これまでの演奏会へ戻る
NEW!!
119th Concert
アンサンブル山手バロッコ第119回演奏会
横浜開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
ハイドン・モーツァルト・ロッラの協奏曲
Concertos of Haydn, Mozart and Rolla with
period instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第134回
(本コンサートは神奈川県マグカル展開促進補助金の助成を受けて実施しています)
2023年10月9日(月) 14時開演
神奈川県民ホール・小ホール
14:00 9th Oct. 2023
at Yokohama Port Opening Memorial Hall
主催:アンサンブル山手バロッコ
後援:横浜市中区役所
出演
朝岡
聡(お話)
横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後テレビ朝日にアナウンサーとして入社。1995年からフリー。TV・ラジオ・CMの他、コンサートソムリエとしてクラシック演奏会の司会や企画にもフィールドを広げている。特に古楽とオペラでは親しみやすく本質をとらえた語り口が好評を博している。リコーダーを大竹尚之氏に師事。著書に「笛の楽園」(東京書籍)「いくぞ!オペラな街」(小学館)など。1998年にフラウト・トラヴェルソの曽禰寛純と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手地区西洋館でのコンサートを継続している。
日本ロッシーニ協会副会長 日本音楽教育文化振興会理事 東京藝術大学客員教授
満江
菜穂子(バセット・ホルン)
昭和音楽大学大学院修了と同時に学長賞を受賞。在学中より数々のコンクールにおいて受賞・入選し、名古屋フィルハーモニー交響楽団と協奏曲を共演するなど国内外の演奏家と共演。2007年、ピリオド楽器を使用した演奏活動を開始。オランダ デン・ハーグ王立音楽院に留学し、歴史的クラリネットの第一人者であるエリック・ホープリッチ氏に師事する。「18世紀オーケストラ」、「フライブルク・バロック・オーケストラ」など著名な古楽オーケストラで演奏。
帰国後も昭和音楽大学講師として指導に携わるとともに、「オーケストラ・リベラ・クラシカ」「バッハ・コレギウム・ジャパン」「オルケストル・アバンギャルド」などで活躍。
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
大山 有里子(クラシカル・オーボエ)
大阪教育大学音楽科卒業。同大学専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事する。近年はバロック時代だけでなく古典期のオーボエ曲のピリオド楽器による演奏にも取り組んでおり、関東を中心に活発に活動している。2016年よりリサイタル「バロック・オーボエの音楽1〜3」を開催。「クラングレーデ」、「ダブルリーズ」メンバー。
石野 典嗣(クラシカル・オーボエ)
バロック・オーボエ、バロック・ファゴットを独学で学ぶ。古楽器演奏家の追っかけと押しかけレッスン受講歴有。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、アンサンブル山手バロッコメンバー
前原 聡子(クラシカル・ファゴット)
ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始める。現在、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。 アンサンブル山手バロッコメンバー。
飯島さゆり(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学、フランクフルト音楽大学を卒業、ブリュッセル音楽院を修了。在独中、トリア市及びドルトムント市立歌劇場管弦楽団の契約団員を務める。 ホルンを故千葉馨、故田中正大、守山光三、堀内晴文、マリー・ルイゼ・ノイネッカー、ヨアヒム・ペルテル、故アンドレ・ファン・ドリーシェの各氏に、ナチュラル・ホルンを、クロード・モーリー氏に師事。埼玉県立大宮光陵高校及び千葉県立幕張総合高校音楽専科非常勤講師。
慶野 未来(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学附属高校を経て、東京藝術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。 現在神奈川県立弥栄高校 音楽科非常勤講師。
小野 萬里(クラシカル・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。弦楽アンサンブル Sonore Cordi を指導している。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
原田 純子(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏、並行してカメラータ・ムジカーレに参加、現在に至る。アンサンブル365同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。
伊藤 弘祥(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリン、ヴィオラを演奏。また、同大学の日吉音楽学研究室主催の「古楽アカデミー」に、2010年より第一期生として参加し、バロック・ヴァイオリン、バロック・ヴィオラを演奏している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
