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108th Concert

  

アンサンブル山手バロッコ第108回演奏会
 

西洋館で親しむ

モーツァルトのフォルテピアノ-II

Mozart and Fortepiano-II 

横浜開港記念コンサート   “洋館で親しむバロック音楽”第118

2022618日(土) 14時開演(1330分開場) 横浜市イギリス館(横浜市中区山手町115−3)
14:00
 18th June. 2022 at British house Yokohama

主催:クラングレーデコンサート事務局、 共催:アンサンブル山手バロッコ  

 

出演

 

曽禰 寛純(クラシカル・フルート)

フルート演奏を経て、フラウト・トラヴェルソを独学で習得、慶應バロックアンサンブルで演奏。1998年に朝岡聡と共に、アンサンブル山手バロッコを結成し、洋館でのコンサートを継続。カメラータ・ムジカーレ同人。

 

角田 幹夫(クラシカル・ヴァイオリン)

慶應バロックアンサンブルでヴァイオリンを演奏。独学でヴィオラ・ダ・ガンバを習得。 現在、カメラータ・ムジカーレ同人、NHKフレンドシップ管弦楽団団員。 アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。

 

小川 有沙(クラシカル・ヴィオラ)

慶應バロックアンサンブルでヴィオラを演奏。卒業後、オーケストラ、室内楽の両面で活動している。アンサンブル山手バロッコメンバー。

 

黒滝 泰道(クラシカル・チェロ)

矢島富雄、三木敬之、山崎伸子各氏の指導を受ける。慶應バロックアンサンブルOB。弦楽合奏団、古楽アンサンブルなどで活動。ザロモン室内管弦楽団メンバー。

 

和田 章(フォルテピアノ) 

小林道夫氏にチェンバロを師事。慶應バロックアンサンブルで演奏。カメラータ・ムジカーレ同人。アンサンブル山手バロッコ発足メンバー。
本日使用するフォルテピアノは、Anton Walter1800年頃)をモデルに野神俊哉氏が製作(2013年)した楽器です。

 


 

アンサンブル山手バロッコ第108回演奏会


西洋館で親しむ

モーツァルトのフォルテピアノ-II

Mozart and Fortepiano-II 

横浜開港記念コンサート   “洋館で親しむバロック音楽”第118

 

プログラムノート

(曽禰寛純/角田幹夫)

 

横浜市イギリス館は、1937年に、英国総領事公邸として建設された由緒ある建物です。広々としたテラスが芝生の庭につながっている素晴らしい客間で、モーツァルトの愛したワルターモデルのフォルテピアノと当時のスタイルの古楽器によるアンサンブルで18世紀のサロンコンサートをお届けします。当時楽しまれた家庭音楽やサロンコンサートの味わいをご一緒に楽しみましょう。

♪  ♪  ♪

モーツァルトとフォルテピアノ

モーツァルト(1756-1791の鍵盤楽器は、幼少時のチェンバロから、当時の音楽と楽器の変化に伴って、徐々にフォルテピアノになっていきます。18世紀初頭にイタリアで誕生したフォルテピアノは、しばらくはバロック音楽の中心にあったチェンバロの背景にかくれていましたが、製作者による工夫を積み重ねていきました。晩年のバッハが次男カール・フィリップ・エマヌエルの仕えているベルリンのフリードリッヒ大王の宮廷に招かれたときには、ジルバーマン製作のフォルテピアノを試奏した記録が残されています。バッハの息子たちの時代になるとフォルテピアノの台頭が進みました。モーツァルトは、バッハの末息子で作曲家・鍵盤楽器奏者のヨハン・クリスチャン・バッハとロンドンで出会い生涯親交を持つことになりますが、その鍵盤楽器はフォルテピアノに変化していました。

さて、モーツァルトは、1777年にドイツのアウグスブルグでフォルテピアノ製作者であり「ウィーン式アクション」と呼ばれるアクションを完成させたシュタインのフォルテピアノと出会い、演奏会を行って、父親にその楽器の報告をしています。1781年にウィーンに移り、独立した音楽家として活躍を始めたモーツァルトは、ウィーンの名工 アントン・ワルターのフォルテピアノを所蔵し、演奏家、作曲家、教師としての活動の中心にこの楽器を据える生活を送りました。ワルターの楽器は、シュタインのアクションに改良を加え、連打が更に安定するメカニズムを追加しました。本日は、このワルターのフォルテピアノを中心としたモーツァルトの室内楽を、同時代のスタイルの管楽器、弦楽器とともにお届けいたします。

 

W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
1756-1791

フルート四重奏曲 ト長調 KV285a
Flute Quartet in G-major

アンダンテ – テンポ・ディ・メヌエット
Andante
 – Tempo di Menuetto

最初に演奏するフルート四重奏曲 ト長調 KV285aは、4曲残されているフルート四重奏曲のなかで、ニ長調の曲とともに、他の2曲より早い時期に作曲されました。 1777年、マンハイムを訪れたモーツァルトは、友人のフルート奏者ウェドリングの紹介で、音楽愛好家のドジャンからの数曲のやさしい協奏曲と四重奏曲の作曲を高額の報酬で依頼されました。このト長調の四重奏曲は、1777年末に完成したニ長調のフルート四重奏曲の次に作られたもので、ドジャンがマンハイムを出発する直前の1778年に作曲されたと考えられています。

曲は2つの楽章からなっています。どちらもギャラントな様式で作られており、ソナタ形式の第一楽章には、優雅な偽終止、オクターヴの重ねの響きなど、当時のパリを中心として流行した最新の好みが反映されています。続く第ニ楽章は、2部形式のメヌエットに、小さな終止部が付け加わった可愛らしく優雅な曲となっています。

