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130th Concert
第18回横浜山手芸術祭コンサート
三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽
Ensemble music of Baroque Flutes, Baroque Fagot and Cembalo
“洋館で親しむバロック音楽”第147回
2025年1月29日(水) 14時開演(13時30分開場) 山手111番館
14:00 29th January 2025 at Yamate Bluff 111 House
主催:アンサンブル山手バロッコ
出演
清野 由紀子 (フラウト・トラヴェルソ)
昭和音楽大学管弦打楽器科卒。卒業後は音楽出版社勤務の傍ら研鑽を続け、モダンフルートを岩花秀文氏、フラウト・トラヴェルソを故中村忠の各氏に師事。バロックアンサンブル『ラ・クール・ミュジカル』主宰。アンサンブル山手バロッコメンバー。
曽禰
寛純 (フラウト・トラヴェルソ)
フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。
前原 聡子(バロック・ファゴット)
ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始める。現在、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。 アンサンブル山手バロッコメンバー。
和田 章(チェンバロ)
小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
アンサンブル山手バロッコ第130回演奏会
第18回横浜山手芸術祭コンサート
三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽
Ensemble music of Baroque Flutes, Baroque Fagot and
Cembalo
“洋館で親しむバロック音楽”第147回
プログラム
山手111番館は、ワシン坂通りに面した広い芝生を前庭とし、港の見える丘公園のローズガーデンを見下ろすスパニッシュスタイルの洋館です。大正15(1926)年にアメリカ人ラフィン氏の住宅として、J.H.モーガンの設計で建設されました。
今回は、お客様アンケートでも多く寄せられる「バッハを中心としたバロック音楽を」とのリクエストにお応えして、大バッハとその次男エマニュエル・バッハの2本のフルートとチェンバロの名曲を集め、同じく管楽器の低音楽器であるファゴットも加えて、「三つの古楽器とチェンバロで味わうバロック音楽」というテーマで演奏いたします。響きの良い山手111番館の吹き抜けのホールで、ご一緒に楽しみましょう。
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ヨハン・ゼバスチャン・バッハは、1685年にドイツのアイゼナッハで音楽一族の家系に生まれ、その一生をドイツ国内で送りました。音楽家としてのスタートは宮廷楽団員でしたが、その後、いくつもの転職を通じてキャリアアップをしていきます。まず、アルンシュタット、ミュールハウゼンの教会オルガニストとしてその経歴を積み、ヴァイマルの宮廷楽長に就任し、イタリアの作曲家の協奏曲を鍵盤楽器のために編曲しながらイタリア音楽を学びました。また、宮廷礼拝堂のために教会カンタータを本格的に作曲し始めました。その後、1717年にケーテンの宮廷楽長に就任。音楽好きで、自身の宮廷に素晴らしい音楽家を集めた楽団を立ち上げた領主レオポルト公の元で、有名なブランデンブルク協奏曲をはじめ、独奏曲、室内楽などの名曲が数々生み出されました。
ケーテン宮廷楽長を5年ほど務めたのち、1723年には、バッハはライプツィヒ市の音楽監督といえる「トーマスカントル」に就任し、就任後数年で、毎週教会の礼拝とともに演奏される教会カンタータを精力的に作曲・演奏を進めました。その一方、音楽監督業と並行して、テレマンの設立した市民向け演奏団体「コレギウムムジクム」を引き継ぎ、ライプチッヒ市の名物に仕立て上げました。この演奏団体と演奏の機会を使って、多くの器楽曲(合奏曲、協奏曲)や世俗カンタータの演奏も行われました。
J.S.バッハ / 2本のフルートと通奏低音のためのソナタ ト長調 BWV1039
Johann Sebastian Bach(1685 – 1750) / Sonata for Two Flutes and Basso continuo G-major BWV1039
アダージョ − アレグロ マ ノン プレスト − アダージョ エ ピアノ − プレスト
Adagio - Allegro ma non tanto - Adagio e
piano – Presto
2本のフルートと通奏低音のためのソナタ ト長調は、1727年頃の筆写譜で現在に伝わっていますが、もともとは、もっと以前に書かれたとも言われています。バッハのお気に入りの曲だったらしく、本日の形以外にも、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの組み合わせ(1740年ごろの自筆譜)やオルガン独奏の形にも編曲されて現在に伝えられています。フルートのための編成の楽譜の筆跡は、バッハの四男ヨハン・ゴットフリート・ベルンハルト(1715-1739)ではないかと考えられています。このベルンハルトはフルートの名手だったので、市民のための演奏会であるコレギウムムジクムなどで腕前を披露する為の演奏譜が現在に伝わったのかもしれません。
曲は2本のフルートをソロ楽器としてトリオソナタの形式で書かれています。当時の様式どおり緩急緩急の4楽章からなりますが、明るい曲想の裏側で、掛け合いや模倣など、2本のフルート間のやりとりだけでなく通奏低音のチェンバロ、チェロにもバッハならではの、凝った仕掛けが組み込まれており、演奏していても緊張感のある曲に仕上げられています。
J.S.バッハ /ファンタジーとフーガ イ短調 BWV904
J.S.Bach / Fantasie und Fuge a-moll
