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128th Concert
アンサンブル山手バロッコ第128回演奏会
横浜開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲とセレナード
Mozart’s
Concerto and Serenade with period instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第145回
2024年10月12日(土) 14時開演
神奈川県民ホール・小ホール
14:00 12th Oct.
2024 at Kanagawa Kenmin Hall
主催:アンサンブル山手バロッコ
後援:横浜市中区役所
出演
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
今西 香菜子(クラシカル・オーボエ)
13歳よりオーボエを始め、これまでにモダン・オーボエを東野正子、故本間正史、故柴山洋に、バロック・オーボエを故本間正史に師事。桐朋学園大学及び同研究科終了。若尾圭介、ジョナサン・ケリー、リチャード・ウッドハムス等のマスタークラスを受講現在エンゼルミュージック(小田急相模原)、フォレストミュージック(学芸大学)各講師。また、自宅レッスン、出張レッスン、リード販売、エキストラ出演などの活動を行う。
石野 典嗣(クラシカル・オーボエ)
バロック・オーボエ、バロック・ファゴットを独学で学ぶ。古楽器演奏家の追っかけと押しかけレッスン受講歴有。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、アンサンブル山手バロッコメンバー
山本 圭祐(クラシカル・オーボエ)
中学校の部活のオーケストラでオーボエを始め、現在までオーケストラ、室内楽、ソロなどで活動している。モダン・オーボエを故本間正史氏に、バロック・オーボエを三宮正満氏に師事。アプリコシンフォニーオーケストラ、アンサンブル・ブライトン団員。慶應バロックアンサンブルOB、ンサンブル山手バロッコメンバー。
永谷 陽子(クラシカル・ファゴット)
桐朋学園大学卒業。同大学研究科及びオーケストラアカデミー修了。バロック・ファゴットを堂阪清高氏に師事。第26回国際古楽コンクール奨励賞。古楽、モダン両分野でオーケストラや室内楽、CD録音に参加。YouTube『烏山バロック倶楽部』好評配信中。
前原 聡子(クラシカル・ファゴット)
ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始め、二口晴一氏、長谷川太郎氏に手ほどきを受ける。現在、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。アンサンブル山手バロッコメンバー。
飯島さゆり(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学、フランクフルト音楽大学を卒業、ブリュッセル音楽院を修了。在独中、トリア市及びドルトムント市立歌劇場管弦楽団の契約団員を務める。 ホルンを故千葉馨、故田中正大、守山光三、堀内晴文、マリー・ルイゼ・ノイネッカー、ヨアヒム・ペルテル、故アンドレ・ファン・ドリーシェの各氏に、ナチュラル・ホルンをクロード・モーリー氏に師事。埼玉県立大宮光陵高校及び千葉県立幕張総合高校音楽専科非常勤講師。
慶野 未来(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学附属高校を経て、東京藝術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。 現在神奈川県立弥栄高校 音楽科非常勤講師。
本間 雄也(クラシカル・ティンパニ)
12歳より打楽器を始める。 東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業。同大学院修士課程2年次在籍。第26回日本クラシック音楽コンクール打楽器部門高校の部において、第4位受賞。GPS主催第3回スネアドラムコンテスト音大生部門において金賞、グランプリを受賞。
