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127th Concert
西洋館で親しむ
モーツァルトのフォルテピアノ-IV
Mozart and Fortepiano-IV
“洋館で親しむバロック音楽”第144回
2024年6月28日(金) 19時開演(18時30分開場) 横浜市イギリス館(横浜市中区山手町115−3)
19:00 28th June. 2024 at British house
Yokohama
主催:アンサンブル山手バロッコ
出演
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。 現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。 アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
本日使用するフォルテピアノは、Anton Walter(1800年頃)をモデルに野神俊哉氏が製作(2013年)した楽器です。
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アンサンブル山手バロッコ第127回演奏会
西洋館で親しむ
モーツァルトのフォルテピアノ-IV
Mozart and Fortepiano-IV
“洋館で親しむバロック音楽”第144回
プログラムノート
(曽禰寛純/角田幹夫/和田章)
横浜市イギリス館は、1937年に、英国総領事公邸として建設された由緒ある建物です。このイギリス館の素晴らしい客間で前回(Part-III)に引き続き、モーツァルトの愛したワルターモデルのフォルテピアノと当時のスタイルの古楽器によるアンサンブルで18世紀のサロンコンサートをお届けします。当時楽しまれた家庭音楽やサロンコンサートの味わいをご一緒に楽しみましょう。
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モーツァルトとフォルテピアノ
モーツァルト(1756-1791)の鍵盤楽器は、幼少時のチェンバロから、当時の音楽と楽器の変化に伴って、徐々にフォルテピアノになっていきます。18世紀初頭にイタリアで誕生したフォルテピアノは、しばらくはバロック音楽の中心にあったチェンバロの背景に隠れていましたが、製作者による工夫を積み重ねられていきました。晩年のバッハが次男カール・フィリップ・エマヌエルの仕えているベルリンのフリードリッヒ大王の宮廷に招かれたときには、ゴットフリート・ジルバーマン(1683-1753)製作のフォルテピアノを試奏した記録が残されています。バッハの息子たちの時代になるとフォルテピアノの台頭が進みました。モーツァルトは、バッハの末息子で作曲家・鍵盤楽器奏者のヨハン・クリスチャン・バッハとロンドンで出会い生涯親交を持ちますが、その時期、楽器はフォルテピアノに変化していました
さて、モーツァルトは、ジルバーマンの流れを汲むアウグスブルグのフォルテピアノ製作者であり「ウィーン式アクション」と呼ばれるアクションを完成させたヨハン・アンドレアス・シュタイン(1728-1792)のフォルテピアノと1777年に出会い、演奏会を行って、父親にその楽器の素晴らしさを興奮した様子で報告しています。1781年にウィーンに移り、独立した音楽家として活躍を始めたモーツァルトは、シュタインの流れを汲むウィーンの名工、アントン・ワルター(1752-1826)のフォルテピアノを所蔵し、演奏家、作曲家、教師としての活動の中心にこの楽器を据える生活を送りました。ワルターの楽器は、シュタインのウィーン式アクションに改良が加えられ、連打が更に安定するメカニズムが搭載されました。本日は、このワルターのフォルテピアノを中心としたモーツァルトとハイドンの室内楽を、同時代のスタイルの管楽器、弦楽器とともにお届けいたします。
F.J.ハイドン/交響五重奏曲 ト長調
Hob. I:94から第2楽章
(交響曲第94番のザロモン/山手バロッコによるフルート、弦楽三重奏、フォルテピアノのための編曲)
F.J.Haydn/J.P.Solomon&Yamate-barocco/Symphony
Quintet in D-major for Flute, String Trio and Fortepiano "Surprise"
Hob.I:94
アンダンテ Andante
最初に演奏するハイドン(1732-1809)の交響五重奏曲 ト長調 Hob. I:94は、有名なロンドン交響曲の室内楽版です。 1732年生まれのハイドンは長らくエステルハージ候の宮廷楽長として、交響曲、協奏曲や室内アンサンブルの作曲と演奏を行いました。田舎の宮廷にとどまってはいましたが、前衛的で完成度の高い彼の作品は広く筆写譜や出版譜として取引され、その名声はヨーロッパ中に鳴り響いていました。またモーツアルトとも親交が深く、モーツァルトが斬新な弦楽四重奏曲を献呈し、現在ハイドンセットとして代表作となっているのも天才同士の交流ゆえのものと考えられます。
1790年にエステルハージ候が亡くなり、宮廷楽長の職務から解放されたハイドンは、自由な音楽活動を行うことができるようになりました。興行師J.P.ザロモン(1745- 1815)の招聘により、1790年にウィーンを出発し、ロンドンに滞在します。そこで一連の名作「ロンドン交響曲」を作曲・演奏し、熱烈な歓迎を受けたのです。
ザロモンは、ハイドンのこの交響曲の演奏の際にコンサートマスターを務めた名ヴァイオリニストであり、作曲家でもありました。彼はハイドンの交響曲の版権を買い取り、弦楽四重奏にフルートとピアノを加えた室内楽曲として1798年に編曲出版しました。本日は交響曲第94番「驚愕」から第2楽章をザロモンの出版譜をもとに、フォルテピアノも上声の一部を担当し活躍する形で、フルート+ピアノ四重奏曲の編成に仕立てて演奏いたします。
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ 変ロ長調 KV454
