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114th Concert
西洋館で親しむ
モーツァルトのフォルテピアノ-III
Mozart and Fortepiano-III
“洋館で親しむバロック音楽”第125回
2023年3月3日(金) 19時開演(18時30分開場) 横浜市イギリス館(横浜市中区山手町115−3)
14:00 18th June. 2022 at British house Yokohama
主催:アンサンブル山手バロッコ
出演
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。 現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。 アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
本日使用するフォルテピアノは、Anton Walter(1800年頃)をモデルに野神俊哉氏が製作(2013年)した楽器です。
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アンサンブル山手バロッコ第114回演奏会
西洋館で親しむ
モーツァルトのフォルテピアノ-III
Mozart and Fortepiano-III
“洋館で親しむバロック音楽”第125回
プログラムノート
(曽禰寛純/角田幹夫)
横浜市イギリス館は、1937年に、英国総領事公邸として建設された由緒ある建物です。このイギリス館の素晴らしい客間で前回(Part-II)に引き続き、モーツァルトの愛したワルターモデルのフォルテピアノと当時のスタイルの古楽器によるアンサンブルで18世紀のサロンコンサートをお届けします。当時楽しまれた家庭音楽やサロンコンサートの味わいをご一緒に楽しみましょう。
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モーツァルトとフォルテピアノ
モーツァルト(1756-1791)の鍵盤楽器は、幼少時のチェンバロから、当時の音楽と楽器の変化に伴って、徐々にフォルテピアノになっていきます。18世紀初頭にイタリアで誕生したフォルテピアノは、しばらくはバロック音楽の中心にあったチェンバロの背景に隠れていましたが、製作者による工夫を積み重ねられていきました。晩年のバッハが次男カール・フィリップ・エマヌエルの仕えているベルリンのフリードリッヒ大王の宮廷に招かれたときには、ゴットフリート・ジルバーマン(1683-1753)製作のフォルテピアノを試奏した記録が残されています。バッハの息子たちの時代になるとフォルテピアノの台頭が進みました。モーツァルトは、バッハの末息子で作曲家・鍵盤楽器奏者のヨハン・クリスチャン・バッハとロンドンで出会い生涯親交を持つことになりますが、その楽器はフォルテピアノに変化していました。
さて、モーツァルトは、ジルバーマンの流れを汲むアウグスブルグのフォルテピアノ製作者であり「ウィーン式アクション」と呼ばれるアクションを完成させたヨハン・アンドレアス・シュタイン(1728-1792)のフォルテピアノと1777年に出会い、演奏会を行って、父親にその楽器の素晴らしさを興奮した様子で報告しています。1781年にウィーンに移り、独立した音楽家として活躍を始めたモーツァルトは、シュタインの流れを汲むウィーンの名工、アントン・ワルター(1752-1826)のフォルテピアノを所蔵し、演奏家、作曲家、教師としての活動の中心にこの楽器を据える生活を送りました。ワルターの楽器は、シュタインのアクションに改良を加え、連打が更に安定するメカニズムを追加しました。本日は、このワルターのフォルテピアノを中心としたモーツァルトの室内楽を、同時代のスタイルの管楽器、弦楽器とともにお届けいたします。
W.A.モーツァルト(C.F.G.シュヴェンケ編)
W.A.Mozart (1756-1791) arr.by C.F.G.Schwencke
グラン・クインテット 変ロ長調 KV361(フォルテピアノ、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロ)より ロマンツェ
Romance from Grand Quintet after Serenade in B♭-major KV361
