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106th Concert
アンサンブル山手バロッコ第106回演奏会
19世紀ギターと聴く ドイツ語のうた
German “Lied” with 19th Century Guitar
Musica Lego コンサートシリーズ “洋館で親しむバロック音楽”第115回
2022年1月21日(金)19:00開演(18:30開場) 鶴見区民文化センター サルビアホール3F 音楽ホール
19:00 21st Jan. 2022 at Salvia Hall Yokohama
主催:アンサンブル山手バロッコ/ Musica Lego ムジカ・レゴ
出演
Musica Lego ムジカ・レゴ
スイス・バーゼルの音楽院スコラカントルムで出会い、古楽を中心に学ぶ日本人音楽家たちで結成されたアンサンブル。
2018年8月に東京・横浜・大分にて演奏会を行い、 その後2019年から団体としての活動を開始した。
ラテン語でMusicaは「音楽」、Legoは 「集める、読む、組み立てる」などの意味がある(ブロックのおもちゃで有名なあのLEGOもここに由来するという)。
団体名には、音楽をするために集まった仲間たちで思い思いに音楽を読み込み、それを皆で組み立てていこうという思いが込められている。
曽禰 愛子(メゾソプラノ)
横浜市出身。鹿児島国際大学短期大学部音楽科、同専攻科卒業。洗足学園音楽大学大学院 音楽研究科修了。その後スイスに渡り、バーゼル・スコラ・カントルムにてBachelor及びMasterを修了。第28回鹿児島新人演奏会、第85回横浜新人演奏会出演。第32回国際古楽コンクール〈山梨〉ファイナリスト。ルネサンスからバロック、ロマン派のドイツリートなど幅広い時代の作品をレパートリーとし、ソリストとしてまた声楽アンサンブルメンバーとしてヨーロッパ各地でのコンサートに参加、研鑽を積む。バッハのカンタータ、C.P.E.バッハ マニフィカト、C.グラウプナーのオラトリオ、モーツァルト
レクイエムのソリスト等を務める。これまでに声楽を川上勝功、ウーヴェ・ハイルマン、ゲルト・テュルク、ローザ・ドミンゲスの各氏に師事。Musica Lego発足メンバー。
松本 富有樹(19世紀ギター)
東京生まれ、大分・湯布院育ち。中野義久、レオナルド・ブラーボ、福田進一各氏に師事。2011年からバーゼル音楽院に留学し、パブロ・マルケス氏に師事しルネッサンス時代から現代までの音楽を幅広く勉強。2017年からバーゼル・スコラ・カントルムにてホプキンソン・スミス氏に師事しルネッサンス、バロック、19世紀など各時代の異なるギターを学ぶ。通奏低音をアンドレア・シェーラー、ピーター・クロトン両氏に師事。2019年に帰国し本格的に演奏活動を始める。第54回九州ギター音楽コンクール首席2位。第1回韓国国際ギターコンクール首席2位。第9回リヒテンシュタイン国際ギターコンクール4位。Musica Lego発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第106回演奏会
19世紀ギターと聴く ドイツ語のうた
German “Lied” with 19th Century Guitar
Musica Lego コンサートシリーズ “洋館で親しむバロック音楽”第115回
プログラムノート
(曽禰愛子・松本富有樹)
本日は「19世紀ギターと聴く ドイツ語のうた」にお越しくださいましてありがとうございます。ロマン派時代に花開き多くの名曲が生まれた、ドイツ語で紡がれる“歌曲”の世界を、当時の人々も家庭やサロンで楽しんだとされる19世紀ギターの音色と合わせてお届けいたします。
♪ ♪ ♪
F.シューベルト
F.Schubert (1797-1828)
水の上で歌う (作品72, D774)
Auf dem Wasser zu
singen
糸を紡ぐグレートヒェン (作品2, D118)
Gretchen am Spinnrade
まず 最初に、ドイツリートの王とも呼ばれる、フランツ・シューベルト(Franz
Schubert, 1797-1828)による歌曲を2曲演奏いたします。
