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125th Concert

 

アンサンブル山手バロッコ第125回演奏会

横浜開港記念コンサート

バッハ・珠玉のカンタータ II  

喜びのうた〜歓喜の響き〜

Bach Cantata Vol.2 : “Ode and Sound of Joy” 

“洋館で親しむバロック音楽”第141

2024420日(土) 14時開演(1330分開場) 神奈川県民ホール・小ホール
14
00 20th April 2024 at at Kanagawa Kemnin Hall/small hall

主催:アンサンブル山手バロッコ  https://yamatebarocco.sakura.ne.jp 後援: 横浜市中区役所

 

 

出演

小林 恵(ソプラノ)

青山学院大学文学部史学科卒業。東京藝術大学大学院古楽科バロック声楽専攻修士課程修了。G.F.ヘンデル 《ディクシット・ドミヌス》、A.ヴィヴァルディ《グロリア》、J.S.バッハ《ミサ曲 ロ短調》、J.ハイドン《十字架上のキリストの最後の七つの言葉》、G.フォーレ《レクイエム》等の宗教作品でソリストとして出演。青山学院大学聖歌隊在籍中は英国ツアーにてソロを務めたほか、エマ・カークビーによるマスタークラスを受講。早稲田大学・日本女子大学室内合唱団、東京スコラ・カントールム、ヴォイストレーナー。サリクス・カンマーコア メンバー。これまでに声楽を波多野睦美氏、野々下由香里氏、青木洋也氏に師事。

 

加藤 詩菜(ソプラノ)

フェリス女学院大学音楽学部演奏学科卒業。洗足学園音楽大学大学院音楽研究科修了。第4回 彩明ムジカコンコルソ第1回声楽部門「読売賞」受賞。第15回日本演奏家コンクール声楽部門「奨励賞」「協会賞」受賞。故川上勝功、平松英子、ウーヴェ・ハイルマンの各氏に師事。横浜市民広間演奏会会員。洗足学園音楽大学ミュージカルコース助手。

 

曽禰 愛子(メゾソプラノ)

鹿児島国際大学短期大学部音楽科、同専攻科卒業。洗足学園音楽大学大学院 音楽研究科修了。第32回国際古楽コンクール〈山梨〉ファイナリスト。スイス・バーゼル・スコラ・カントルムにてBachelor及びMasterを修了。幅広い時代の作品をレパートリーとし、ソリストおよび声楽アンサンブルメンバーとして活動しており、ヨーロッパ各地でのコンサートに参加。声楽を故川上勝功、ウーヴェ・ハイルマン、ゲルト・テュルク、ローザ・ドミンゲスの各氏に師事。

 

大野 彰展(テノール)

愛知県立明和高等学校音楽科を経て、国立音楽大学音楽学部及び同大学院音楽研究科修了。第30回国際古楽コンクール〈山梨〉声楽部門最高位。スイス・バーゼル・スコラ・カントルムにてゲルト・テュルク、エヴリン・タブの両氏に師事。同地でのソリストとして演奏活動を行う他、仏コルマール音楽祭、墺インスブルック音楽祭等に客演するなど活動の幅を広げている。アンサンブル“La Pedrina”の主要メンバーとしてコンサート・録音活動も盛んに行っている。

 

杉山 範雄(バリトン)

10 歳より小田原少年少女合唱隊に入隊、ルネサンス〜現代まで多くのアカペラ・アンサンブルを学ぶ。平成 6 年東京藝術大学音楽学部声楽科に入学、声楽を多田羅迪夫、桑原妙子の両氏に師事。卒業後、これまでに小林研一郎、小泉ひろし、飯森範親等各指揮者のもと、演奏会バスソリストを務める。現在、神奈川を中心に14の合唱団を指導、学生・児童の歌唱指導にも取り組んでいる。神奈川県合唱連盟副理事長。

 

村上 信吾(バロック・トランペット)

国立音楽大学卒業。現在フリーのトランペット奏者。バッハ・コレギウム・ジャパンをはじめとした様々な古楽団体のプロジェクトに参加し研鑽を積む。ラ・トロンバの会、Ensemble Academia MusicaTubicines Campestrium各メンバー。これまでにトランペットを熊谷仁士、大隅雅人の両氏に師事。バロック・トランペットを霧生貴之氏に師事。ジャン=フランソワ・マドゥーフ氏のマスタークラスを受講。