次に演奏するチェンバロ独奏曲ファンタジーとフーガ イ短調 BWV904は、ケーテンからライプチッヒに移り、精力的に教会音楽を作曲していた1725年頃に作曲されたと考えられていますが、同時期に作曲されたハ短調のファンタジーとフーガ(BWV906)や8つの前奏曲などと並んで、バッハの成熟した作曲技法を示す曲となっています。この曲は、もともとはチェンバロのためのファンタジー、手鍵盤オルガンためのフーガという別々の作品が組み合わされたもので、1727年ころの筆写譜で伝えられています。さらに同時代の8種類の筆写譜が現在に伝わっており、バッハが作曲や演奏の指導をしたバッハの息子たちや弟子たちにもよく知られた曲だったと考えられています。
曲は趣向を凝らして作られたもので、豊かな係留に飾られた重厚な響きを特徴とした幻想曲に続いて、フーガが演奏されます。フーガは比較的長いテーマで始まり展開された後、半音階で順番に下がる悲しみを表わす新たなテーマが導入され、最後はフーガのテーマとも組み合わされ曲が終わります。
C.P.E. バッハ/2本のフルートのための二重奏曲ニ長調
Wq.142/H.636
Carl Philip Emanuel Bach(1714-1788) / Duet in D-major
Wq.142/H.636
アダージョ・エ・ソステヌート - アレグロ
Adagio e sostenuto – Allegro
カール・フィリップ・エマニュエル・バッハは、1714年に生まれたバッハの次男です。兄のウィルヘルム・フリーデマンとわずか4歳しか違いませんが、音楽についても音楽活動についても父の影響を大きく受けた長男とは対照的に、父から受け継いだものを消化し、自分らしい音楽として発展させ自由な活動を志向したことで、長男とは大きく違う人生を送りました。父のもとで音楽を学び、有名なベルリンの宮廷でフリードリッヒ大王のお抱えチェンバロ奏者として就職しました。その後、ベルリンの宮廷を辞して(自分の名付け親でもある)テレマンの後任としてハンブルクの音楽監督に就任しました。新しい時代を巧みに採り入れた個性的な音楽が評判となり、曲集や鍵盤楽器の教則本を出版し、ハイドンにも大きな影響を与える時代の寵児として、1700年代後半にはバッハといえばエマニュエル・バッハを指すくらい成功しました。
2本のフルートのための二重奏曲は「音楽時計またはバレル・オルガンのためのさまざまな小品」のの中に収められています。作曲の経緯は明らかではありませんが、エマニュエル・バッハがベルリンからハンブルクに移った1770年代に書かれたようです。手稿譜には「2本のクラリネットのための」と記載されており、シンプルな曲ながらもクラリネットという新しい時代の楽器と新しい音楽の趣味を取り入れた曲です。今日の演奏ではC管のクラリネットの代わりに、フルート(D管)で演奏するために2度上に移調したニ長調で演奏します。一部のクラリネットの低音域はフルートで演奏できるようにオクターブ高くするなどの対応をしています。
C.P.E. バッハ / 2本のフルートと通奏低音のためソナタ ホ長調 Wq162/H580
Carl Philip Emanuel Bach(1714-1788) / Sonata for two flutes and basso continuo E-Major Wq162/H580
アダージョ・マ・ノン・タント - アレグロ – シシリアーナ – アレグロ・アッサイ
Allegretto - Adagio di molto - Allegro
assai
最後に演奏する2本のフルートと通奏低音のためソナタ ホ長調は、ベルリンの宮廷時代の1750年頃の作品で、無類のフルート好きで玄人はだしの演奏をした、というフリードリヒ大王や宮廷音楽家でフルート名手のJ.J.クヴァンツのために作曲した、もしくは当時のベルリン宮廷周辺のフルート演奏家のために作曲したと考えられています。
曲は、当時保守的だったベルリンの宮廷の趣味をはみ出した進歩的なもので、第1楽章の冒頭から2つのフルートが語り合うとともに大きな感情のうねりを組み込んだ曲になっており、エマニュエル・バッハの作品の中でも名曲だと思います。第2楽章は父親譲りの2本のフルートの絡み合いが、第3楽章は、第1楽章と同じような大きな変化が舞曲のリズムに乗って進み、曲の最後は、フルート1本になり消え入るように終了する工夫が凝らされています。
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たくさんの拍手をいただきましたので、
テレマン/2本のフルート、ファゴットと通奏低音のための四重奏曲 TWV43:G3より 第2楽章 Giocando(楽しそうに)をお聴きいただきます。ありがとうございました。
メンバーの使用楽器を以下にまとめておきます。
フラウト・トラヴェルソ:
(清野): I.H. Rottenburgh(1720年前後、ベルギー)をモデルに、Stéphanie Weemaels(ベルギー)が製作(2013)
G.A.Rottenburgh(1745年前後、ベルギー)をモデルに、Rudolf Tutz(オーストリア)が製作
フ(曽禰): Pierre Gabriel Buffardin (18世紀前半、ドレスデン)をモデルにMartin Wenner(ドイツ)が製作(2024)
バロック・ファゴット:
バロック・ファゴット:Prudent Thierriot (18世紀後半、パリ)をモデルにLaurent Verjat(フランス)が製作(製作年不明)
チェンバロ:
イタリア様式一段鍵盤のチェンバロ(1600年頃)をモデルに堀栄蔵(日本)が製作(1990)
参考文献:
@ 礒山雅他編 / バッハ事典、東京書籍 (1996)
A R.D.P.Jones / The Creative Development of Johann Sebastian Bach (Vol.II), Oxford University Press (2013)
B C.Wolff / The New Grove Bach Family, W.WNorton & Company (1983)
C D.Hurwitz / C.P.E. - A listner’s Guide to the other Bach -, Amadeus Press (2016)
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