ウィーン郊外出身のシューベルトが生きた18世紀末から19 世紀初頭にかけてのヨーロッパは、貴族たちだけでなく中産階級の市民たちにとっても、自宅での音楽活動が生活の大切な一部となっていった時代でした。夕食後に家族と一緒に楽器を奏でて歌を歌ったり、友人を招いてコンサートを開いたりということが頻繁に行われていて、特にギターはピアノに比べて安価であるとともに持ち運びもしやすいということで大変に人気があり、一般家庭においても広く流通し楽しまれた楽器となっていました。特にパリやウィーンでは大ブレイクしていたと言いますから、シューベルトがそんなギターという楽器に触れなかったはずがありません。事実、シューベルトは当時ギターを所持しており、今は博物館になっているウィーンの彼の生家には、実際に使用されていたギターが展示されています。一説にはシューベルトは大変なギターの名手であった、とか、貧乏なシューベルトにはピアノを買うお金がなく、代わりにギターを使って作曲していたと言う話もあるなど、意外にもギターとの結びつきが強い作曲家なのです。
シューベルト自身がギター曲を作曲したという記録こそないものの、このようなギター人気の時代背景もあり、彼の作曲した歌曲がギター伴奏に編曲され演奏されるということは当時ごく普通に行われていたことのようです。
本日演奏する「水の上で歌う Auf dem Wasser zu singen」も、シューベルトの生きた同時代にすでにギター伴奏に編曲されたものが出版されています。確かに、伴奏にあらわれる水面の揺らめきを表現した細かく繰り返される音型は、ギターの繊細な音色にぴったりとマッチしているように思えます。「糸を紡ぐグレートヒェン Gretchen am Spinnrade」も同じく連続的に繰り返される音型が伴奏で奏でられ、歌詞に応じて紡ぎ車が速まったり遅くなったりするさまを表現しています。この曲の出典はドイツを代表する文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von
Goethe, 1749-1832)の「ファウスト
第一部」であり、シューベルトにとってはこれが初めてのゲーテ歌曲となりました。
L.シュポーア
L.Spohr (1784-1859)
6つのドイツの歌作品41より「乙女の憧れ」
“Des Mädchens
Sehnsucht” from Sechs
deutsche Lieder OP41
6つのドイツの歌 Sechs
deutsche Lieder 作品72より
「春に思うこと」 、「やすらぎ」、「子守唄」
“Frühlingsglaube”, “Beruhigung”, “Schlaflied”
from Sechs
deutsche Lieder OP.72
歌劇「ゼミーレとアゾール」より 「ロマンス」
“Romanze” from Opera “Zemire und Azor”
続いて演奏するのはルイ・シュポーア(Louis Spohr,
1784-1859)の作品です。シュポーアは今日では演奏される機会ののあまり多くない作曲家ですが、ヴァイオリンの大家であり、作曲家としても多作な人物でした。ヴァイオリンの顎当てを発明した人物でもあり、また指揮者として最初に指揮棒を使った人だと伝えられています。
シュポーアはドイツ歌曲もたくさん残しており、オリジナルは歌とピアノの為に書かれていますが、やはり同時代にギターでも伴奏できるように編曲され、また出版もされています。今回演奏する「乙女の憧れ Des Mädchens Sehnsucht」「春に思うこと Frühlingsglaube」「やすらぎ Beruhigung」「子守唄Schlaflied」も全て当時の編曲によるものです。
「ロマンス Romanze」は歌劇『ゼミーレとアゾール Zemire und Azor』の中のアリアです。『ゼミーレとアゾール』はベルギー人作曲家アンドレ・グレトリ(André Grétry, 1741-1813)の有名なオペラコミック『ゼミレとアゾール Zémire et
Azor』(1771年)をもとに書かれた作品で、その台本は『美女と野獣』と『愛のために』の二つの作品をもとに書かれています。1819年のフランクフルト市立劇場での初演成功のあと急速に普及して、アムステルダム、ライプツィヒ、ミュンヘン、ウィーン、ワイマールなどで公演があった他、フランス語、スウェーデン語、英語などに翻訳されて各地で上演されるなど、今日では忘れられているものの、19世紀から20世紀前半までは人気のレパートリーでした。