榎本憲泰(クラシカル・ヴァイオリン)
学生時代は慶応バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後は各種オーケストラやアンサンブルに参加。大学の友人とともにアンサンブル・リンクス主催。アンサンブル山手バロッコメンバー。
木村
久美(クラシカル・ヴァイオリン)
ヴァイオリンを森田玲子、森悠子、北浜怜子、バロック・ヴァイオリンを小池はるみ、赤津真言の各氏に師事。ザロモン室内管弦楽団メンバー。
山口 隆之(クラシカル・ヴィオラ)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。アンサンブル山手バロッコメンバー。
中尾 晶子(クラシカル・チェロ)
桐朋学園大学音楽学部器楽チェロ専攻卒業。東京藝術大学院音楽研究科修士課程古楽科バロック・チェロ専攻修了。 これまでにチェロを金谷昌治、花崎薫、倉田澄子の各氏に、バロック・チェロを武澤秀平、E・ジラール、酒井淳、鈴木秀美の各氏に師事。 現在、古楽アンサンブル「メリッサ・ムジカ」「クラングレーデ」メンバー。永瀬音楽教室チェロ科講師。
飯塚 正己(コントラバス)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典、大黒屋宏昌の各氏より指導を受け演奏を続けている。
アンサンブル山手バロッコメンバー。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第119回演奏会
横浜開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
ハイドン・モーツァルト・ロッラの協奏曲
Concertos of
Haydn, Mozart and Rolla with period instruments
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第134回
横浜開港記念コンサート「古楽器の響きで味わうハイドン・モーツァルト・ロッラの協奏曲」へお越しいただき、有難うございます。
今回は、アンサンブル山手バロッコの結成25周年を記念して、古典クラリネットの名手、満江菜穂子さんをお迎えし、モーツァルトも愛した珍しい楽器バセット・ホルンの協奏曲をはじめ、当時の様式のフルート、ヴァイオリンやフォルテピアノの協奏曲をお聴きいただきます。ホールのロビーには、25周年記念の展示会に準備した私たち山手バロッコの足跡を掲示しましたので、あわせてご覧ください。
♪ ♪ ♪
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
フルート協奏曲 第1番
ト長調 KV313/315
Flute Concerto in G major KV.313/315
アレグロ・マエストーソ - アンダンテ - ロンド(テンポ・ディ・メヌエット)
Allegro maestoso -
Andante - Rondo(Tempo di Menuetto)
W.A.モーツァルト(1756-1791)は、オーストリアのザルツブルクで生まれ、幼少から父親レオポルトの英才教育と欧州各地の音楽先進地への音楽旅行を通じて演奏と作曲の才能を開花させ、30余年の短い生涯に多種多様なジャンルに多くの名曲を残しました。16歳の時にザルツブルクの宮廷楽団に就職しましたが、その後も就職活動を兼ねてマンハイム、パリなど欧州の都市への旅行を重ねました。25歳でザルツブルクの司教と決別し、ウィーンへ移りフリーランスの音楽家として教師、演奏、作曲と幅広く活躍し、30歳で皇帝ヨゼフ二世により宮廷作曲家に任じられました。
フルート協奏曲 ト長調(KV313)は、親交あるフルートの名手、ウェンドリンクを念頭に1778年の初めに作曲されたと考えられます。(モーツァルトは、このフルート奏者とマンハイムで出会い、大変な喜びをもって演奏を聴いたと記しています。)
この年、モーツァルトはフルート愛好家のド・ジャンからかなりの好条件で、フルートのための協奏曲と四重奏曲の作曲を依頼されました。約束通りの曲が提供できず、礼金を半分以下にされた事実と、その状況を父レオポルトに弁解した書簡「・・・ご存じの通り、僕は我慢のできない楽器のために書かなくてはならないときは、いつもたちまち気が乗らなくなります・・・」は、繰り返し引用され、モーツァルトのフルート嫌い、フルートの曲は一級品でないという説明まであります。しかし、歌手アローイジア・ウェーバーに恋をして、作曲もそっちのけだったことを隠した言い訳というのが真相ですので、これは当たらないと思います。
第1楽章は、元気のよい行進曲風のテーマで始まりますが、指定のように威厳をもってオケ、独奏と引き渡されていきます。独奏部分は、技巧的なパッセージがフルートの最低音から最高音まで走り回ります。この楽章で特に印象的なのは、マンハイムのオケやオペラで研究した、ソロと弦楽、ソロや弦楽と管楽器との対話という要素が盛り込まれ、アンサンブルのいたるところに埋め込まれている音楽に仕上がっていることです。
第2楽章はもともとのト長調協奏曲の代わりに、先ほどのド・ジャンのために書かれたのが確実なアンダンテ楽章を演奏します。この曲は、フルートが歌うオペラアリアのような曲で、伴奏のオーケストラが様々な色合いを作り、それに応えてソロも多彩な歌声(音色)を披露します。
第3楽章のロンドは、舞曲(メヌエット)の伝統を枠組みに、ここでもフルートと管弦楽が会話しながら、フルートの技巧が次々と紡ぎ出され、最後は静かに終わります。
- [ソリストに質問] この曲の独奏を古楽器(ピリオド楽器)のみなさんと合奏してみて感じることは?
