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102nd Concert

  

アンサンブル山手バロッコ第102回演奏会

洋館で味わう

バリトン・トリオの響き

Haydns Baryton Trio in former British House

結成10周年記念日本ツアー

 “洋館で親しむバロック音楽”第111

20211011()19時開演  横浜市イギリス館(横浜市中区山手町115-3
19:00
 11th Oct 2021 at Yokohama Port Opening Memorial Hall

主催:アンサンブル山手バロッコ

 

出演

トリオ・シュタットルマン

バーゼル音楽院で古楽器を学ぶ3人により2010年秋に結成される。アンサンブル名の由来はハイドンが仕えたエステルハーズィ宮と深いかかわりがあったシュタットルマン一族の楽器、あるいはそのコピー楽器を結成時に各メンバーが音楽院より貸与されていたことによる。以来バーゼルを中心に演奏活動を行う。20151月に日本・スイス国交樹立 150周年記念行事の一環として、バーゼル音楽院協力のもと、全国6か所にて来日ツアー公演を行う。レパートリーは J.ハイドンのバリトン・トリオ作品を中心に、失われた作品の復元、ハイドンと同時代の知られざる作曲家たちによる音楽、さらには当時の流儀による即興音楽演奏にまで及ぶ。2016年からは東京雑司ヶ谷本浄寺内「拝鈍亭」(楽長:鈴木秀美)のレジデンスアーティストとして J.ハイドン作曲のバリトン・トリオ全曲演奏プロジェクト「ニコラウスの館」を年2回のペースで開催している。 

 

坂本 龍右(バリトン)

奈良県出身。東京大学文学部(美学芸術学専攻)卒業。2008年にスイスのバーゼル・スコラ・カントルムに留学、リュートをはじめとする撥弦楽器を H.スミス氏に、並行してルネサンス期のヴィオラ・ダ・ガンバを R. クック氏に師事。その後バリトンの演奏指導を C. コワン氏に受ける。2011年優秀賞付きで同校の修士課程を修了、同年イタリアのラクィラで行われた国際古楽コンクールで第一位並びに聴衆賞。録音は、ルネサンス・リュートによるソロCDTravels with my Lute」( 英グラモフォン誌推薦盤)「Polyphony and Diminution」(レコード芸術準特選)ほか多数。自身が結成したアンサンブルIl bellhumore のほか、イングリッシュ・コンソートQueens Revels、リュートコンソートDelight in Disorder、コンソートSestina Consort などのメンバー。2017年には「コンティヌオ・ギルド(通奏低音組合)」を、日本国内で有志で立ち上げるなど、ヨーロッパと日本の双方で意欲的な活動を行っている。

 

朝吹 園子(ヴィオラ)

東京芸術大学、大学院修士課程修了。同声会賞受賞。明治安田生命より奨学金を、文化庁在外派遣研修員としてフライブルク音楽大学、バーゼル・スコラ・カントルムで学び、 両大学共最優秀の成績で卒業。これまでに岡山潔、豊嶋泰嗣、岡田伸夫、ウォルフラム・クリスト、キアラ・バンキーニ、レイラ・シャイェック、アマンディーヌ・ベイエの各氏に師事。2011 年オランダ、ファン・ワセナール国際古楽コンクールにて優勝。ラ・チェトラ、バッハ財団オケ、カプリコルヌス・コンソート、リアンジェリ、バッハ・コレギウム・ ジャパンなどのメンバーとしても、活発に演奏活動をしている。2020年初のソロアルバム<ヴィヴィアーニ、17 世紀後半ハプスブルグ家秘曲のヴァイオリンと通奏低音の作品集>をリリースし、「レコード芸術」誌特選版。

 

菅間 周子(ウィーン式コントラバス)

複数の楽器を経てコントラバスを手にする。青山学院大学を経て、東京芸術大学を卒業後、2009年よりバーゼル・スコラ・カントルムに留学。D.シンクレア氏の指導のもと、歴史的奏法のほか、18世紀のウィーン式5弦コントラバス、イタリア起源の3弦コントラバス、6弦のG調弦ヴィオローネについて研究と発表を積極的に行う。室内管弦楽団 I Tempi 首席奏者、バロックアンサンブルI Pizzicanti、古楽オーケストラCapriccio Barockorchester、バッハ財団オーケストラ、バーゼル室内管弦楽団、台湾の古楽オーケストラFormosa Baroqueなどのメンバーとして活動中。G調弦ヴィオローネ奏者として参加するConcerto Ripiglinoとして 2017年国際ビーバーコンクール優勝。