第19回イタリア国際打楽器コンクールスネアドラム部門カテゴリーBにて第3位受賞。第39回打楽器新人演奏会にて最優秀賞受賞。これまでに、打楽器を高田亮、杉山智恵子、藤本隆文の各氏に、ドラムスを齋藤たかし氏に師事。
小野 萬里(クラシカル・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。弦楽アンサンブル Sonore Cordi を指導している。
平松 晶子(クラシカル・ヴァイオリン)
京都府出身。6歳よりヴァイオリンを始め11歳より故阿部靖氏に師事。ヴァイオリンのルジェロ・リッチ、フランコ・グッリ、室内楽をディド・クーニング各氏の国内外マスタークラス受講。ヴィオラ・ダ・ガンバを神戸愉樹美氏に、バロック・ヴァイオリンを赤津眞言氏に学ぶ。近年は中川さと子氏とのヴァイオリン・デュオ、concerto・Arioso(初期イタリアバロック)、古楽団あおばなど、複数のアンサンブルで演奏活動。東洋英和女学院中高部器楽科講師。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
木村
久美(クラシカル・ヴァイオリン)
ヴァイオリンを森田玲子、森悠子、北浜怜子、バロック・ヴァイオリンを小池はるみ、赤津真言の各氏に師事。ザロモン室内管弦楽団メンバー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
近藤 良子(クラシカル・ヴィオラ)
洗足学園音楽大学、同大学院ピアノ専攻修了。現在ピアノ講師を務める他、演奏活動も行う。ヴィオラは中学から副科として始め、アマチュアオーケストラやアンサンブルなどで演奏。アンサンブル山手バロッコメンバー。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。アンサンブル山手バロッコメンバー。
飯塚 正己(コントラバス)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典、大黒屋宏昌の各氏より指導を受け演奏を続けている。
アンサンブル山手バロッコメンバー。
寺村 朋子(フォルテピアノ)
東京藝術大学チェンバロ科卒業。同大学大学院修士課程修了。山田貢、鈴木雅明の両氏に師事。第7回国際古楽コンクール山梨にて第2位入賞。イタリア、オーストリア、ベルギーなど国内外のアカデミーに参加して研鑽を積む。NHK「FMリサイタル」に出演。「フルートバロックソナタ集」、「J.S.バッハ作品集」(増刷)を編曲出版。チェンバロソロCD「Capriccioお気に召すまま」(レコード芸術準推薦)リリース。バロック時代を中心に、近年では中世声楽からフォルテピアノまで幅広く活動中。宮地楽器チェンバロ科講師。日本チェンバロ協会会員。(一財)チェンバロ振興財団クープラン理事。YouTube「Cembaloチェンバロう!」にて演奏動画配信中。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第128回演奏会
横浜開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲とセレナード
Mozart’s Concertos and Serenade with period instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第145回
2009年にスタートした「横浜開港記念コンサート」。横浜市のご支援をいただき今年も開催することとなりました。バロック時代の音楽に加え、2019年の開港160周年以降は、モーツァルトを中心とした古典派時代の音楽もお届けしています。
古典派の5回目の本コンサートは、モーツァルトの20代の初めのザルツブルクの宮廷音楽家としての活動とパリへの就職活動を兼ねた旅行の時の曲(セレナータ・ノットゥルナと管楽器のための協奏交響曲)、そして、ウィーンに出て大活躍の1784年から最晩年までの曲(フォルテピアノ協奏曲第19番とホルン協奏曲第1番)の2つの時期をテーマとしたコンサートです。当時の響きを皆様と一緒に楽しみたいと思います。
♪ ♪ ♪