「当時の様式の楽器と編成で演奏することにより、知っていたモーツァルトの曲の新しい顔が見えてくるように感じます。指揮者なしのアンサンブルでの演奏は難しい面も多いですが、モーツァルトが仕組んだ楽器たちの会話を、会場のみんなで見つけられたら楽しいと思います。」
(曽禰寛純)
F.J.ハイドン(1732-1809)は、モーツァルトが生まれる24年前、ウィーン近郊のローラウという小さい村で生まれました。両親は音楽とは関わりのない職業でしたが、ハイドンは幼年期からその音楽的才能を発揮し8歳の時にウィーンの聖歌隊のメンバーに選ばれます。しかし声変りの10代半ばで聖歌隊を退き、ウィーンの安アパートで暮らしながら勉強と仕事を続け、音楽で身をたてるチャンスを探していました。29歳の時、当時ハンガリー領で現在はオーストリアの州都であるアイゼンシュタットに居城を構える、エステルハージ家の宮廷副楽長に就任しました。この宮廷楽団は当時としても非常に優れた楽団であったと言われ、ヨーロッパ各国から優れた演奏家を集めていました。その後34歳で宮廷楽長に昇任、名手ぞろいの宮廷楽団の責任を担うことになり、ハイドンはその才能を遺憾なく発揮して多くの名曲が作られました。
この頃のハイドンは、一年の大半をエステルハージ家の離宮で過ごし、残りの時間をウィーンで活動をするというものでした。そのウィーンで1781年にモーツァルトと出逢います。二回りも年の差がある二人でしたが、互いの才能を認め合い終生の友として親密な関係を続けました。
一方、エステルハージ家の楽団は1790年に解散となり、楽団の仕事から解放されたハイドンの活躍の場は、地元ウィーンはもとより、ヨーロッパ中に広がりました。殊にロンドンの興行を行っていたザロモンは熱心にロンドンへ招聘し、1791年から数年間はロンドンで音楽活動を展開し大成功を収めました。しかし出発前に長旅を心配してくれたモーツァルトの死をロンドンで知ることになり、ハイドンは言葉にならいほどの衝撃を受けました。1795 年ウィーンへの帰還を果たしたハイドンは、高齢にもかかわらずオラトリオ「天地創造」などの旺盛な創作活動を展開し、多くの貴族、ウィーン市民、そしてベートーヴェン、サリエリ、フンメルら多くの音楽家の尊敬を集めました。1809年、ウィーン郊外の自宅で77歳の生涯を終えました。その時ウィーンはナポレオン率いるフランス軍との戦争の最中。ハイドンは最後もオーストリアを鼓舞するために作曲した「神よ、皇帝フランツを守りたまえ」(後の弦楽四重奏曲「皇帝」のテーマで、現在のドイツ国歌)を、フォルテピアノで演奏していたという話が伝わっています。
(角田幹夫)
F.J.ハイドン
F.J.Haydn
フォルテピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11 op.21
Fortepiano Concerto in D-major Hob.XVIII:11 op.21
ヴィヴァーチェ - ウン・ポコ・アダージョ - ロンド・アラアングレーゼ(アレグロ・アッサイ)
Vivace - Un poco adagio - Rondo all’ungherese(Allegro assai)
ハイドンは、交響曲、弦楽四重奏のようなジャンルに多くの曲を残したのに対し、協奏曲は寡作で、ウィーン時代以降は、チェロ協奏曲、トランペット協奏曲と今日演奏するフォルテピアノ協奏曲
ニ長調に限られています。
この曲は1784年に出版されると、たちまち有名になりハイドンの後期を代表する協奏曲として現代まで知られていますが、作曲の機会、演奏家や演奏機会については解かっていません。この曲がそれまでに作曲されたハイドンの鍵盤楽器の協奏曲とは一線を画していること、モーツァルトのフォルテピアノ協奏曲との類似性があることから、作曲の動機についてウィーンでもてはやされていたモーツァルトのフォルテピアノ協奏曲予約演奏会の盛況に刺激されたものとも言われています。
曲はオーボエ、ホルン各2本を伴う弦楽合奏とフォルテピアノという当時の典型的な構成で書かれており、3つの楽章からなります。第1楽章は、弱音の弦楽で始まりますが、全奏が現れると、技巧的構造的な独奏、独奏とオケの有機的な掛け合いなど、ハイドンの協奏曲のなかでもずば抜けた存在感を持っています。穏やかなイ長調の第2楽章に続いて、ハンガリー風ロンドと名付けられた印象的な主題を持つ第3楽章が続き曲を閉じます。この土臭い旋律の由来はいろいろ研究されましたが、ハイドンの記載通りハンガリーのバグパイプ音楽に基づいていることが判明しました。
- [ソリストに質問] この曲の独奏を弾いてみて感じることは?