 

 

池田 英三子(バロック・トランペット)

東京藝術大学卒業。及び同大学院音楽研究科(修士課程)修了。1989年東京文化会館のオーディションに合格し、新進音楽家デビューコンサート出演。藝大卒業時に藝大同声会推薦卒業生演奏会に出演。1992年東京国際音楽コンクール室内楽第三部門入選。同年、フランスのナルボンヌ国際金管五重奏コンクール特別賞受賞。これまで東京藝術大学管弦楽研究部及び東京藝術大学附属音楽高校、埼玉県立松伏高校音楽科各非常勤講師を経て、現在埼玉大学教育学部、尚美ミュージックカレッジ専門学校、東京都立総合芸術高校音楽科で非常勤講師を務める他、オーケストラ、室内楽、ミュージカルなどでも幅広く活動している。著書に小中学生のための楽器入門「トランペットをふこう」(中央アート出版)がある。

 

金子 美保(バロック・トランペット)

埼玉県立大宮光陵高校音楽科を経て東京藝術大学卒業。スペインのソフィア王妃高等音楽院修了。R.フリードリヒと M. ブランコのクラスで学び優秀賞を受賞。第10回関西トランペットコンクール課題曲部門、オーケストラスタディ部門の両部門において第1位。第18回東京音楽コンクール入選。第90回日本音楽コンクール第2位。小澤征爾音楽塾オペラプロジェクト、サンタンデール音楽祭、北九州音楽祭、東京・春・音楽祭、調布国際音楽祭等に参加。

 

本間 雄也(バロック・ティンパニ)

12歳より打楽器を始める。 東京藝術大学音楽学部器楽科を卒業。同大学院修士課程修了。第26回日本クラシック音楽コンクール打楽器部門高校の部において、第4位受賞。GPS主催第3回スネアドラムコンテスト音大生部門において金賞、グランプリを受賞。 第19回イタリア国際打楽器コンクールスネアドラム部門カテゴリーBにて第3位受賞。第39回打楽器新人演奏会にて最優秀賞受賞。これまでに、打楽器を高田亮、杉山智恵子、藤本隆文の各氏に、ドラムスを齋藤たかし氏に師事。

 

曽禰 寛純 (フラウト・トラヴェルソ)

フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。

清野 由紀子(フラウト・トラヴェルソ)

昭和音楽大学管弦打楽器科卒。卒業後は音楽出版社勤務の傍ら研鑽を続け、モダンフルートを岩花秀文氏、フラウト・トラヴェルソを故中村忠の各氏に師事。バロックアンサンブル『ラ・クール・ミュジカル』主宰。

 

大山 有里子(バロック・オーボエ、バロック・オーボエ・ダモーレ)

大阪教育大学音楽科卒、同専攻科修了。オーボエを大嶋彌氏に師事。卒業後「大阪コレギウム・ムジクム」のソロオーボエ奏者として数多くの演奏会に出演。その後ピリオド楽器による演奏に専念しアンサンブル「アルモニー・アンティーク」等に参加。近年はバロック時代だけでなく古典期のオーボエ曲のピリオド楽器による演奏にも取組み活発に活動している。201619年「バロック・オーボエの音楽」開催。「ダブルリーズ」および「古楽団あおば」メンバー。

 

石野 典嗣(バロック・オーボエ・ダモーレ、バロック・ファゴット)

バロック・オーボエ、バロック・ファゴットを独学で学ぶ。古楽器演奏家の追っかけと押しかけレッスン受講歴有り。現在、カメラータ・ムジカーレ同人、アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

前原 聡子(バロック・ファゴット)

ファゴットを山上貴司氏に師事、独学でバロック・ファゴット、クラシカル・ファゴットを始める。現在、オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウに参加。 アンサンブル山手バロッコメンバー

 

小野 萬里(バロック・ヴァイオリン) 