W.A.モーツァルト(1756-1791)は、オーストリアのザルツブルクで生まれ、幼少から父親レオポルトの英才教育と欧州各地の音楽先進地への音楽旅行を通じて演奏と作曲の才能を開花させ、30余年の短い生涯に多種多様なジャンルに多くの名曲を残しました。16歳の時にザルツブルクの宮廷楽団に就職しましたが、その後も就職活動を兼ねてマンハイム、パリなど欧州の都市への旅行を重ねました。25歳でザルツブルクの司教と決別し、ウィーンへ移りフリーランスの音楽家として教師、演奏、作曲と幅広く活躍し、30歳で皇帝ヨゼフ二世により宮廷作曲家に任じられました。1791年に亡くなるまで、活発な活動を続けました。(本日の演奏曲と作曲の順序は以下の通りです)
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
ホルン協奏曲 第1番 ニ長調 KV412/514
Horn Concerto in D major KV412/514
アレグロ – ロンド アレグロ
Allegro – Rondo Allegro
ホルン協奏曲は、現在残されているものが4曲あり、作曲年代の推定から、1番から4番までの番号、KV番号が付けられ伝統的に使われてきましたが、近年の資料鑑定技術の進歩や新たなモーツァルト手稿の発見により、現在では、以下のように作曲年代が改められています。
1783年作曲 ホルン協奏曲 第2番 変ホ長調 KV417
1786年作曲 ホルン協奏曲 第4番 変ホ長調 KV495
1787年作曲 ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調 KV447
1791年作曲 ホルン協奏曲 第1番 ニ長調 KV412/514
これらの4曲は、モーツァルトがザルツブルクの宮廷楽団で1770年代の終わりまで、一緒に活動したホルン奏者ロイトゲープのために作曲されています。ロイトゲープはモーツァルトより24歳も年上でしたが、モーツァルトと同じころウィーンに移り住み、そこでソーセージ職人兼ホルン奏者として活躍し、終生親密な関係を保ちました。本日演奏するホルン協奏曲第1番 ニ長調は、長らく最初に作曲されたホルン協奏曲と考えられていましたが、その後の研究でモーツァルト最晩年の1791年1月〜10月の間に作曲し、未完成の第2楽章を含めて、死後に弟子のF.X.ジュスマイヤーが補筆完成させたものだと判明しました。このモーツァルト最後の協奏曲は、60歳になろうとしているロイトゲープに対して、演奏しやすいニ長調で作曲され、その自筆譜面には彼宛の愉快な冗談「静かに〜君、驢馬君、元気をだして〜・・・」が記されるなど、2人の親愛な関係が続いていたのが分かります。
第1楽章は、晩年のモーツァルトに特徴的な穏やかな音階から構成されるインペリアル様式の主題で開始され、ホルンソロは牧歌的・狩猟的な素朴な雰囲気を持っています。インペリアル様式とは、1788年に皇帝ヨゼフ二世から宮廷作曲家に任じられたモーツァルトの創作活動に特徴的なもので、主題については優美で滑らかな特徴があります。第2楽章は、モーツァルト定番の狩りのロンドです。ジュスマイヤーは、中間部でエレミアの哀歌(旧約聖書)の哀しみのメロディを組み込み、師モーツァルトの死を悼んだと考えられています。
[ソリスト慶野未来さんに質問] この曲の演奏について
「この曲は私がホルン奏者を目指すきっかけになった曲です。40年ほど前、中学の吹奏楽部でホルンを手にしてから1年ちょっとたったころ、クラシック好きだった父からもらったレコードがモーツアルトのホルン協奏曲でした。ヘルマン・バウマンが奏でるホルンの音色に夢中になりました。何度も何度も聴いているうちにプロを目指したくなってしまい、音楽高校の受験を決意し、今に至っています。高校に入って最初の実技試験など何回か演奏してきたこの曲ですが、古楽器での演奏は初めて。とても楽しみにしています。よろしくお願いいたします。」
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
セレナータ・ノットゥルナ ニ長調 KV239
Serenade in D major “Serenata notturna”
KV239
行進曲 マエストーソ – メヌエット/トリオ/メヌエット – ロンド アレグレット/アダージョ/アレグロ