「この曲は出版譜ではチェンバロまたはフォルテピアノと記載されています。実際の作曲の時のハイドンの楽器のイメージは、(フォルテピアノに親しんではいたものの)チェンバロではないかと思っています。音楽・構造は新しいウィーンの流行に向かっても、独奏楽器の語法はチェンバロの影響を感じます。以前にチェンバロでもこの曲を演奏した経験から、右手でメロディ(下鍵盤)、左手で静かな伴奏(上鍵盤)というようなチェンバロで効果的な強弱の階段的対比もあるからです。」
(和田章)
♪ ♪ ♪
F.J.ハイドン
F.J.Haydn
ヴァイオリン協奏曲 ト長調 Hob.VIIa:4
Violin Concerto in G-major Hob.VIIa:4
アレグロ・モデラート - アダージョ - アレグロ
Allegro moderato - Adagio – Allegro
ヴァイオリン協奏曲ト長調は、エステルハージ家宮廷楽団首席ヴァイオリン奏者のトマジーニの為に作られた曲です。この楽団は優れた奏者を多く擁していたので、この時期の協奏曲はそういう奏者の存在が大きな動機付けとなったのでしょう。とりわけトマジーニの存在がこの時期の優れた弦楽四重奏曲や交響曲、そして協奏曲作曲への大きな原動力になったことは間違いありません。
今回のプログラムにある他の3曲の協奏曲は、オーケストラの編成が弦楽とオーボエ、ホルンとなっていますが、ヴァイオリン協奏曲は弦楽合奏だけです。イタリアのヴィヴァルディやコレッリの伝統を継いでいるトマジーニから弦楽でという要請があったのか、それは分かりませんが、バロック音楽と古典音楽の端境期にある協奏曲と言えるのかもしれません。
第1楽章は、伸びやかでどこまでも明るいテーマが繰り返され、最後に独奏ヴァイオリンのカデンツァで締めくくられます。第2楽章は静けさの中で抒情的な独奏が展開されますが、処々でドキッとするような音の使い方もあり、ハイドンのユーモアを感じさせます。第3楽章は快活で音の跳躍が随所に現れるスリリングなテーマと独奏が交互に現れます。途中にジプシー風な響きを取り入れているのもハイドンの面目躍如です。
(角田幹夫)
A.ロッラ
A.Rolla
バセット・ホルン協奏曲
ヘ長調
Basset-horn Concerto in F major
アレグロ - ラルゴ - ロンド
Allegro - Largo - Rondo
A.ロッラ(1757-1841)は、1757年イタリア生まれのヴァイオリン、ヴィオラの名手であり、作曲家・指揮者で、パガニーニの師匠として有名です。ヴァイオリン/ヴィオラの演奏技巧の開拓(ハイポジションでの演奏、左手でのピチカートなど)にも貢献しました。1770年からはミラノで研鑽を積み、1772年に自身の作曲のヴィオラ協奏曲を演奏し、「このようなヴィオラ協奏曲は、かつて聴いたことがない」と同時代の聴衆をうならせました。1782年にはパルマのオーケストラのリーダー兼主席ヴィオラ奏者となり、1802年にはミラノのスカラ座管弦楽団の指導者兼オーケストラ監督となりました。スカラ座では、モーツァルトのオペラ(ドン・ジョヴァンニ、コジ・ファン・トゥッテ、皇帝ティートの慈悲、フィガロの結婚)、ベートーヴェンの初期の交響曲のミラノ初演をするなどオペラやウィーンの古典派の音楽との接点も大いにあった作曲家です。 皇帝ティートの慈悲にはバセット・ホルンが用いられています。ロッラとバセット・ホルンの接点の一つだと思います。ロッラ自身も伝統的なイタリア器楽に基づいた作曲を行い、教育のための作品、ソナタ、四重奏、協奏曲、交響曲を中心に500曲ほどの作品を残しています。
(曽禰寛純)
- [ソリストに質問] 山手バロッコのコンサートでは、ロッラとバセットホルンは初登場です、少し解説していただけますか?
