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111th Concert
アンサンブル山手バロッコ第111回演奏会
開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲と交響曲-III
Mozart’s
Concertos and Symphony with period instruments-III
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第122回
(本コンサートは神奈川県マグカル展開促進補助金の助成を受けて実施しています)
2022年10月1日(土) 14時開演
神奈川県民ホール・小ホール
14:00 1sd Oct. 2020 at Yokohama Port Opening Memorial Hall
主催:クラングレーデコンサート事務局 共催:アンサンブル山手バロッコ
後援:横浜市中区役所
出演
荒川 智美(フォルテピアノ)
東京藝術大学大学院フォルテピアノ専攻修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。モーツァルトのピアノ協奏曲における研究論文と演奏で、博士号を取得。文化庁新進芸術家海外研修派遣員としてミュンヘン音楽演劇大学で研鑽を積む。チェンバロの学士号とフォルテピアノの国家演奏家資格を取得。コンクールWettbewerb um den Kulturkreis Gasteig Musikpreisで第1位を受賞。2011年よりフォルテピアノを用いたコンサート「Mozart’s Dialogue」を主催している。現在東京藝術大学古楽科教育研究助手。
永谷
陽子(クラシカル・ファゴット)
桐朋学園大学卒業。同大学研究科及びオーケストラアカデミー修了。バロック・ファゴットを堂阪清高氏に師事。2012年横浜・西洋館 de古楽で、モーツァルトのファゴット協奏曲をピリオド楽器で熱演。第26回国際古楽コンクールにて 奨励賞を受賞。古楽、モダン両分野でオーケストラや室内楽、CD録音に参加。八王子音楽院、ドルミール音楽教室講師。「ダブルリーズ」他メンバー。
曽禰
寛純(クラシカル・フルート)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年にリコーダーの朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、横浜山手の洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
大山 有里子(クラシカル・オーボエ)
大阪教育大学音楽科卒業。同大学専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事する。近年はバロック時代だけでなく古典期のオーボエ曲のピリオド楽器による演奏にも取り組んでおり、関東を中心に活発に活動している。2016年よりリサイタル「バロック・オーボエの音楽1〜3」を開催。「クラングレーデ」、「ダブルリーズ」メンバー。
石野 典嗣(クラシカル・オーボエ)
バロック・オーボエ、バロック・ファゴットを独学で学ぶ。古楽器演奏家の追っかけと押しかけレッスン受講歴有。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、アンサンブル山手バロッコメンバー
前原 聡子(クラシカル・ファゴット)
ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始める。現在、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。 アンサンブル山手バロッコメンバー。
本間千也(クラシカル・トランペット)
新潟県佐渡市生まれ。東京コンセルヴァトアール尚美ディプロマコースを卒業。第28回新潟県音楽コンクール県知事賞受賞。第16回日本管打楽器コンクール第3位受賞。シエナ・ウィンド・オーケストラ楽団員、神奈川フィルハーモニー管弦楽団特別契約団員を経て、2009年より東京佼成ウインドオーケストラ楽団員。金管アンサンブル「侍BRASS」、管弦楽、ソロ、ミュージカルなどでのさまざまな演奏活動のほか、NHK-BSプレミアムシアターの番組テーマ曲(冨田勲作曲)トランペットソロ、松竹映画「おかえりはやぶさ」、NHKテレビ連続小説「花子とアン」「マッサン」などの数多くの映画やアニメ・TV番組などの音楽録音に参加している。尚美ミュージックカレッジ専門学校、洗足学園音楽大学非常勤講師。トランペットを杉木峯夫、津堅直弘、Edmund Cordの各氏、室内楽を稲川榮一、佐野日出男の各氏に師事。
池田 英三子(クラシカル・トランペット)