Marcia Maestoso – Menuetto/Trio/Menuetto- Rondeau Allegretto/Adagio/Allegro
次に演奏するセレナータ・ノットゥルナ ニ長調 KV239が作曲されたのは1776年1月、モーツァルト19歳の時です。この頃は、ザルツブルクの大司教お抱えの音楽家として教会や大学、市長らの依頼によって式典や饗宴などの機会に演奏する曲(機会音楽)を多く作曲しました。これらの曲は厳格な形式はなくセレナーデ、ディベルティメントなどと呼ばれ、屋外で演奏されることも多かったようです。
このセレナータ・ノットゥルナは、どういう機会のために作曲されたかは不明ですが、新しいアイデアに溢れた力作です。ノットゥルナは「夜」という意味で、とある式典の後の晩餐会で演奏されたのかもしれません(ナハトムジーク)。後年に作曲された同じような意味を持つ代表作「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に通じるものを感じるところもあります。
この種の音楽では定番の行進曲。楽隊の入場です。第2楽章は楽しいメヌエットで途中に独奏群によるトリオ部分を含んでいます。フィナーレ第3楽章は楽しいお祭り的な主題が何度も繰り返されるロンド形式で書かれています。
[ソリストのみなさんに質問] この曲の楽しみかたについて・・・
角田幹夫さん(第1ヴァイオリン)
「モーツァルトほどのエンタテイナーが、この曲で祝宴のお客をどう楽しませたのか、ひょっとすると奇想天外な仕掛けを用意したかも? さて、山手バロッコはどう仕掛けるか、見ての、いや聴いてのお楽しみ・・・」
小野萬里さん(第2ヴァイオリン)
「私が弾く2番の役はとても忙しい。例えれば壇上にいる山手バロッコの面々五人分。アナウンスして、弾いて、椅子を動かし、ピアノを移動し、また弾いて、おじぎ…しかし楽譜にセレナータ・ノットルナとあります。ならば私の役回りは、第1ヴァイオリンが弾く愛の内面を図らずも映し出す可笑しいドタバタか・・・考え中です。」
小川有沙さん(ヴィオラ)
「コンチェルティーノにヴィオラが入る編成は珍しいので、いつもと違うポジションにどぎまぎしております。譜面に散りばめられた遊び心を楽しみながら、他の楽器と軽やかに会話できたらいいなと思っています。」
飯塚 正己さん(コントラバス)
「天才が遺してくれた素敵な贈り物のようなこの曲を、楽しく対話するように演奏出来たらと思います。」
本間雄也さん(ティンパニ)
「皆さまとは2回目の共演です。前回演奏させていただいたバッハの”太鼓よ鳴れ
ラッパよ響け” など、バロックや古典ではティンパニはトランペットと一体となりアンサンブルをすることが基本ですが、今回のセレナータでは弦楽合奏とティンパニが直接のアンサンブルで奏でられます。新鮮な響きの中で、ご一緒できることをとても嬉しく思います。」
♪ ♪ ♪
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
管楽器のための協奏交響曲 変ホ長調 KV297bより第2楽章、第3楽章 (R.レヴィン/山手バロッコによる復元版)
Sinfonia Concertante in E-flat major KV297b
アダージョ – 主題と変奏 (アンダンティーノ)
Adagio – Andantino (Theme and Variations)
この2年後の1778年、モーツァルトはマンハイム、パリへの旅行に出発します。パリで有名な楽団コンセール・スピリチュエルの支配人ジャン・ル・グロと親しくなり、パリのテュイルリー宮殿で開催されるコンセール・スピリチュエルの演奏会のために4つの管楽器(フルート、オーボエ、ホルン、ファゴット)のための協奏交響曲(KV297b)を作曲しました。協奏交響曲とは、当時流行の音楽形式で、複数の独奏楽器とオーケストラの編成で全奏と独奏が交互にあらわれ、ソロ奏者は独奏でまた独奏楽器のアンサンブルで、全奏のテーマを展開させ、腕前を披露するものです。モーツァルトはザルツブルクやマンハイムでの活動を通じて親交のあった、フルートのウェンドリング、オーボエのラム、ホルンのプント、ファゴットのリッターという欧州に名をとどろかせる名手たちのために作曲しました。しかし、この曲は作曲されたものの支配人グロの手に渡ったまま、なぜかコンセール・スピリチュエルでの演奏は実現されず、楽譜も消失してしまいました。