J.K.メルツ
J.K.Mertz (1806-1856)
無言歌
Lied ohne Wort
J.K.メルツ(Johann Kaspar Mertz, 1806-1856)はブラチスラヴァ(スロバキア共和国の首都で当時はハンガリー帝国領)出身で、ギターの衰退期とも言われている19世紀半ばにウィーンで活躍した数少ないギタリストの一人です。メルツのギター音楽は、それまでのギタリストたちとは異なって、リスト、ショパン、メンデルスゾーン、シューベルト、シューマンなどのピアニスティックな様式を踏襲し、またときにはロッシーニ、ベッリーニ、ヴェルディなどのオペラアリアの様式も取り入れて作曲されました。
「無言歌 Lied ohne Wort」は彼のギター独奏の為の連作作品である『吟遊詩人の調べ Op.13』の中の1曲で、メルツはオリジナル曲以外にオペラや後述するシューベルトの歌曲などの声楽曲の編曲も行なっており、この「無言歌」はまるで歌曲をギターに移したかのような旋律の美しい曲です。
R.シューマン
R.Schumann (1810-1856)
ミルテの花 作品25より 「睡蓮の花」
、「ズライカの歌」
“Die Lotosblume” and “Lied der Suleika” from Myrten OP.25
ロベルト・シューマン(Robert Schumann, 1810-1856)も忘れてはならないドイツ・ロマン派の代表的な作曲家の1人です。歌曲の分野でも優れた作品を多く生み出し、生涯を通じて歌曲だけで270曲以上も作曲しました。特に1840年は“歌曲の年“と呼ばれ、この一年だけで120曲以上が作られ、今回演奏する「睡蓮の花 Die Lotosblume」「ズライカの歌 Lied der Suleika」の2曲が収められている歌曲集『ミルテの花 Myrten』もこの年に作曲されました。この1840年はシューマンが妻・クララとの結婚をようやく果たした年でもあり、『ミルテの花』はまさにその結婚の前夜にクララに捧げられた歌曲集で、ミルテの花というのは花嫁のブーケに使う花なのだそうです。そうした幸せな時期に書かれたことも影響してか、「睡蓮の花」も「ズライカの歌」も幸福感に満ちた美しい曲となっています。
F.シューベルト
F.Schubert
白鳥の歌 D957より 「愛の使い」、「セレナーデ」、「鳩の便り」
“Liebesbotschaft”, “Ständchen” and “Die Taubenpost” from “Schwanengesang” D957
最後に演奏する3曲はシューベルトの晩年の歌曲集『白鳥の歌 Schwanengesang』からお届けします。この『白鳥の歌』はシューベルト自身が編んだ有名な歌曲集『美しき水車小屋の娘』『冬の旅』とは違って、本人の死後に出版社や友人たちが遺作をまとめたものであり、それぞれの歌曲は連続性を持っていません。しかし、シューベルトの歌曲の中で最も有名なものの一つである「セレナーデ」が収められているなど、珠玉の名作が揃っています。
「愛の使い Liebesbotschaft」は、旅する若者が遠く離れた故郷にいる恋人に、“もうすぐ帰るから心配しないで“という一言を、流れる小川に託すという愛の歌です。「セレナーデ Ständchen」も恋人に対する切々たる思いを歌った曲で、伴奏はマンドリンを模した形で書かれているといわれているため、まさしくギター伴奏での編曲にぴったりの曲だと言えるのではないでしょうか。「鳩の便り Die Taubenpost」は可愛らしい抒情的な歌曲で、これがシューベルトの絶筆だとされています。 本日は「愛の使い」を前述したメルツ編曲のギター独奏で、残る「セレナーデ」「鳩の便り」をギター伴奏の編曲版で演奏いたします。
たくさんの拍手をいただきましたので
F.シューベルト 「音楽に寄せて」 “An die Musik”をお聴きいただきます。
ありがとうございました。
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