東京藝術大学卒業。及び同大学院音楽研究科(修士課程)修了。1989年東京文化会館のオーディションに合格し、新進音楽家デビューコンサート出演。藝大卒業時に藝大同声会推薦卒業生演奏会に出演。1992年東京国際音楽コンクール室内楽第三部門入選。同年フランスのナルボンヌ国際金管五重奏コンクール特別賞受賞。これまで東京藝術大学管弦楽研究部及び東京藝術大学附属音楽高校、埼玉県立松伏高校音楽科各非常勤講師を経て、現在埼玉大学教育学部、尚美ミュージックカレッジ専門学校、東京都立総合芸術高校音楽科で非常勤講師を務める他、オーケストラ、室内楽、ミュージカルなどでも幅広く活動している。著書に小中学生のための楽器入門「トランペットをふこう」(中央アート出版)がある。
坂本雄希(クラシカル・ティンパニ)
国立音楽大学卒業 ゲストティンパニストとしてNHK交響楽団、東京交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、群馬交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団などに客演。ハンガリー 国立フィルハーモニー管弦楽団、スーパーワールドオーケストラ、ミハイロフスキー劇場管弦楽団等の公演に出演。バロックティンパニ奏者としても活動している。現在東京佼成ウインドオーケストラ、ティンパニ奏者。東京音楽大学吹奏楽アカデミー専攻非常勤講 師。Kバレエカンパニーのオーケストラ、シアターオーケストラトーキョーの首席ティンパニ奏者。
飯島さゆり(クラシカル・ホルン)
東京芸術大学、フランクフルト音楽大学を卒業、ブリュッセル音楽院を修了。在独中、トリア市、及びドルトムント市立歌劇場オーケストラの契約団員を務める。ホルンを堀内晴文、故田中正大、守山光三、故千葉馨、マリー・ルイゼ・ノイネッカー、ヨアヒム・ペルテル、故アンドレ・ファン・ドリーシェの各氏に、ナチュラルホルンをクロード・モーリー氏に師事。埼玉県立大宮光陵高校音楽科ホルン専科、千葉県立幕張総合高校音楽コース金管楽器専科の非常勤講師を務める。
慶野 未来(クラシカル・ホルン)
東京藝術大学附属高校を経て、東京藝術大学器楽科を卒業。オーケストラ、室内楽をはじめとする演奏活動の他、歌曲、合唱曲の作曲者としても時々活動している。 現在神奈川県立弥栄高校 音楽科非常勤講師。
小野 萬里(クラシカル・ヴァイオリン)
東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。弦楽アンサンブル Sonore Cordi を指導している。
角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
大澤 信行(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏、並行してカメラータ・ムジカーレに参加、現在に至る。アンサンブル365同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。
伊藤 弘祥(クラシカル・ヴァイオリン)
慶應バロックアンサンブルでヴァイオリン、ヴィオラを演奏。また、同大学の日吉音楽学研究室主催の「古楽アカデミー」に、2010年より第一期生として参加し、バロック・ヴァイオリン、バロック・ヴィオラを演奏している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
榎本憲泰(クラシカル・ヴァイオリン)
学生時代は慶応バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後は各種オーケストラやアンサンブルに参加。大学の友人とともにアンサンブル・リンクス主催。アンサンブル山手バロッコメンバー。
木村
久美(クラシカル・ヴァイオリン)
ヴァイオリンを森田玲子、森悠子、北浜怜子、バロック・ヴァイオリンを小池はるみ、赤津真言の各氏に師事。ザロモン室内管弦楽団メンバー。
山口 隆之(クラシカル・ヴィオラ)
学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。
小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)
慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。
永瀬 拓輝(クラシカル・チェロ)
桐朋学園大学音楽学部器楽チェロ専攻卒業。東京藝術大学院音楽研究科修士課程古楽科バロック・チェロ専攻修了。 これまでにチェロを金谷昌治、花崎薫、倉田澄子の各氏に、バロック・チェロを武澤秀平、E・ジラール、酒井淳、鈴木秀美の各氏に師事。 現在、古楽アンサンブル「メリッサ・ムジカ」「クラングレーデ」メンバー。永瀬音楽教室チェロ科講師。
黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)
矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。アンサンブル山手バロッコメンバー。
飯塚 正己(コントラバス)
学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典の各氏より指導を受け演奏を続けている。アンサンブル山手バロッコメンバー。
和田 章(フォルテピアノ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第111回演奏会
開港記念コンサート
古楽器の響きで味わう
モーツァルトの協奏曲と交響曲-III
Mozart’s Concertos and Symphony
with period instruments-III
“洋館で親しむバロック音楽”シリーズ 第122回
横浜開港記念コンサート「古楽器の響きで味わうモーツァルトの協奏曲と交響曲-V」へお越しいただき、有難うございます。
本日のテーマは、開港と共に日本に流れ込んだクラシック音楽の中でも、日本人に愛され続けてきたモーツァルトです。会場を往時の劇場や貴族の館に見立てて、フォルテピアノ、ファゴットを独奏とした協奏曲と交響曲第41番を、当時のスタイルの楽器を使ってコンサートを再現します。いにしえのウィーンの貴族や市民をとりこにした世界に、みなさまをご案内いたしましょう。
♪ ♪ ♪
W.A.モーツァルト(1756-1791)は、オーストリアのザルツブルクで生まれ、幼少から父親レオポルトの英才教育と欧州各地の音楽先進地への音楽旅行を通じて、早くから演奏と作曲の才能を開花させ、30余年の短い生涯に多種多様なジャンルに多くの名曲を残しました。16歳の時にザルツブルクの宮廷楽団に就職しましたが、その後も就職活動を兼ねて欧州の都市への旅行を重ねました。25歳でザルツブルクの司教と決別し、ウィーンへ移りフリーランスの音楽家として教師、演奏、作曲と幅広く活躍し、30歳で皇帝ヨゼフ二世により宮廷作曲家に任じられました。
協奏曲の分野は、モーツァルトは様々な独奏楽器を扱っています。ここでも室内楽などのジャンルと同じように親交ある名手や弟子の演奏家を念頭に書かれていますが、ピアノ協奏曲については、モーツァルトがウィーンで独立し生活するためのコンサートで、新進気鋭の楽器ピアノフォルテに向かい、自分で独奏した曲が含まれているため、全作品のなかでも重要なジャンルになっています。交響曲についても、幼少の時期から継続的に取り組んだジャンルで、特に1787年にウィーンで宮廷作曲家に任じられ、皇帝ヨゼフ二世に直接曲を届ける立場になったことを契機に、計画し作曲した3曲の交響曲(第39番変ホ長調、第40番ト短調、第41番ハ長調)は、三大交響曲と呼ばれるようになり、当時ハイドンはすぐに自作にこれらの曲のアイデアを活用したほか、後の世代のすべての作曲家に強い影響を与えました。
表1:モーツァルトの年表と曲目
(私たちの3回のコンサートの演奏曲を中心に整理しました)
ファゴット協奏曲 変ロ長調 KV.191
Fagott Concerto in B♭ major KV.191
アレグロ - アンダンテ・マ・アダージョ - ロンド(テンポ・ディ・メヌエット)
Allegro – Andante ma Adagio
– Rondo(Tempo di Menuetto)
ファゴット協奏曲 変ロ長調 KV.191は、現在に伝えられたモーツァルトの管楽器のための最初の協奏曲で1774年にザルツブルクで作曲されました。誰のためにどのような機会に作られたかは不明ですが、相当な腕前のファゴット奏者を知っており、この楽器の特性についても良く理解して曲を作っています。この曲は、モーツァルト唯一のファゴット協奏曲であり、かつファゴット奏者は誰でも知っている名曲ですが、不思議なことに演奏会で聴く機会はめったにありません。2003年に鈴木秀美さんの指揮、堂阪清高さんの独奏の演奏会は、オリジナル楽器(当時の様式の楽器と当時の様式オーケストラ)での日本初演だったそうです。鈴木さんは演奏されにくい原因として「オリジナル楽器を用いることによってこそ得られるソロとオーケストラとの音色の溶け合うさま、各楽器が作り出す程良いバランスなどが現代楽器の演奏で得られにくい」と説明しています。本日は、永谷陽子さんの独奏により、古典派時代に入り音域が拡大し、より繊細・軽やかになったクラシカル・ファゴットを使い、当時の構成のオーケストラを伴奏に、ソロの妙技とともに、アンサンブルの楽しみも一緒にお聴かせできればと考えています。
(独奏の永谷さんにうかがってみました)
- モーツァルトのファゴット協奏曲は永谷さんにとってどのような曲でしょうか?