その後、モーツァルトの研究者オットー・ヤーンの遺品の中から1800年代の手書きのスコアで、オーボエ、クラリネット、ファゴットとホルンのための協奏交響曲が発見されました。これが失われたパリの協奏交響曲で、フルートをクラリネットに替えてモーツァルトが編曲したものとして演奏されてきました。ところが20世紀に入り、様式的に疑わしいという研究が続き、新モーツァルト全集で、偽作として扱われているなど、作曲の真相が見えない幻の曲となっています。
1988年、この幻の曲について、音楽学者でフォルテピアノ奏者のロバート・レヴィンが、「誰がモーツァルトの4つの管楽器のための協奏交響曲を作曲したのか?」を発表しました。当時のパリで演奏された他の作曲家の協奏交響曲との比較や当時の楽器の音域、4人のソリストの特徴、またモーツァルトの他の楽曲との比較などを通じて、「ソロパートはモーツァルトの真作を、19世紀に新しい楽器編成に組み替えられたものであり、オーケストラの伴奏は、新たに編曲者が作曲追加したものである」と結論づけ、当初のソロパートと新たなオーケストラパートによる復元を行いました。それ以来、復元版の演奏もされるようになりましたが、古楽器での演奏にはお目にかかったことが無かったので、私たちは、このレヴィンの復元稿を元に、2019年に第1楽章アレグロを演奏しました。
今回は残りの2つの楽章を復元し演奏します。第2楽章アダージョは穏やかな緩徐楽章で、ソロ楽器の下降するテーマが重なり合い始まります。 今回のコンサートではこの楽章から曲を始めます。第3楽章は2部形式の愛らしいテーマと10の変奏から構成されます。各変奏は4本のソロ楽器が単独で、組合せで変奏部分をリードします。4本が会話のような掛け合いをしたり、変化のあるリズムで腕前を披露したり、オーケストラとの掛け合いを楽しんだりと多様に変化して進んでいき、最後は快活な6/8拍子となり、曲を閉じます。パリの香り立つモーツァルトの響きをお聴かせすべく、当時の名人達への尊敬の念をもって演奏します。
- [ソリストのみなさんに質問] この曲の復元演奏ついて・・・
曽禰寛純さん(クラシカル・フルート)
「復元版では、フルートが独奏で登場しますが、当時のフルートでは難しい♭3つの変ホ長調を演奏することになり冷汗が。今回第2、第3楽章を演奏し、全曲を復元版で完奏しますが、やはり当時の楽器にとっては超絶技巧が登場し、スリルあふれる作曲がされています。演奏者と一緒にお楽しみください。」
今西香菜子さん(クラシカル・オーボエ)
「演奏するクラシカル・オーボエは、キーが二つしかついておらず演奏者のコントロール能力が問われます。現代のオーボエだと普通に演奏できるフレーズが、当時の楽器では超絶技巧…なんてことも。昔の演奏家の苦労を身をもって知ることになるのですが、楽器の持つ柔軟な表現力や味のある音色など、便利になると失われることも多いということも分かり、曲と楽器の時代が合っているというのは良いものだと感じます。現代では少なくなったスタイルの曲で、楽器の音色の変化や対話を楽しんでいただけたらと思います。」
飯島さゆりさん(ナチュラル・ホルン)
「5年前に続き、参加します。前回は1楽章のみでも、その難しさに悲鳴をあげておりましたが、続きの2、3楽章に挑戦する事になり、我ながらチャレンジャーだなぁ…と感心して(呆れて?)おります。少しでも、モーツァルト時代の香りを楽しんでいただけますよう、精進致します。(プント様、何卒ご加護を…!)」
永谷陽子さん(クラシカル・ファゴット)
「時を経て第2、第3楽章を演奏できる機会に感謝をしております。♭が3つの調性で超絶難しいパッセージのオンパレード!どの運指で演奏するか等、課題ばかりですが、楽しく取り組みたいと思います。」
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
フォルテピアノ協奏曲 第19番 ヘ長調 KV459
Fortepiano Concerto in F major KV459
アレグロ – アレグレット - アレグロ・アッサイ