東京藝術大学ヴァイオリン科卒業。1973年ベルギーに渡り、バロック・ヴァイオリンをS. クイケンに師事、以来たゆみない演奏活動を展開している。現在、「チパンゴ・コンソート」、「ムジカ・レセルヴァータ」メンバー。 アンサンブル、sonore cordiを指導している。

 

角田 幹夫 (バロック・ヴァイオリン)

慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。 現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。 アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。

 

 

 

原田 純子(バロック・ヴァイオリン、バロック・ヴィオラ)

 

洗足学園音楽大学卒業。ヴァイオリンを鈴木嵯峨子氏に師事。慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。卒業後古楽器での演奏に興味を持ちバロックヴァイオリン・ヴィオラを渡邊慶子氏に師事する。モダンとバロックのヴァイオリン、ヴィオラ奏者として室内楽を中心に活動している。

 

 

木村 久美(バロック・ヴァイオリン)

ヴァイオリンを森田玲子、森悠子、北浜怜子、バロック・ヴァイオリンを小池はるみ、赤津真言の各氏に師事。ザロモン室内管弦楽団メンバー。

 

山口 隆之(バロック・ヴィオラ)

学生時代、独学でバロック・ヴァイオリン、ヴィオラを始める。アンサンブルを千成千徳氏に師事。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコメンバー。都留音楽祭実行委員。歌謡曲バンド「ふじやま」リーダー。

 

 

 

小川 有沙(バロック・ヴィオラ)

慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

坪田 一子(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
国立音楽大学楽理学科卒業。在学中よりヴィオラ・ダ・ガンバを神戸愉樹美氏に師事。ベルギーでヴィーラント・クイケン氏、ポルトガルでパオロ・パンドルフォ氏のマスタークラスに参加。ヨーロッパの中世からルネサンス・バロック音楽まで、アンサンブルを中心に演奏活動をしている。上野学園中学校・高等学校、国立音楽大学非常勤講師。

 

 

永瀬 拓輝(バロック・チェロ)

桐朋学園大学音楽学部器楽科チェロ専攻卒業。東京藝術大学大学院古楽科バロック・チェロ専攻修士課程修了。チェロを金谷昌治、花崎薫、倉田澄子の各氏に、バロック・チェロを武澤秀平、E・ジラール、酒井淳、鈴木秀美の各氏に師事。ソロ、室内楽を中心に、モダンおよびバロック・チェロの演奏活動を積極的に行っている。「コーヒーカップ・コンソート」(大塚直哉指揮)メンバー。 現在、永瀬音楽教室講師。2022年第

23回大阪国際音楽コンクールアーリーミュージック部門最高位受賞。

 

 

 

黒滝 泰道(バロック・チェロ)

矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。

 

 

 

飯塚 正己(コントラバス)

学生時代よりコントラバスを桑田文三氏に師事。卒業後河内秀夫、飯田啓典、大黒屋宏昌の各氏より指導を受け演奏を続けている。アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

和田 章 (チェンバロ)

小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。

 


アンサンブル山手バロッコ第125回演奏会

横浜開港記念コンサート

バッハ・珠玉のカンタータ II  

喜びのうた〜歓喜の響き〜

Bach Cantata Vol.2 : “Ode and Sound of Joy” 

“洋館で親しむバロック音楽”第141

 

プログラム

本日は横浜開港記念コンサート「バッハ・珠玉のカンタータ II  喜びのうた〜歓喜の響き〜」へお越しいただき、有難うございます。 2009年に横浜開港150周年の記念行事としてスタートした開港記念コンサート。
今回はバッハのカンタータを中心にお届けします。哀しみの先にある喜びを表現し、当時の貴族やザクセン選帝侯に捧げられた3曲のバッハの名曲を素晴らしいゲストの皆さまと一緒に演奏いたします。

 

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J.S.バッハ Johann Sebastian Bach 

 

マニフィカート ニ長調 わたしの魂は主をあがめ BWV243

Magnificat in D-Major BWV243

 

 