「私が、堂阪清高先生のレッスンを初めて受けた際の曲が、このモーツァルトのファゴット協奏曲でした。大学の卒試直前です。室内楽講座の本間正史先生が、あまりにも苦労している私に、『うちのオケ(都響)のファゴット奏者を紹介してやるよ』と、堂阪先生を紹介してくれたわけです。
レッスンは1小節目から全然進まなくて、4小節目までで2時間くらい(笑)。いい加減いい時間になって、残りはさっと吹いたか吹かなかったかくらいだったかもしれません。その1回の初めてのレッスンで、目から鱗が落ちました。無事に卒試を終え研究科も合格し、進学後に堂阪先生の副科バロック・ファゴットを受講しました。その経緯の結果が、今の私です。」
曲は、3つの楽章からなります。第1楽章は、青年モーツァルトらしい、屈託のない明るい全奏(トゥッティ)で始まり、ファゴットが独奏の腕前を示しながらオーケストラとの掛け合いを楽しみます。続く第2楽章は、オペラのアリアのようなメロディーを中心に構成されています。後年の名オペラ「フィガロの結婚」のなかで伯爵夫人が歌う「愛の神様、慰めの手を差し伸べてください」を連想させます。第3楽章は、バロックからギャラント様式の変化を感じさせるメヌエットのリズムによるロンド形式。全員で演奏するメヌエットの主題の間に、技巧的で広い音域を自由に行き来するファゴットの独奏が挟まれており華やかに曲を閉じます。
フォルテピアノ協奏曲 ニ短調 KV.466
Fortepiano Concerto in d minor KV.466
アレグロ - ロマンス - アレグロ・アッサイ
Allegro – Romance - Allegro assai
ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 KV.466は、1784年から1785年にかけてのウィーンでのモーツァルトによるコンサートシリーズで演奏された多くのピアノ協奏曲の頂点に立つ名曲で、1785年の2月に作曲されモーツァルト自身による独奏で初演されました。この曲はすぐに評判になり、その名声は当時から現在に至るまで途切れることなく続いています。ちなみに、モーツァルトの当時の売れっ子ぶりについて調べてみると、1784年の四旬節の40日の間に、モーツァルトは23回のコンサートをウィーンで開催しました。すごい回数ですね。おそらく現在のスターでも真似のできないもので、モーツァルトに名声とともに多くの収入をもたらしました。父のレオポルト・モーツァルトがウィーンでのこの協奏曲の初演に立ち会っています。レオポルトは、「コンサートは素晴らしいもので、オーケストラの演奏も輝かしいものだった」とモーツァルトの姉のナンネルに向けての手紙に記しています。
この曲は、モーツァルトのピアノ協奏曲のなかで2曲しかない短調の曲の1曲で、第1楽章は弱音のシンコペーションの不気味な主題で始まります。第2楽章ロマンスは、変ロ長調の穏やかなフォルテピアノ独奏で始まりますが、突然、ト短調の強奏で始まる中間部に移り、木管楽器による嵐のような表現に包まれます。最後の第3楽章でも、フォルテピアノによる激しい上昇音型で始まり、ロンドの展開もフォルテピアノとオーケストラの組み合わせが綿密に書かれています。この楽章の最後には、この曲全体を支配する不安な気持ちに溢れるニ短調からニ長調に転じ、大いなる救いを持って輝かしい全奏で曲を閉じます。
(独奏の荒川さんにうかがってみました)
今回は有名曲のニ短調の協奏曲ですが、どのような気持ちで取り組んでいらっしゃいますか?
「モーツァルトは当時自身のフォルテピアノに足鍵盤(本体と独立した弦を持ち足で弾く装置)をつけてこの協奏曲を演奏したと言われています。そのことから、モーツァルトが太い低音や迫力ある響きをこの協奏曲に求めていたことがわかります。今回は、山手バロッコの皆様と力を合わせてモーツァルトのイメージした音楽世界に近づけられたらと思っています。」
♪ ♪ ♪
1788年の栄光への契機
1787年11月、宮廷楽長として長くウィーンの音楽界の頂点に立っていたグルックが死去しました。皇帝は、その後継の役割を2つに分けて、サリエリとモーツァルトに与えました。サリエリは国立劇場の楽長として宮廷オペラの運営を担当、モーツァルトは宮廷作曲家とし、皇帝付きの作曲家として自由度の高い役割を任せられました。モーツァルトにとっては、最高の地位と定職を得て、皇帝ヨゼフ二世に直接曲を届ける立場になったことは、大きなモチベーションになり、精力的に作曲活動を進めました。
交響曲
第41番 ハ長調 「ジュピター」 KV.551
Symphony No.41 in C major “Jupiter” KV.551
アレグロ・ヴィヴァーチェ - アンダンテ・カンタービレ - メヌエット(アレグレット)/トリオ - モルト・アレグロ
Allegro vivace – Andante cantabile – Menuetto (Allegretto)/Trio – Molto Allegro
交響曲 第41番 ハ長調 「ジュピター」 KV.551は、モーツァルト32歳の1788年8月に作曲されました。モーツァルトの三大交響曲と呼ばれる39番(変ホ長調)、40番(ト短調)、41番(ハ長調)は、たいへん短い期間で完成しました。最近の研究により、この3曲は3部からなるセットで、それぞれの性格が全く異なる曲でありながら、動機や構成、和声など多様性と統一を意図したものだと考えられるようになりました。
