここでも親交ある名手やお弟子の演奏家を念頭に書かれたものも多く、またピアノ協奏曲については、モーツァルトがウィーンで独立し生活するためのコンサートで、新進気鋭の楽器ピアノフォルテに向かい、自分の曲を自分で独奏した曲が含まれているため、全作品のなかでも重要なジャンルになっています。
ファゴット協奏曲 変ロ長調は、現在に伝えられたモーツァルトの管楽器のための最初の協奏曲、1774年にザルツブルクで作曲されました。誰のためにどのような機会に作られたかは不明ですが、相当な腕前のファゴット奏者を知っており、この楽器の特性についても良く理解して曲を作っています。この曲は、モーツァルト唯一のファゴット協奏曲であり、かつファゴット奏者は誰でも知っている名曲ですが、不思議なことに演奏会で聴く機会はめったにありません。2003年に鈴木秀美さんの指揮、堂阪清高さんの独奏の演奏会は、オリジナル楽器(当時の様式の楽器と当時の様式オーケストラ)での日本初演だったそうです。鈴木さんは演奏されにくい原因として「オリジナル楽器を用いることによってこそ得られるソロとオーケストラとの音色の溶け合うさま、各楽器が作り出す程良いバランスなどが現代楽器の演奏で得られにくい」と説明しています。本日は、オーボエと同じく、古典派時代に入り、音域の拡大し、より繊細・軽やかになったクラシカル・ファゴットを使い、サロンに入るオーケストラを伴奏に、アンサンブルの楽しみも一緒にお聴かせできればと考え、企画しました。
曲は、3つの楽章からなります。第1楽章は、青年モーツァルトらしい、屈託のない明るい全奏(トゥッティ)で始まる第1楽章、ファゴットが独奏の腕前を示しながらオーケストラとの掛け合いを楽しみます。続く第2楽章は、オペラのアリアのようなメロディーを中心に構成されています。後年の名オペラ「フィガロの結婚」のなかで伯爵夫人が歌う「愛の神様、慰めの手を差し伸べてください」を連想させます。第3楽章は、バロックからギャラント様式の変化を感じさせるメヌエットのリズムによるロンド形式。全員で演奏するメヌエットの主題の間に、技巧的で広い音域を自由に行き来するファゴットの独奏が挟まれており華やかに曲を閉じます。
W.A.モーツァルト(1756〜1791)
W. A. Mozart(1756〜1791)
ピアノ協奏曲 第18番 変ロ長調 K.456
Piano Concerto
B♭-Major
K. 456
アレグロ・ヴィヴァーチェ– アンダンテ- アレグロ・ヴィヴァーチェ
Allegro
vivace – Andante - Allegro vivace
本日最後にお聴きいただく ピアノ協奏曲 第18番 変ロ長調は、ピアノ(クラヴィーア)協奏曲が最も実り多く創作された1784年の9月にウィーンで作曲され、翌年初めにモーツァルト自身の独奏で初演されました。演奏会には、ザルツブルクから息子の演奏会を聴きに来た父レオポルト・モーツァルトや、オーストリア皇帝も同席しました。レオポルトは、素晴らしいピアノ協奏曲をモーツァルトが弾いたこと、楽器の間の相互作用がはっきり聴き分けられ、喜びで涙があふれ出たこと、そして皇帝が「ブラヴォー モーツァルト」と喝采したことを、モーツァルトの姉ナンネルに詳細に書き送っています。先ほどのファゴット協奏曲でもオペラとの連想を書きましたが、このピアノ協奏曲も、演奏の翌年に完成するオペラ「フィガロの結婚」との関連があると言われています。第1楽章の飛び跳ねるような主題はフィガロのおどけた仕草を、第2楽章の主題はバルバリーナの第4幕での独唱を思い起こさせます。また、この年のピアノ協奏曲あたりからオーケストラの管楽器の独立した扱いが増加し、ピアノや弦楽器との対比・会話が曲の広がりを一気に大きくしていますが、これもフィガロにおける巧みな管楽器の利用、場の情景を巧みな色彩感で描くことと通じるように思います。
第1楽章はソナタ形式で書かれており、符点のリズムの軽やかな主題は、この楽章全体の基本の雰囲気を構成しています。第2楽章は主題と変奏の様式をとっていますが、管楽器セクションとの対話、対比が特徴的です。最後の楽章は、8分の6拍子のロンド形式で書かれており、流れるような旋律と駆け抜けるようなピアノ独奏で一気に最後まで聴かせます。このフィナーレでもオーボエ四重奏と同じように、8分の6拍子で弾き続ける弦楽器の上に、ピアノと木管楽器が4分の2拍子で重なる部分が組み込まれています。これはモーツァルトの自演なので、お客様の驚き楽しむ様子を見ながら演奏したのでしょうか。
***
最後に、楽器について一言。モーツァルトはバロック時代からの楽器チェンバロから、使われ始めたピアノ(ピアノフォルテ)まで経験しましたが、当時のピアノは現在のピアノに比べて、その構造(軽い材質の弦、軽いアクションの打弦装置、木製の楽器本体など)から、ずっとチェンバロに近く、当時はクラヴィーアとしてチェンバロでもピアノフォルテでも弾ける曲がたくさんありました。このピアノ協奏曲はウィーン時代のピアノフォルテを前提とした曲ですが、当時の楽器の組み合わせで、軽やかなタッチや繊細なニュアンス、オーケストラとの親密なアンサンブルを味わいたいと思います。本日は当時のモデルのピアノフォルテ独奏に、フルート、オーボエ、ファゴット各1本と弦楽からなる当サロンオーケストラ伴奏でお楽しみいただきます。
アンコール
どうもありがとうございました。
沢山の拍手をありがとうございます。今日はハイドンの協奏曲がありませんでしたので、アンコールで、ハイドンのピアノ協奏曲をお届します。
ハイドン/ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob. XVIII:11 より 第3楽章(Rondo All'ungherese)をお聴きいただきましょう
今後も山手バロッコをよろしくお願いします。
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