「まずバセット・ホルンについてですが、以前、山手バロッコの皆様とモーツァルトの協奏曲KV622を演奏させていただいたバセット・クラリネット(丸いベルの付いた楽器)とは名前が似ていますが、異なる楽器です。1770年代にヨーロッパで流行した、「く」の字に曲がった本体に真鍮のベルが付いた楽器で、一説によるとモーツァルトは、このバセット・ホルンの音色を『死者の声』として扱っていたようです。そういうイメージで聴いてみると、レクイエムでは生きた人間の合唱の中に死者2人(バセット・ホルン)の声が混ざっていたり、フリーメイソンの葬送音楽でも鳥肌が立ちそうな使われ方をしたりしています。そんな、クラリネットとは全く違う性格の楽器です。」
「さて、モーツァルトと1歳違いのロッラは、この楽器に対してどんなイメージを持っていたでしょうか。曲を見ると、全くモーツァルトとは違う、明るいイメージを持っていたように思います。しかし、バセット・ホルンのパートを見ると、最初の音がモーツァルトのクラリネット協奏曲KV622と全く同じ音符『(記譜で)ソーミファラソー』が並んでいます。モーツァルトの事はかなり意識していたといえるでしょう。しかし、この曲、もとはファゴット協奏曲だったものを、ロッラ自身がバセット・ホルンに書き換えたようなので、全くの偶然かもしれません。本当のところはロッラに聞いてみないとわかりませんが、山手バロッコの皆さんと音にしたときに、いろんな想像を働かせるのを楽しみにしております。私にとっても、おそらく演奏者の皆さんやお客様にとっても、初めての作品ですので、初演の時のような新鮮な気持ちを皆様と共有できたらと思います。」
(満江菜穂子)
使用楽器とオーケストラの編成、舞台配置について
当時の弦楽器はガット弦、管楽器もキーの少ないフルート、オーボエなどの木管楽器やバルブのないクラシカル・ホルンといった軽やかな音色が現代楽器とは大きく異なります。フォルテピアノも現代のピアノに比べるとずっと軽やかで立ち上がりの良い音を響かせます。オーケストラのサイズは、第1ヴァイオリンが2から6人程度が一般的でしたが、随分小さな規模もあったようです。管楽器は弦楽器の本数にかかわらずほぼ一定(各パート1本)であったことが分かっています。私たちの今回の編成は、それぞれの曲の演奏された当時の編成に近く、管楽器もほぼ当時のバランスです。また、指揮者はなくコンサートマスターを中心に、作曲者自身が鍵盤楽器について通奏低音を演奏するというケースが多かったと考えられています。私たちも指揮者なしで演奏しますので、通奏低音(鍵盤)楽器は重要と考え、フォルテピアノで通奏低音を演奏します。楽器の配置も、当時の資料を参考に、客席から見て左側に第1ヴァイオリン、右側に第2ヴァイオリン、その間にヴィオラと低弦を配置し、その後ろに管楽器を配置しています。
(曽禰寛純)
アンサンブルの規模と編成( N.Zaslaw(1989)とC.F.Pohlの研究をもとに作成)
ソリストの使用楽器
たくさんの拍手をいただきありがとうございました。
アンコールは、モーツァルト バセット・ホルン協奏曲 第2楽章 変ロ長調(復元版)をお聴きいただきました。
参考文献
1)池上健一郎: 作曲家◎人と作品 ハイドン、音楽之友社(2023)
2)海老澤 敏: モーツァルト事典(東京書籍、1991)
3) N.Zaslaw / Mozart’s Symphonies- Context, Performance Practice, Reception (Oxford University Press, 1989)
4)ヘンリック・ウィーゼ(堀井恵 訳):モーツァルト・フルート協奏曲の成立過程について(1)および(2) (1997)
5)金昌国: モーツァルト 原版フルート協奏曲(ジュピター出版 2002)
6)Eva Badura-Skoda:The Eighteen Century Fortepiano Grand and its Patrons, Indiana University Press(2017)
7)M. Harlow/ Instruments and Instrumentalists in Vienna (P.Keefe “Mozart in Context”) Cambridge Univ. Press (2019)
8)Lawson/ Mozart Clarinet Concerto, Cambridge Univ. Press (1996)
9)R.L.Marshall/ Mozart Unfinished(“Bach and Mozart”) Univ. of Rochester Press(2019)
、
これまでの演奏会へ戻る