ヨハン・セバスティアン・バッハは、1685年にドイツのアイゼナッハで音楽一族の家系に生まれ、その一生をドイツの国内で送りました。音楽家としてのスタートは宮廷楽団員でしたが、その後、いくつもの転職を通じてキャリアアップをしていきます。まず、アルンシュタット、ミュールハウゼンの教会オルガニストとしてその経歴を積み、ヴァイマルの宮廷楽長に就任し、イタリアの作曲家の協奏曲を鍵盤楽器のために編曲ながらイタリア音楽を学びました。また、宮廷礼拝堂のために教会カンタータを本格的に作曲し始めました。その後、1717年にケーテンの宮廷楽長に就任。音楽好きで素晴らしい音楽家を集めた宮廷楽団を立ち上げた領主レオポルト公の元で、独奏曲、室内楽や有名なブランデンブルク協奏曲をはじめとする名曲が数々生み出されました。ケーテン宮廷楽長を5年ほど務めたのち、1723年には、バッハはライプツィヒ市の音楽監督といえる「トーマスカントル」に就任し、就任後数年で、毎週教会の礼拝とともに演奏される教会カンタータを精力的に作曲・演奏を進めました。

 

マニフィカート ニ長調 わたしの魂は主をあがめ BWV243

 マニフィカートニ長調は、17337月の受胎告知の祝日に演奏されたと考えられています。原曲は、ライプチッヒのトーマスカントルに就任した最初の年1723年12月25日のクリスマスの晩課のために作曲した変ホ長調の曲(初稿)ですが、初稿に含まれるクリスマスのためのドイツ語の挿入曲をカットし、マニフィカートの歌詞に即し、金管楽器にも親和性の高いニ長調としたものです。1733年にドレスデンへ献呈したロ短調ミサ(の最初の部分)と同じ5部の声楽と金管・打楽器を含む編成は、ザクセン選帝侯への献呈を想像させます。

図 バッハの就職・献呈活動 〜 世俗の世界と神々の世界

 マニフィカートとは、イエスを身ごもったマリアによる神の讃美のラテン語による歌詞をもつ教会音楽で、1733年の二長調版への改作により、プロテスタントのルター派のライプチッヒの教会でも、カトリックのドレスデンの教会でも演奏できるようにしたと思われます。曲は12の部分に分かれており、その流れと各曲の特徴を表にまとめましたのでご参照ください。本日はライプチッヒでの演奏習慣を想定し、アリアやデュエット、合唱曲の部分も1パート1名の5人の歌手で演奏いたします。

表:マニフィカートの各曲の特徴

 

 

       Et exsultavit spiritus meus 私の霊は私の救い主なる神を                     Quia respexit humilitatem ancillae suae; 主の下女の低さに目をとめて下さった

 

  

(左)Omnes generationesいつの世の人々も      (右)Quia fecit mihi magna qui potens est, 主がわたしに大いなることをなさった

 

               Et misericordia その憐みは                              Fecit potentiam in brachio suo  主はみ腕によって力を振るい

  

   Deposuit potentes 権力ある者をその座から引き下ろし                         Esurientes implevit bonis 飢えた人々を良いもので満たし

 

  

(左) Suseepit Israel 主はその憐れみを忘れず           (右) Sicut locutus est  私たちの先祖に語られた通りに

Gloria Patri,  父に栄光がありますように

 

 

 

ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048

Brandenburg Concerto No.3 in G-Major BWV1048

[指定なし] - アダージョ - アレグロ

[No indication]- Adagio - Allegro 

 

ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調 BWV1048

 この曲は、バッハのケーテン宮廷楽長時代の1721年に、バッハ自筆の献呈文とともに「種々の楽器のための6曲の協奏曲」として、ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献呈され、現在ではブランデンブルク協奏曲と呼ばれています。ケーテンを生涯最高の場所と述べていたバッハですが、公私ともの状況変化により、新たなキャリアを求めるようになりました。そこで、以前に演奏を聴いて評価してもらったクリスティアン・ルートヴィヒへ当時の自作の協奏曲の傑作選ともいえる6曲の協奏曲を献呈し、新たな就職先を求めたと考えられています(図参照)。この楽曲の献呈は具体的なキャリア展開には結びつきませんでしたが、この重要な人物との関係づくりは、その後のバッハの長男フリーデマンや次男エマヌエルのベルリンとの関係づくりや、バッハ自身の後年のフリードリッヒ大王への謁見など、ベルリンへの道につながっているのかもしれません。