 


アンサンブル山手バロッコ第102回演奏会

洋館で味わう

バリトン・トリオの響き

Haydns Baryton Trio in former British House

結成10周年記念日本ツアー

 “洋館で親しむバロック音楽”第111

 

プログラムノート

(坂本龍右/アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)

 

横浜市イギリス館は、1937年に、英国総領事公邸として建設された由緒ある建物です。聴いていただくバリトン・トリオは、ハイドンがエステルハーズィ侯に仕えた時に、候の弾く「バリトン」と一緒に演奏するために作曲したため、出版もされず宮廷内でしか耳にすることのできなかった曲でした。本日は、この珍しい室内楽を、由緒ある西洋館の親密な空間で、宮廷への想いを膨らませながら味わいたいと思います。

♪  ♪  ♪

貴重な弦楽器「バリトン」とは? 

バリトンとは、主に17世紀から18世紀にかけてヨーロッパの貴族に愛用された楽器で、ヴィオラ・ダ・ガンバに金属製の弦を追加したものです。この金属弦は共鳴弦としての役割のほかに裏側から指ではじくこともでき、擦弦楽器と撥弦楽器の両方の要素を持つ楽器です。バリトンは楽器の構造が複雑であり、奏者には高い技術が求められるため、現代においては直に見聞きすることは大変珍しいといえます。「バリトン・トリオ」は、バリトンにヴィオラ(稀にヴァイオリン)とバス(チェロまたはコントラバス)を加えた編成で、とりわけ古典派を代表する作曲家ハイドンが、バリトンを愛奏した当時の君主であるエステルハーズィ候のために、現存するだけでも130曲近くの作品を残しました(「バリトン・トリオ」は通称であり、ハイドン自身は殆どの場合「ディヴェルティメント」と表記しています)「トリオ・シュタットルマン」の由来であるシュタットルマンは、ハイドンがエステルハーズィ候に仕えていた頃、その宮廷で使われていた多くの弦楽器を手がけた楽器職人一家の名前です。

 

今回のプログラムでは初期・中期・後期とそれぞれの良い所を感じられる選りすぐりの作品をお届けします。特にニ長調の作品ではバリトンをはじめとする3台の楽器がどれもとても良く鳴り響く他、バリトンによる独特な金属弦の「はじき」の効果を楽しんでいただけます。

 

最後にお聴きいただくバリトン三重奏曲 第113番 ニ長調は、バリトン・トリオの音響像をすっかりと手中におさめた、ハイドンの余裕にみちた音楽造りが存分に堪能できる、後期の代表的作品です。ここでもいろいろな仕掛けが施されていますが・・それは聴いてみてのお楽しみ。

 

F.J. ハイドン(17321809
Franz Joseph Haydn

バリトン三重奏曲 第44番 ニ長調
Baryton Trio No.44 in D major 

アレグロ・ディ・モルト – アダージョ – メヌエット
Allegro di molto - Adagio - Menuet

バリトン三重奏曲 第44番 ニ長調は、3台の楽器による短いフレーズの受け渡しが印象的な冒頭楽章にはじまり、続いてバリトンの歌うような旋律が美しい中間楽章の魅力も捨てがたい、中期の名品です。

 

 

F.J. ハイドン(17321809
Franz Joseph Haydn

バリトン三重奏曲 第30番 ト長調
Baryton Trio No.30 in G major

モデラート – メヌエット – 終曲
Moderato - Menuet
Finale

 

バリトン三重奏曲 第30番 ト長調は、比較的初期の作で、弾く側にも聞く側にも徹頭徹尾「楽しさ」を追求したように思える曲です。疾走する終楽章には、ハイドンが生涯忘れなかった無邪気な遊び心が垣間見られます。

 

 

F.J. ハイドン(17321809
Franz Joseph Haydn

バリトン三重奏曲 第101番 ハ長調
Baryton Trio No.101 in C major 

アレグロ – メヌエット – 終曲、2重対位法により3声のフーガ
Allegro - Menuet - Finale. Fuga a3 soggetti in contrapunto doppio

