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山手234番館 古楽器による新春コンサー
15th Concert

 

アンサンブル山手バロッコ 第15回演奏会 〜古楽器のモーツアルト〜
"Mozart with Period Instruments"

2005年1月30日(日) 午後6時 開演 山手234番館 2Fギャラリー
6:00pm 30 Jan. 2005 at Yamate234 House

出演 アンサンブル山手バロッコ 

わたしたち「アンサンブル山手バロッコ」は、98年、横浜山手の洋館 山手234番館のリニューアルに行なわれた記念のコンサートをきっかけに、山手在住のリコーダー愛好家 朝岡聡を中心に結成された、バロック時代の楽器(古楽器)を使った演奏団体で、継続的に山手の洋館での演奏活動を続けています。本日の演奏メンバーを紹介します。

朝岡 聡 Satoshi Asaoka(リコーダーRecorder):
元テレビ朝日アナウンサー。現在はフリー。リコーダーを大竹尚之氏に師事。愛好暦は30年以上。著書「笛の楽園」(東京書籍)のほか、コンサート司会・FM番組でもクラシック活動中。

曽禰  寛純 Hirozumi Sone(フラウト・トラヴェルソFlauto traverso,リコーダーRecorder):
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で学び、慶応バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。当アンサンブル発足メンバー。

瀬尾  和美 Kazumi Seo(クラシカル・ヴァイオリンClassical violin) :
ヴァイオリンを三好政子、桐山建志、バロックヴァイオリンを渡邊慶子、桐山建志各氏に師事。豊田耕児、F・アゴスティーニ、赤津眞言、E・ガッティ、ジーン・キムのマスタークラスを受ける。また最近では古楽器アンサンブル「コンヴェルスム・ムジクム」の演奏会、録音等に参加する。

川本  浩史 Koushi Kawamoto(クラシカル・ヴァイオリンClassical violin) :
川口洋、木村義之、大田也寸子、の各氏にヴァイオリンを師事。ラテン系音楽と並行して古楽演奏で活動中。バロック・ヴァイオリンを渡邊慶子、ヴィオラ・ダ・ガンバを神戸愉樹美の各氏に師事

川崎  恵子 Keiko Kawasaki (クラシカル・ヴィオラClassical viola) :
15歳よりヴィオラを始める。洗足学園大学及び大学院にて岡田伸夫に師事、またバロックヴィオラを森田芳子に師事。フリーでオーケストラ、室内楽などで活動中。

中尾  晶子 Akiko Nakao(バロック・チェロBaroque violoncello: 
2000年〜2003年の都留音楽祭に参加。アマチュア・チェリストとして、モダン、バロック・チェロで活躍中。カメラータ・ムジカーレ同人。 

酒井  絵美子 Emiko Sakai(チェンバロCembalo
洗足学園音楽大学ピアノ科卒業。在学中、チェンバロに出会い、チェンバロ及び通奏低音を岡田龍之介氏に師事する。現在、二つの楽器を駆使し、ルネッサンスから現代音楽まで幅広く音楽活動を行っている


 

アンサンブル山手バロッコ 第15回演奏会 〜古楽器のモーツアルト〜
"Mozart with Period Instruments"

 

プログラム

 古典派の代表的な作曲家モーツアルトの曲は、現代のコンサートでも数多く演奏され、交響曲、協奏曲、室内楽曲やピアノ曲からオペラに亘るあらゆるジャンルで広く親しまれています。

 一方で、モーツアルトの時代は、バロックから古典派への転換時期の歴史や習慣を色々な意味で保っていた時代でもありました。モーツアルトの知っていたフルートやヴァイオリンは、今日の楽器よりもバロック時代の楽器にずっと近いものであり、ピアノ(ピアノフォルテ)は、チェンバロとの共通の語法を数多く持っていました。また、モーツアルト自身も、ローマの教会でバロック時代までの宗教音楽の伝統を知り、スポンサーのスヴィーテン伯爵の依頼で、バッハやヘンデルといったバロック音楽の頂点の楽曲を編曲し指揮しました。 