最初に演奏するグラン・クインテット 変ロ長調 KV361は、「グラン・パルティータ」の名称で知られる13管楽器のためのセレナードのフォルテピアノとオーボエ(フルート)、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための編曲版です。編曲者のC.F.G.シュヴェンケは、モーツァルトと同時代の1767年生まれ、ファゴット奏者の父親に音楽教育を受け、その後、ベルリンでキルンベルガー、マールプルクに師事しました。編曲は13楽器のために書かれたセレナーデを、フォルテピアノとオーボエ(フルート)四重奏の組合わせで原曲に忠実に、新たな楽器編成に再構成したものです。フォルテピアノの低音を含む和音を効果的に活用することで、セレナ―ドで用いられた楽器間の音色の対比を作り出し、フォルテピアノ独奏部分と四重奏との構成の対比も図られています。オーボエ、クラリネットの独奏は巧みにフルートとヴァイオリン、またヴィオラ、チェロのソロに効果的に置き換えられており、グラン・クインテット(ピアノ五重奏)という新たな曲として演奏していても新鮮な魅力を感じます。
本日は前回のコンサートで演奏をしなかった、第5楽章、ロマンツェを演奏します。
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
ヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ ハ長調 KV296
Sonata for Violin and Fortepiano in C-major KV296
アレグロ・ヴィヴァーチェ - アンダンテ・ソステヌート - ロンド:アレグロ
Allegro vivace - Andante sostenuto -
Rondo: Allegro
次に演奏するヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ
ハ長調 KV296は、1777年から1778年にかけてモーツァルトがマンハイムからパリへ旅行した際、マンハイムで滞在していた宮中顧問官ゼラリウスの娘、テレーゼ のために作曲されました。(15歳の彼女はモーツァルトの弟子ですが「3台のフォルテピアノのための協奏曲」を一緒に演奏するほどの腕前を持っていました)。この旅行中にモーツァルトはKV296を含む7曲のソナタを作曲し、KV296以外の6曲を次の旅行地パリで作品1として出版しました。1781年、モーツァルトはいよいよウィーンに活動の場を移し、その年のうちにKV296と新たに作曲した5曲を作品2として出版します。新天地で自分の真価を問う最初のチャレンジでした。その甲斐あってか当時の批評家から「これら6曲のソナタは、この種の曲として唯一無二のもの。創意に満ち溢れており、作曲家の計り知れない才能を示している。」と評され、パリ、マンハイム、アムステルダム、ロンドンなど各地で出版されるほどの人気の曲集となりました。
第1楽章は活力と熱気にあふれた堂々としたもの、続く第2楽章は尊敬するJ.C.バッハのアリア「甘きそよ風」をテー マとする変奏曲、フィナーレの第3楽章は、2つのエピソードをもつのびやかなロンドです
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
フルート四重奏曲 ト長調 KV285a
Flute Quartet in G-major
アンダンテ
– テンポ・ディ・メヌエット
Andante – Tempo di Menuetto
前半最後に演奏するフルート四重奏曲 ニ長調 KV285は、4曲残されているフルート四重奏曲の中で最も有名でかつすぐれた労作です。1777年、マンハイムを訪れたモーツアルトは、友人のフルート奏者ウェドリングの紹介で、音楽愛好家のドゥジャンからの数曲のやさしい協奏曲と四重奏曲の作曲依頼を高額の報酬で受けます。この四重奏曲は、その依頼によりその年の末に完成しました。
曲は、フルート独奏を中心とした協奏曲のように始まる第1楽章、弦楽のピチカートの上で係留の多いアリアのようなフルートの独奏が印象的な第2楽章から、軽快なロンドにそのまま進み、すべての楽器が活躍し軽やかに曲が終了します。1777年ころは、バロック時代と同じ鍵が1つのフルートから、より半音階がクリアに演奏できる鍵が4つから8つのクラシカルフルートに移行する時期でした。愛好家のために作曲された曲とはいえ、楽器の性能の隅々まで使い、バロックでは表現しないようなニュアンスを求めています。一方で、ガット弦を張ったクラシカルタイプの弦楽器とは、現代楽器と違い、とてもよく調和して演奏できます。
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W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
フォルテピアノ三重奏曲 変ホ長調 “ケーゲルシュタット・トリオ” KV498
Trio for Fortepiano, Violin and Viola in
E♭-major "Kegelstatt Trio" KV498
アンダンテ - メヌエット - ロンド :アレグレット
Andante - Menuetto - Rondeau :Allegretto