Allegro - Allegretto – Allegro assai
モーツァルトは1781年にザルツブルクの宮廷音楽家の地位を捨て、ウィーンに移り住み、フリーの音楽家として演奏会、オペラの作曲、レッスン、楽譜の出版などで生計を立てるようになりました。特に1782〜4年には、多くの予約演奏会が開催され、新しい楽器フォルテピアノの協奏曲の演奏が行われました。
フォルテピアノ協奏曲第19番ヘ長調は、1784年ウィーンで作曲された5曲の協奏曲(14番-19番)の最後の曲です。モーツァルトは、17,18番と同じく行進曲のテーマでスタートし、全曲がきびきびした曲となっています。第1楽章は、この行進曲風のテーマが何度も現れ統一感を生むと同時に、フォルテピアノとオーケストラとの一体化が進み、交響曲のような響きを生み出しています。
この前後、モーツァルトの交響曲の作曲は中断していますが、フォルテピアノ協奏曲に交響曲の特徴を組み込み、新たな境地に至ったと言えます。第2楽章はアレグレットと記載された6/8拍子の緩徐楽章で、穏やかなテーマでオケとの会話を交わしながら進んでいきます。第3楽章は、ロンド楽章で、愉快なテーマをフォルテピアノ、木管楽器、弦楽器の間で軽やかにやり取りされ進んでいきます。「魔笛」のパパパを連想させるような楽章です。途中で、フーガ風の重厚な展開も加わりいろいろな色彩を交え、楽しく曲が終了します。なお、この曲は、1790年10月に皇帝レオポルト2世の戴冠式を祝した音楽会で、このために作曲されたフォルテピアノ協奏曲第26番「戴冠式」とともに演奏された可能性があり、「第2戴冠式協奏曲」とも呼ばれています。
[ソリストの寺村朋子さんに質問] この曲の楽しみついて・・・
「協奏曲はオーケストラとソロという対比の楽しみがありますが、この作品はオーケストラの中で更に、管楽器群と弦楽器群の対話も多く、管・弦・ピアノで厚みのある大らかなトリオソナタの趣を感じる場面があります。それぞれ模倣したり、外れものになったり、仲介したり、仲直りしたりしながら進んでいく道中を、山手バロッコさんと一緒に作り上げる時間が本当に楽しみです。私達が電話からポケベル・携帯・スマホへと変化したように、チェンバロから新しい楽器フォルテピアノへ、当時の人々も驚き戸惑いながら新しい表現を試して楽しんでいたのでは、、と想像します。時空を超えて、そのワクワク感を皆様と共有出来ましたら幸いです。
ソリストの使用楽器
フォルテピアノ、18世紀末 A.ワルタータイプ 製作:野神俊哉(2013年)
たくさんの拍手をいただきありがとうございました。
アンコールとして「きらきら星変奏曲」テーマと第1変奏の途中から「フォルテピアノ協奏曲 第19番 ヘ長調」より第3楽章(アレグロ・アッサイ)の終結部を、トランペット(オーボエで代替)、ティンパニを含む、第2戴冠式推定の編成でお送りしました。
。
参考文献
1)海老澤 敏: モーツァルト事典(東京書籍、1991)
2) N.Zaslaw / Mozart’s Symphonies- Context, Performance Practice, Reception (Oxford University Press, 1989)
3) Robert D. Levin/Who Wrote the Mozart Four-wind Concertante? (Pendragon Press, 1988)
4)Eva Badura-Skoda/ The Eighteen Century Fortepiano Grand and its Patrons, Indiana University Press, (2017)
5)M. Harlow/ Instruments and Instrumentalists in Vienna (P.Keefe “Mozart in Context”) Cambridge Univ. Press, (2019)
6)C.Wolff / Mozart at the Gateway to His Fortune: Serving the Emperor, 1788-1791 (W.W.Norton & Company, 2012)
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