 本日は、そのモーツアルトの曲を、当時の楽器を使って、皆様と一緒に、バロックから古典派の語法の変化、楽器の特性の変化などを感じながら、室内楽曲を中心に楽しみたいと存じます。

 

W.A. モーツアルト(1756-1791) 

フルート四重奏曲 二長調 KV.285

W. A. Mozart / Flute Quartet D-Major KV-285

アレグロ - アダージョ - ロンド(アレグレット)

  4曲残されているフルート四重奏曲の中で最も有名でかつすぐれた労作です。

 1777年、マンハイムを訪れたモーツアルトは、友人のフルート奏者ウェドリングの紹介で、音楽愛好家のドゥジャンからの数曲のやさしい協奏曲と四重奏曲の作曲依頼を高額の報酬で受けます。この四重奏曲は、その依頼によりその年の末に完成しましたが、その後、他の曲の作曲は遅々として進まず、苦し紛れにオーボエ協奏曲を編曲しフルートの曲としたが、(多分その曲はマンハイムで有名だったので、事がばれて)十分な報酬を受け取れなかった、といった逸話が残されています。父親への言い訳では、フルートのような好きでない楽器には作曲の気乗りがしないのだ、といっていますが、交響曲、セレナード、オペラなどでのフルートの使い方を考えるととても真実とは思えませんし、このニ長調の四重奏曲も古今のこのジャンルの最高傑作といわれています。(真実は、当時、恋人のアロイジア・ウェーバーに夢中だったので、作曲に集中できる状態でなかったということのようです。)

 曲は、フルート独奏を中心とした協奏曲の原理に影響された1楽章、弦楽のピチカートの上で、係留の多いアリアのようなフルートの独奏が印象的な2楽章から、軽快なロンドにそのまま進み、軽やかに曲が終了します。1777年ころは、バロック時代と同じ鍵が1つのフルートから、より半音階のクリアに演奏できる鍵が4つから8つのフルートに移行する時期でした。愛好家のために作曲された曲とはいえ、本日演奏する1鍵のフルートでは、楽器の性能の隅々まで使い、バロックでは表現しないようなニュアンスを求めています。一方で、ガット弦を張ったクラシカルタイプの弦楽器とは、現代楽器と違い、とてもよく調和して演奏できます。

 

W.A. モーツアルト(1756-1791)

チェンバロ、2本のヴァイオリンと低音のためのソナタ(教会ソナタ) ヘ長調 KV244、ハ長調 KV328 336 

W. A. Mozart  / Church Sonata for Cembalo, Two Violins and Basso F-Major KV-244, D-Major KV-245, C-Major KV-328 and 336

アレグロ

 教会ソナタは、モーツアルトがザルツブルグの大聖堂に奉職していたときに、礼拝の合間に演奏された器楽曲で、主として2台のヴァイオリン、1台のチェロとオルガンの編成で、数十曲が残されています。ミサの時間制限のためか、単一楽章のソナタで1曲5分足らずの演奏時間です。殆どは弦楽が主体の楽曲ですが、数曲はオルガンが独奏楽器として活躍します。

 本日はオルガンのパートをリコーダーとチェンバロに替えてサロン版としてお届けします。KV.244は、モーツアルト自身によって、オルガンの音栓の種類をCoupla(リコーダー,フルート系のパイプ)と指定していますので、今日の演奏では、リコーダーでオルガンの雰囲気を再現してみようと思います。KV.328は、フルート四重奏曲の少し後の1779年に作曲されたと推定されており、前半は弦とチェンバロが拮抗し、最後にはチェンバロのソロが前面になって終了します。KV.336はわずか1年の違い(1780年)ですが、鍵盤楽器の活躍が中心になり、協奏曲のように弦楽は主題提示と伴奏に終始しチェンバロが大活躍します。

 

G.サンマルティーニ(1695 〜1750)  