音楽学者E. クロルマンは 著書「友人のためのモーツァルトの音楽」のなかで、友人のための作曲ということが、モーツァルトをはじめこの時代の音楽の1つの大事な要素であったと述べています。それは、音楽自体に仲間が語り、受け答え合うという要素が採り入れられていることで、アンサンブルに変化が生まれていること、さらに、その構想は具体的な友人を想定して作曲されているということを述べています。後半最初に演奏するフォルテピアノ三重奏曲 変ホ長調 “ケーゲルシュタット・トリオ” KV498 はそのような特徴をもつ代表的な曲であり、曲の高度な対話的な構成と、作曲の機会(名手シュタットラーのクラリネット、モーツァルトのヴィオラ、そして愛弟子であるフランチェスカ・ジャカンのフォルテピアノ)が特長にもなっています。ケーゲルシュタットというのは9本のピンで遊ぶボーリングのような遊戯で、作曲の年、1786年には妻のコンスタンツェが夢中になっていたため、モーツァルトがこのゲームをしながら作曲したという逸話により、ケーゲルシュタットと呼ばれています。本日は当時の出版譜にしたがって、ヴァイオリン、ヴィオラとフォルテピアノの編成でお聴きいただきます。
第1楽章アンダンテは、三つの楽器が即興的に合奏を始めるといった風情から発展するソナタ形式です。この第1楽章のテーマは、そこから他の楽章の主題が紡ぎ出され、楽章の間の関連ができることで、曲全体のまとまりを作られています。続く第2楽章メヌエットも第1楽章と関連するテーマで始まります。ト短調の中間部は、三つの楽器の会話が、メヌエットという舞曲の様式の枠組みを超えて自由に展開していきます。最後のロンドも第1楽章の主題に関連するテーマによるもので、このテーマが柱のように何度も現れ、その間に3つのエピソードが挟みこまれている充実したものです。
W.A.モーツァルト
W.A.Mozart (1756-1791)
アダージョとロンド ハ短調 KV617
Adagio and Rondo for Fortepiano, Flute,
Violin, Viola and Violoncello in C-minor
KV617
アダージョ - アレグレット
Adagio - Allegretto
最後に演奏するアダージョとロンドは、グラス・アルモニカ(ハーモニカ)と4つの楽器のための室内楽として作曲されたものです。グラス・アルモニカは、米国の科学者ベンジャミン・フランクリンが発明しました。発音の原理は、ワインを入れたグラスの縁を濡れた指で擦ると幽玄な音がするのとまったく同じです。フランクリンは、半音階に対応する様々なサイズのグラスを並べ、自動的に回転するようにし、さらに回転時にグラスが自動的に湿るような構造としたことで、鍵盤楽器のような両手での連続的な演奏を可能にしました。この画期的な楽器は一時大流行し、いろいろな作曲家が曲を提供しましたが、この楽器の演奏家が次々に体調を崩したり、精神的に病んでしまったり、聴衆もそのような影響を受けるなどの理由で廃れ、歴史から忘れられた楽器となりました。(指先に連続的な振動が伝わるのが影響する、その神秘的な音色が神経を刺激するため、など言われていますが、その因果関係はわかっていません) この曲は、モーツァルト晩年の1791年に当時有名だった21歳の盲目のグラス・アルモニカの名手、マリアンナ・キルヒゲスナーのために作曲されました。本日はフォルテピアノでこのパートを演奏しますが、ハ短調の神秘的な序奏に続き、晩年のモーツァルトならではの澄み切った天国的で深い想いの溢れるハ長調のロンドが続きます。
たくさんの拍手をいただきましたので
同時代のピアノ五重奏に編曲された楽譜から
“後宮からの誘拐” KV384序曲をお聴きいただきます。
ありがとうございました。
参考文献
1)海老沢敏ほか監修/モーツァルト事典、 東京書籍
(1991)
2)E. Klorman / Mozart’s Music of Friends – Social Interplay in the Chamber Works, Cambridge University Press (2016)
3)Eva Badura-Skoda / The Eighteenth-Century Fortepiano Grand
and Its Patrons, Indiana University Press (2017)
4)D. N. Leeson
& N. Zaslaw / W.A.Mozart
Serenade in Bflat Major “Gran
Partita” KV361, Bärereiter-Verlag (1979)
5)C. Hogwood / Mozart,
Wolfgang Amadeus: Großes Quintett
nach der Serenade B-Dur Gran Partita KV361 für Oboe,
Violine, Viola, Violoncello und Klavier, Edition HH (2006)
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