バリトン三重奏曲 第101番 ハ長調のように、後期の作品になると、ヴィオラとバスが伴奏の役割から脱して、ますますバリトンと対等になろうとするエネルギーを持つようになります。この曲はおそらくその最も顕著な例に数えられ、なんと終楽章に至っては、3つの主題によるフーガが緻密に展開されます。

 

♪♪♪ 休憩 ♪♪♪

 

L. トマジーニ1741-1808
Luigi.
Tomasini

バリトン三重奏曲 K.20 ニ長調
Baryton Trio K. 20 in D-major

アレグロ – アダージョ – アレグロ・モルト
Allegro - Adagio - Allegro molto

エステルハーズィ宮には、イタリア出身の音楽家が何人か雇われていました。ハイドンが指揮していたオーケストラのコンサート・マスターを務めた、トマジーニもその一人。彼が作曲したバリトン三重奏曲 K.20 ニ長調は、明快さ・親しみやすさにおいてハイドンの作品に引けを取りません。このヴィオラ・パートもおそらくトマジーニ自身が弾いていたと思われます。

 

 

F.J. ハイドン(17321809
Franz Joseph Haydn

バリトン三重奏曲 メドレー
Medley

アレグロ・ディ・モルト ニ長調(トリオ第118番より) – アダージョ ロ短調(トリオ第96番) - メヌエット ト長調(トリオ第125番) - フィナーレ ニ長調(トリオ24番より)
Allegro di molto in D-major(Baryton Trio No.118) - Adagio in b-minor(Baryton Trio No.96) - Menuet in G-major (Baryton Trio No.125)
- Finale in D-majorBaryton Trio No.24

ハイドンが作曲した中・後期のバリトン・トリオから、各演奏者のお気に入りの楽章を集めたメドレーにしてみました。どれも豊かな内容を持った楽章で、特に2曲目に演奏するアダージョは、バリトン・トリオとしては異例の、ロ短調で書かれた楽章です。
ハイドンのバリトン・トリオのハイライトともいえるこれらの音楽は、こうして単独で弾かれても充分お楽しみいただけるでしょう。

 

F.J. ハイドン(17321809
Franz Joseph Haydn

バリトン三重奏曲 第113番 ニ長調
Baryton Trio No.113 in D major 

アレグロ・ディ・モルト – アダージョ – メヌエット
Allegro di molto - Adagio - Menuet

バリトン三重奏曲 第113番 ニ長調は、バリトン・トリオの音響像をすっかりと手中におさめた、ハイドンの余裕にみちた音楽造りが存分に堪能できる、後期の代表的作品。ここでもいろいろな仕掛けが施されていますが・・それは聴いてみてのお楽しみ。

 

 準備にお忙しい中、トリオ・シュタットルマンの皆様にインタビューをいたしました。

まず、バリトン担当の坂本龍右さんにうかがってみました。

Q: バリトンというと、声楽の男性の中音域とか、サクソフォンのバリトン・サックスのように楽器の担当する音域の名前を思い浮かべますが、今回聴かせていただくバリトンとはどのような楽器なのでしょうか?(侯が弾けたのだから簡単な楽器?などの興味もあります・・・)

A(坂本):かつてパリドン、ファリドンなど、様々な名前で呼ばれていた楽器が、18世紀に入ってようやくバリトンという名前に落ち着きました。声楽におけるバリトンとは全く関係がないです(ちなみに私の声域はテノールです!)。

17世紀の始め頃に、既に存在していたヴィオラ・ダ・ガンバの昨日を拡張させて生まれた楽器で、弓でこすって音を出すための前面のガット弦のほかに、指板の後ろに共鳴用の金属弦が張られていて、これを後ろからはじくことができる構造になっています。いわば擦弦と撥弦とのハイブリット楽器ですね。

この両者の「合わせ技」を要求する曲については、慣れるまでは結構大変です。しかし何よりも、金属弦とガット弦の調弦がぴたっと合っている条件のもとで、弓で弾いたときに、楽器全体が豊かに鳴ってくれるのが魅力です。この編成では、常に「王さまの楽器」のつもりで弾かせていただいていますね。

次に、ウィーン式コントラバスの菅間周子さんにうかがいました

Q: ウィーン式コントラバスという名前を耳慣れないのですが、どのような楽器で、どのようなところで使われたのでしょうか?演奏されるうえで、普段オーケストラで目にするコントラバスと違いがありますか?