 ソプラノ・リコーダー協奏曲 へ長調より 第2楽章 シシリアーノ

G.Sammartini / Siciliano from Recorder Concerto F-Major

 モーツアルトに一息入れ、バロックのリコーダー協奏曲をお届けします。 

 サンマルティーニは、バッハより10歳年下のイタリアの作曲家ですが、イギリスに渡って活躍し、モーツアルトの生まれる数年前に亡くなりました。このリコーダーと弦楽合奏のための協奏曲は、サンマルティーニの曲の中でも演奏やCD化される機会の多い曲で、明るく伸びやかな曲想と、ソプラノ・リコーダーの冴え冴えとした音色がマッチしています。第2楽章シシリアーノは、イタリアの舞曲を骨組みとしていますが、リコーダーを歌手とした、しっとりとしたアリアのような作りとなっており、弦楽を伴奏に美しくお聴きいただけます。

 

W.A. モーツアルト(1756-1791)  

弦楽四重奏曲 ト長調  KV.387 (ハイドン四重奏曲より第一番)
W. A. Mozart / String Quartet  G-Major KV-387 (Haydn Quartet #1)

アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ − モルト・アレグロ

 弦楽四重奏曲ト長調 KV.387は「ハイドン四重奏曲」と呼ばれる6曲の曲集の第一曲で、1782年末に完成しました。この曲集はハイドンに献呈されたためにこの名前がつけられていますが、モーツアルトの四重奏曲の中でも代表的な傑作であり、主題を論理的に扱ったり半音階を多く用いたりフーガなどバロック以前の語法を使ったり、それまでの弦楽四重奏曲を塗り替えるような作品です。

 モーツアルトは、いつも軽々と作曲しているように思えますが、この四重奏曲集は、苦労して生み出された形跡が、自筆楽譜の推敲の後や、完成まで数年かかっている事からも見て取れます。ハイドンへの献呈文で苦労と自信を次のように示しています。「わが親しき友ハイドンに。広い世に、自分の息子たちを送り出そうと決心した父親は、彼らを、幸運によって最良の友となった今日のもっとも名高いお人の庇護と指導にゆだねるべきものと考えました。高名なお人にして、わが最愛の友よ、ここに彼の6人の息子がおります。彼らは、まことに、長く、苦しい労苦の結実でありますが、しかし、いく人かの友人たちが与えてくれました、すくなくとも一部は労苦も報われるだろうという希望が私を元気づけ、またこれらのものがいつかは私にとってなんらかのなぐさめになるだろうと私に期待させてくれるのです。(中略) ・・あなたの寛大な友情をつよく重んじている者に対して、その友情を保ちつづけて下さいますようお願いいたします。親しい友、あなたのこの上なく誠実な友 W・A・モーツァルト1785年9月1日」ハイドンも直接この曲の演奏を聴き、父親レオポルド・モーツアルトに、「誠実な人間として神にかけて申しますが、あなたの御子息は、私がじかにあるいは評判によって知っている作曲家の中で、最も偉大な作曲家です。趣味とその上、全く優れた作曲の技術をお持ちなのです」と語っています。

 

W.A. モーツアルト(1756-1791)/A.E. ミュラー (1767-1817) 
  
フルート、弦楽四重奏とチェンバロのための「皇帝ティートの慈悲」 序曲 KV.621
W. A. Mozart / 
Overture for "La Clemenza di Tito"

 モーツアルトはオペラ作曲家としても活躍しましたが、当時の貴族や裕福な商人たちは、最新のオペラを劇場で楽しむだけでなく、室内楽曲として自分の館で演奏し楽しむこともファッショナブルな趣味と考えていました。したがって、作曲家自身や他の作曲家による各種の編曲の出版が行われており、本日演奏する序曲もそのような需要に応えたものです。

 編曲者(と推定される)ミュラーは、ライプチッヒの音楽監督・オルガニストもつとめたフルート演奏家で、モーツアルトの死後夫人のコンスタンツェの楽譜出版を助けたと言われていますので、出版は夫人の経済支援だったのかもしれません。オーケストラの全体の響きやニュアンスを失わないように、弦楽四重奏と1本のフルートに効果的に置き換えています。「皇帝ティートの慈悲」序曲は、モーツアルトの晩年、有名な魔笛やレクイエムの作曲時期と重なるもので、澄み切った旋律の裏にある悲しみや、バロックの影響を感じる主旋律・対旋律の追かけっこなど、ハイドン四重奏曲でのモーツアルトが奮闘したしかけを、晩年には実に自由に自然に使いこなしていることが分かります。

 

 

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