Sonata for Violin and Fortepiano in B flat-major KV454
ラルゴ/アレグロ − アンダンテ − アレグレット
Largo / Allegro − Andante − Allegretto
モーツァルトは、7歳の頃から亡くなる3年前まで生涯を通してクラヴィア(チェンバロ、フォルテピアノ)とヴァイオリンのためのソナタを作曲しました。ピアノの名手でありまたヴァイオリンの名手でもあったモーツァルトのこの編成の曲で今真作とされているのは、全部で26曲を数えます。20歳以降作曲されたソナタは16曲で、家庭やサロンにおける家庭音楽の需要に応えるように、その全てが彼の生前から出版され大好評を博しました。
1784年に作曲されたヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ 変ロ長調 KV454は、ウィーンで発表した作品の中でも規模の大きい曲の一つです。初演はヨーゼフ二世臨席のもと、モーツァルトが「豊かな様式感と感情をもった素晴らしいヴァイオリニスト」と評した20歳のイタリア人女流奏者と彼自身のピアノで演奏されたことが父親宛の手紙に記されています。
第1楽章は冒頭に序奏を持つどっしりした構造。第2楽章は抒情性に富んだ旋律を2つの楽器が心ゆくまで歌います。第3楽章は印象的なテーマが繰り返す間に、2つの楽器が競い合うようにしてフィナーレに向かいます。
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
フルート四重奏曲 イ長調 KV298
Flute Quartet in A-major KV298
アンダンテ − メヌエット/トリオ/メヌエット − ロンド
Andante – Menuet/Trio/Menuet - Rondo
前半最後に演奏するフルート四重奏曲イ長調 KV298は、1786年終わりにウィーンで作曲されました。モーツァルトはウィーンで親密な関係をもった、ジャカン男爵家の音楽会のためにこの曲を作ったと考えられています。当時流行したよく知られた旋律を主題にした四重奏曲のスタイルで、3つの楽章から構成されています。
第1楽章はモーツァルトの友人で作曲家兼出版者のフランツ・アントン・ホフマイスター(1754–1812)の歌曲「自然に寄す」をテーマとした変奏曲で各楽器が活躍します。第2楽章はフランスの民謡「バスティアンは長靴を履いている」に基づいているかわいらしいメヌエットです。第3楽章は、この年に初演されたパイジェッロのオペラからのアリア「優しい恋人はどこにいるの」をテーマにしたロンド。
ふざけたロンドの綴り(Rondieaux)に加え、知り合いと思われるフルート奏者へのユーモアあふれる指示「あまり速すぎず、といってもあまり緩やかでもなく、そうそう、とても優美に、そして表情たっぷりに・・・」を書き込んでいます。
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W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
フォルテピアノ三重奏曲 変ホ長調 “ケーゲルシュタット・トリオ” KV498
Trio for Fortepiano, Violin and Viola in
E♭-major "Kegelstatt Trio" KV498
アンダンテ - メヌエット - ロンド :アレグレット
Andante - Menuetto - Rondeau :Allegretto
モーツアルトは友人の上記のF.A.ホフマイスターから頼まれて3曲のピアノ四重奏曲を作り始めました。最初の一曲(ト短調KV478)を出版(1785)しましたが、その後突然、ストップがかかりました。理由はこの曲があまりに深刻で難解すぎて、楽譜の売れ行きを危うんだためと言われています。モーツァルト自身は知ってか知らずか、全く一番とは違う大らかで明るい一曲を作り上げ、別の出版社からこれを出版(1786)しました。これが本日お届けするフォルテピアノ四重奏曲第2番(変ホ長調KV493)です。当時ピアノ四重奏曲という形式の曲は殆どどの作曲家も作っておらず、ホフマイスターにとっては新たな分野への挑戦だったとも言われており、モーツァルトにとってはいい面の皮ではなかったかとも思います。しかしながらモーツァルトファンにとっては大変有難い2曲ですし、惜しむらくは第3番を永久に失ってしまったことでしょう。
曲は3楽章から成り立ちます。第1楽章アレグロは全楽器による大らかな主題に始まります。その後第2主題のモチーフが現れて展開を繰り返し、コーダまでリードします。第2楽章ラルゲットは情緒豊かな緩徐楽章。第3楽章アレグレットは優しく控えめなテーマがピアノから始まり、弦楽三重奏と対話をしながら、三連符の連なるパッセージを交えて展開され、フィナーレを迎えます。
たくさんの拍手をいただきましたので、アンコールとして、
最初にお聴きいただいたハイドンの交響五重奏曲 ト長調 Hob. I:94から第3楽章メヌエットをお聴きいただきます。
ありがとうございました。
参考文献
海老沢敏ほか監修/モーツァルト事典、 東京書籍
(1991)
E. Klorman/Mozart’s Music of Friends – Social Interplay in the Chamber Works, Cambridge University Press (2016)
Eva Badura-Skoda/The
Eighteenth-Century Fortepiano Grand and Its Patrons, Indiana University Press (2017)
S.P.Keefe/Mozart in Context, Cambridge
University Press (2018)
井上太郎/ハイドン 106の交響曲を聴く、春秋社(2009)
C.Hogwood/Haydn’s Visits to England, Thames&Hudson Ltd.(2009)
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