 さて、ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調は、3本のヴァイオリン、3本のヴィオラ、3本のチェロと通奏低音(チェンバロ+コントラバス)の10声部が、合奏とソロを受け持ち、緊密なアンサンブルを求めるという他に例の無い協奏曲です。第1楽章は指定はありませんが速い楽章で、バッハの協奏曲に用いられるリトルネロ形式で書かれています。3つのグループの楽器が協調したり、競い合ったりしながら進みますが、一貫して冒頭の生き生きした喜びのようなテーマに基づいています。わずか2小節の和音で書かれた第2楽章は、快速な第3楽章との橋渡しとして、即興的な演奏が披露されます。最終楽章アレグロは、舞曲ジーグのリズムで書かれている2部形式の曲。ここでも協奏・競奏が組み合わされて、颯爽と駆け抜け曲を終えます。

 

1723年にバッハは、ケーテン宮廷を辞し、商業都市ライプチッヒの音楽監督でトーマス教会学校の校長であるトーマスカントルに就任しました。就任直後から、毎週の礼拝で演奏される教会カンタータの作曲・演奏に精力的に取り組み、1729年には、ライプチッヒ大学の音楽愛好家を中心とした市民のための演奏団体コレギウム・ムジクムの指揮者に就任し「ライプチッヒにコレギウム・ムジクムあり」というほどの団体に育て上げました。

しかし、この町でバッハは、大学や教会の聖職者との音楽をめぐる軋轢が続き、市参事会とも難しい関係になっていました。音楽の才能のない学生の採用を巡って意見が対立し、1730年にはバッハに対する非難決議と報酬減額が決定されました。

 

  バッハは当時のドイツで最高の音楽レベルをもつドレスデン(ザクセン選帝侯)の宮廷音楽家とのつながりを持っていたので、1733年にザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト2が即位すると、ドレスデンへの就職活動と宮廷音楽家の称号を求めて、数多くの活動を一斉にスタートします。1733年には、請願書とともにロ短調ミサの第1部を献呈し、ライプチッヒの教会でマニフィカートニ長調を演奏します。これら教会音楽に加えてザクセン選帝侯ファミリーを讃える世俗カンタータ(音楽劇)を上演し、捧げました。1年間で8曲の作曲と献呈という精力的な活動の効果もあり、1736年にはバッハは念願のザクセン選帝侯宮廷音楽家の称号を授与されました。現実的な就職はかないませんでしたが、称号を肩書として利用し、ライプチッヒでの人間関係改善に活用し、1750年に亡くなるまでライプチッヒでの音楽活動を続けました。

 

カンタータ 第214番 太鼓よ鳴れ ラッパよ響け BWV214

Drama per Musica,Tönet, ihr Pauken! Erschallet, Trompeten! BWV214

Tönet, ihr Pauken! 太鼓よ鳴れ

 

カンタータ 第214番 太鼓よ鳴れ ラッパよ響け BWV214

 カンタータ214番「音楽劇:太鼓よ鳴れ ラッパよ響け」は、マニフィカートと同じくドレスデンへの表敬音楽として作曲され、173312月に演奏(上演)されました。選帝侯妃マリア・ヨゼーファ(表紙の肖像画の人物です)の誕生祝いとして作曲されたもので、新選帝侯の即位に際して献呈したミサ(ロ短調)、マニフィカートに続いて、作曲演奏された表敬カンタータの一つです。

音楽劇(Drama per Musica)と表記されているように、四人の神(戦いの神・ベローナ、学芸の神・パラス、平和の神・イレーネ、名声の神・ファーマ)が登場し、王妃の誕生日を祝福します。合唱曲についても歌の各パートは神々の名前で書かれているので、各パート1名で演奏するものと考えられています。(今回の上演では、パラスの率いる芸術の女神・ムーサイを登場させ、合唱曲のソプラノパートを重ねることにしました。)各楽章の内容は以下を参照ください。

表:カンタータ 第214番の各曲の特徴

 

  