N.アーノンクールはこの3曲を「器楽によるオラトリオ」と呼び、39番の導入から、ト短調を経て、41番のフーガへと終結される言葉のない宗教劇だと考えて、3つをセットで録音し、コンサートでもひと続きで演奏していました。また、J.v.インマゼールは「この3部作で人の表現のすべての側面を表現している」と述べており、栄光の年のモーツァルトは、前向きにこの3部作を生み出し、最初の第39番は、室内楽的な輝きを放つ曲、第40番は器楽によるオペラ的な曲、第41番はバロック的な様式をもつ曲と分析しています。
この曲は「ジュピター」という名前で有名ですが、この名前はモーツァルト自身がつけたものではなく、 J.P.ザロモン(ハイドンをロンドンに招聘し、交響曲を室内楽版に編曲して出版した音楽家で興行師)が第4楽章について「ジュピター」と呼んだという記録が残っています。いずれにしてもジュピターという呼称は、イギリス(ロンドン)で始まり、コンサートや楽譜に記載されるようになりました。楽譜の出版では、ロンドンで1822年に出版されたこの交響曲のクレメンティよる室内楽(フォルテピアノ、フルート、ヴァイオリンとチェロ)編曲版に「ジュピター」と記載されているのが最も古いものだそうです。第1楽章の開始のテーマがギリシャの最高神ゼウス(英語でジュピター)を想起させたのではないかともいわれています。
この交響曲の重要なモチーフとなっているのが「ド・レ・ファ・ミ」という音型で、第4楽章のフーガの主題として使われますが、第1楽章から第3楽章の主題のなかにも巧みに織り込まれています。第1楽章は、全奏でハ長調の主和音を3度打ち鳴らし勇壮に始まり、優雅な第2主題との綿密な連携を持った楽章です。続く第2楽章は、弱音器をつけたヴァイオリンが甘い主題を奏でますが、ここでもモチーフが織り込まれています。第3楽章のメヌエットでは、トリオの部分に、モチーフが現れます。
最終楽章は「ド・レ・ファ・ミ」の主題と、続く下降音型が提示されてフーガを取り入れた壮大な曲が始まります。この音型は、モーツァルト自身のKV.192のミサ曲では「Credo in unum Deum (私は信じます、唯一である神を)」の歌詞が充てられています。
使用楽器とオーケストラの編成、舞台配置について
当時の弦楽器はガット弦、管楽器もキーの少ないクラシカル・ファゴットなどの木管楽器やバルブのないクラシカル・トランペット、クラシカル・ホルンといった軽やかな音色が現代楽器とは大きく異なります。ティンパニも木のマレット(ばち)を使い鋭く輝かしい音色になっています。フォルテピアノも現代のピアノに比べるとずっと軽やかで立ち上がりの良い音を響かせます。オーケストラのサイズは、第1ヴァイオリンが2から6人程度が一般的でしたが、随分小さな規模もあったようです(表2)。管楽器は弦楽器の本数にかかわらずほぼ一定(各パート1本)であったことが分かっています。私たちの今回の編成は、当時の編成に近く、管楽器もほぼ当時のバランスです。また、通奏低音については、当時は殆どのオケで利用されています。指揮者はなくコンサートマスターを中心に、作曲者自身が鍵盤楽器につくというケースが多かったためと考えられています。私たちも指揮者なしで演奏しますので、通奏低音(鍵盤)楽器は重要と考え、フォルテピアノで通奏低音を演奏します。楽器の配置も、当時の資料を参考に、客席から見て左側に第1ヴァイオリン、右側に第2ヴァイオリン、その間にヴィオラと低弦を配置し、その後ろに管楽器を配置しています。
表2:アンサンブルの規模と編成( N.Zaslaw(1989)をもとに作成)
参考文献
1)海老澤 敏/モーツァルト事典(東京書籍、1991年)
2) C.Wolff / Mozart at the Gateway to His Fortune: Serving the Emperor, 1788-1791 (W.W.Norton & Company, 2012)
3) R.L.Marshall / Mozart‘s Unfinished – Some Lessons of the Fragments(Bach and Mozart, Univ. of Rochester Press,2019)
4) R.D.Levin / Mozart’s Keyboard Concertos (Eighteen-Century Keyboard Music, Routledge, 2003)
5) A.Hutchings / A Companion to Mozart’s Piano Concertos (Oxford University Press, 1948/reprit2001)
6) D.Grayson / Mozart Piano concerto nos.20 and 21(Cambridge University Press, 1998)
7) N.Zaslaw / Mozart’s Symphonies- Context, Performance Practice, Reception (Oxford University Press, 1989)
8) E.Sisman/ Mozart The ‘Jupiter’ symphony (Cambridge University Press, 1993)
上記以外に、鈴木秀美、J.van Immerseel、N.Harnoncourt、D.O.Norris各氏のCDライナーノーツを参考にいたしました。
(プログラムノート 曽禰寛純)
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