A(菅間):ウィーン式コントラバス、と日本語では1単語にしていますが、正確に言うと「ウィーン式の調弦を持ったコントラバス」です。なので、見た目は普通のオーケストラにいる5弦のコントラバス(CC-EE-AA-D-G)と変わりません。一方で、その調弦は下から「FF-AA-D-F#-A」とかなり特殊です。

古典派の時代にウィーンを中心に定着した、ニ長調がとにかく弾きやすく響きやすい調弦なのです。実際、この調弦はコントラバスのソロ楽器としての可能性を多分に引き出し、この時代にはコントラバスのための協奏曲がたくさん作曲されました。現在は残念ながら行方不明なのですが、J. ハイドンが「ヴィオローネ(コントラバス)協奏曲を作曲した」というのは、自身による手書きのカタログからも分かります。モーツァルトも、歌のバスとウィーン式コントラバスという冗談のような組み合わせをソリストに迎えた演奏会用アリアを最晩年に作曲しています。

もちろん、音楽の構成が複雑になるのにつれて用いられなくなっていったのですが、時の理論書にもこの楽器が紹介されているほか、ハイドンの勤めていたエステルハーズィ家にはこのタイプの楽器が未だに鎮座していますし、特徴的な「F#の弦」の注文書も遺されていることから、はっきりとその存在を意識することができます。

最後はヴィオラの朝吹園子さんにうかがいました。

Q: やっと普通の名前の楽器にたどり着きました(笑)。写真で拝見するとヴィオラ、バリトン、コントラバスの順に大きくなるのですが、演奏されるのはバリトン・トリオとバリトンが冠になっています。どのようなアンサンブルなのでしょうか?このような編成に参加する楽しみもお教えください。

A(朝吹):楽器の大きさでは、ヴィオラ、バリトン、コントラバスの順になりますが、このトリオは、バリトンがメロディ担当、つまり上声部を受け持ちます。意外に高い音が出るんです!(笑)そしてヴィオラはその下の内声部。そしてコントラバスが低音バスラインで音楽を支えていきます。

ハイドンがこのトリオを書いた時、ニコラウス・エステルハーズィ公爵がバリトンを弾いてメロディを奏で、ハイドンがヴィオラを弾いて公爵をサポートしていました。特別な響きのするこの組み合わせは、耳に心地良く、お互いが語り合うように、作曲されています。個人の為にサロン用として書かれたので、ハイドンがいかに愛着があったのかわかります。その事がこのアンサンブルの魅力だと思いますし、またハイドンが公爵を、つまりバリトンを引き立つ用に書いていたり、公爵をサポートしつつ、ヴィオラが良い感じにメロディを弾いていたりしますので、公爵とハイドンのやり取りを想像しながら弾くのも、また面白い所です。

まとめにトリオ名の由来とメンバー構成について坂本さんにうかがいました。

Q:みなさんの出会いや珍しいトリオを結成されるきっかけについて教えてください。また、この編成のアンサンブルならではの楽しみはなんですか?

A(坂本):我々は3人は、たまたま同時期にバーゼルの音楽院で、それぞれ別の弦楽器を学んでいました。で私が、学校の倉庫に長らく弾かれずにいたバリトンがあることを知って、交渉して借り出すことに成功しました。

すると、たまたま同じ(楽器製作者)シュタットルマン一族のコピーまたはオリジナルの楽器を、学校から借りていたのが他のお2人だったというわけです。これでハイドンのバリトン・トリオを演奏するのは、必然なのではないかということで、いくつか音出しして、「これはいける!」となり、そこから半年ほどで公開の演奏会を行ったところ、けっこうな反響があって、その後は固定のグループとして活動するようになりました。

この編成での楽しみとしては、とにかく書かれたレパートリーの大半が私的な楽しみのための曲ということもあって、音楽の屈託のなさでしょうか。特にハイドンに至っては、彼ならではの遊び心が堪能できますし、中・後期の作品になると、数々の実験的要素に加え音楽的な深みも随所にあって、同じ編成のものでも、曲によっていろいろな側面が楽しめると思います。

ありがとうございました。

アンコール

たくさんの拍手をいただきましたので

ハイドン バリトン三重奏曲第107より、バリトンが中間部で独奏となり指ではじく共鳴弦の伴奏の上に弓でメロディを重ね演奏する難曲を含むメヌエットをお聴きいただきます。

ありがとうございました。

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