 (左)  Heut ist der Tag, 今日こそ                              (右)  Blast die wohlgegriffnen Flöten 吹け さやかの 笛を

 

  

(左)  Mein knallendes Metall 大気を ふるう大砲の              (右)  Fromme Musen! meine Glieder! 気高きミューズよ

  

(左)  Unsre Königin im Lande この地方のわれらが女王         (右)  Kron und Preis gekrönter Damen, われらが 冠りなる 王妃よ

  

 So dringe in das weite Erdenrund わが口に 満てる  王妃の 讃歌

Blühet, ihr Linden in Sachsen, wie Zedern!  ザクセンの菩提樹よ 花咲け 

 

 

地名、登場人物(神)などの説明

ザクセン:                  

 

ザクセン選帝侯国のこと。首都はドレスデン。1733年に即位したフリードリッヒ・アウグスト2世へバッハは各種の音楽をささげた。その候妃(ポーランド王妃)が、マリア・ヨゼーファは、ハプスブルグ家より嫁ぎ、カトリック信仰を貫いた。

なお、アウグスト候フリードリヒ・アウグスト二世の父アウグスト(強候)は、カトリックに改宗しポーランド王になり、巨大なポーランド領地を手に入れた。その候妃エーバーハルディーネはプロテスタント信仰を貫いた。(この候妃の追悼にバッハはカンタータBWV198を作曲演奏した)

イスラエル: 

イスラエルの古都エルサレムは、キリスト教徒にとって、信仰の礎となる「聖なる都」

アブラハム:     

聖書では、人類の救い主であるキリストが、アブラハムの子孫、さらにダビデの子孫から生まれると預言しており、その預言のとおりにイエスが生まれ、この方こそ救い主キリストであるという系図が信仰の軸となっている。アブラハムは紀元前2000年頃の人物で、イスラエル民族の始祖。

ミューズ:
ムーサイ:

ギリシャ神話の芸術の女神。英語ではミューズ、ギリシャ語でムーサ。
同上。本日の演奏では、ソプラノとして参加し、合唱曲の部分でソプラノ声部を強調する。

ベローナ:

ギリシャ神話の戦いの女神

パラス:

ギリシャ神話の学芸の女神

イレーネ:

ギリシャ神話の平和の女神。この曲ではテノールが担当する。

ファーマ:

名声の神

 

バッハはこの曲が、1回しか演奏されないのを惜しんだのか、教会で毎年演奏できる「クリスマス・オラトリオBWV248へ多くの楽章を転用しました。今では聴く機会は転用されたクリスマス・オラトリオのほうがずっと多いと思います。本日の歌詞(シナリオ)と配役を理解いただくと、音楽との関係が原曲ならでは、ということに気づく部分もあると思います。

 

(アンサンブル山手バロッコ 曽禰寛純)

 

コンサートおよびプログラムの参考文献

1)礒山雅・小林義武・鳴海史生/バッハ事典(東京書籍、1996

2)Little M., Jenne N./ Dance and the Music of J.S.Bach(Indiana University Press,1991)

3)礒山雅 /カンタータの森を歩む3 ザクセン選帝侯家のための祝賀音楽・追悼音楽(東京書籍、2009

4)ヴォルフ C., コープマン T. /バッハ=カンタータの世界II 世俗カンタータ(東京書籍、2002)

5)Durr A./The Cantata of J.S.BachOxford University Press2005

6Jones R.D. /The Creative Development of Johann Sebastian Bach: 1717-1750 (Oxford Univ Press,2013)

7)ヴォルフ C. /ロ短調ミサ曲(春秋社、2011

8)川端純四郎/時代を超えたカントール (日本キリスト教団出版局、2006

9)Parrott A. /The Essential Bach Choir (Boydell Press,2000)

 

♪ ♪ ♪

 

たくさんの拍手をいただきましたので、

アンコールに、本日のカンタータ第214番の最終曲が転用されたクリスマス・オラトリオ第3部より冒頭曲“Herrscher des Himmels, erhoere das Lallen"「天の支配者よ、もつれた歌をお聞き下さい」をお聴きいただきます。ありがとうございました。

 

 

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