なお、残りの2曲のフルート四重奏曲は、モーツァルトがウィーンに移ったあとの作品です。ハ長調の四重奏曲の第二楽章は、次にお聴きいただくセレナード「グランパルティータ」の第六楽章とほぼ同じ音楽が使われており、グランパルティータからの編曲と考えられています。

 

W.A.モーツァルトC.F.G.シュヴェンケ編)
W.A.Mozart
1756-1791) arr.by C.F.G.Schwencke

グラン・クインテット 変ロ長調 KV361(フォルテピアノ、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロ)より
Grand Quintet after Serenade in B-major KV361

ラルゴ/アレグロ・モルト  -  メヌエット/トリオI/トリオII  -  テーマと変奏 – アレグロ・モルト
Largo/Allegro molto
 - Menuetto/Trio I/Trio II - Thema con Variazioni – Allegro molto

次に演奏するグラン・クインテット 変ロ長調 KV361は、「グランパルティータ」の名称で知られる13楽器のためのセレナードのフォルテピアノとオーボエ(フルート)、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための編曲版です。原曲のグランパルティータは、ウィーンで流行した、ハルモニーと呼ばれる管楽合奏のために書かれたもので、通常の6本、8本の管楽器編成に対して、12本の管楽器にコントラバスを加えた、当時の最大・唯一の編成で、全曲演奏に50分以上かかる大作です。モーツァルトはこの曲を1783年末から1784年初めに作曲したと考えられ、1784年のモーツァルトの友人であり、当時随一のクラリネット奏者であるA.シュタットラーの演奏会で披露されました。 

編曲者のC.F.G.シュヴェンケは、モーツァルトと同時代の1767年生まれ、ファゴット奏者の父親に音楽教育を受け、その後、ベルリンでキルンベルガーマールプルクに師事しました。作曲家、鍵盤楽器奏者、編曲者として活躍し、1789年には、バッハの次男C.P.E.バッハの後任としてハンブルク市の音楽監督に就任し、1822年に亡くなるまで務めました。編曲は13楽器のために書かれたセレナーデを、フォルテピアノとオーボエ(今回はフルート)四重奏の組合わせで原曲に忠実に、新たな楽器編成に再構成したものです。フォルテピアノの低音を含む和音を効果的に活用することで、セレナ―ドで用いられた楽器間の音色の対比を作り出し、フォルテピアノ独奏部分と四重奏との構成の対比も図られています。オーボエ、クラリネットの独奏は巧みにフルートとヴァイオリン、またヴィオラ、チェロのソロに効果的に置き換えられており、グランクインテット(ピアノ五重奏)という新たな曲として、演奏していても新鮮な魅力を感じます。

本日は第一、二、六、七楽章を演奏します。第一楽章はゆったりとした序奏に続き、軽やかな主題が展開されます。第二楽章メヌエットは、2つのトリオを持ち、トリオでの楽器の組合せに編曲者の工夫が感じられます。第六楽章は主題と変奏。フルート四重奏曲ハ長調の第二楽章に転用されたものです。最後の第七楽章フィナーレはロンド形式。軽やかで推進力のあるテーマの間に、いくつかのエピソードが挟まれていますが、楽しく走り回り、華やかで、すがすがしい気分で曲を閉じます。

 

W.A.モーツァルト
W.A.Mozart
1756-1791

フォルテピアノ四重奏曲 ト短調 KV478
Piano
 Quartet in G-minor KV478

アレグロ – アンダンテ – アレグロ・モデラート
Allegro
 – Andante – Allegro moderato 

最後は、フォルテピアノ四重奏曲 ト短調 KV478です。モーツァルトはフォルテピアノとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための四重奏曲を2曲だけ、オペラ「フィガロの結婚」と同時期の1785-6年に作曲しました。友人のホフマイスターから出版のために3曲のピアノ四重奏曲を依頼されましたが、この一曲の出版でとどまり、他の一曲(変ホ長調K.493)は別の出版社で出版されました。理由としては、モーツァルトの音楽が一般愛好家には受け入れにくい難解な作品であり、売れ行きが心配だったことによるようです。当時の家庭音楽で親しまれていたピアノ三重奏曲(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ)にヴィオラを追加した編成ですが、楽器が加わるというだけでなく音楽的な内容も大きく変化しました。多くの弦楽四重奏曲を作曲し、友人たちとの演奏で好んでヴィオラを弾いていたモーツァルトにとって、ヴィオラを加えることで、フォルテピアノの伴奏を充実させるという発想はなく、フォルテピアノと弦楽の対等な会話や楽器間の対比などを組み込んだ曲に仕上げるのは自然な事だったのかもしれません。

モーツァルトの600曲以上ある作品の中でト短調の作品は極めて少なく、このピアノ四重奏曲を作曲した後も約150曲もの曲を残しているのですが、弦楽五重奏曲(KV516)、交響曲第40番(KV550がある程度です。しかしいずれの曲も一度聴くと忘れられないような劇的で内に秘めた激しさが伝わってきます。モーツァルトにとってト短調が特別な調であったと言われる所以です。

第一楽章は、冒頭の主題の極めてドラマティックな曲想が際立った特徴です。同じ年に作曲された有名なニ短調のピアノ協奏曲 第20番(KV466と通じる深刻さと激しさに、家庭音楽、サロン音楽として注文したホフマイスターが大衆には受け入れにくい難解な作品と感じたのもわかる気がします。第二楽章は変ロ長調のアンダンテ。優美なメロディを各楽器が奏でます。第一楽章のモティーフがところどころに顔をだしているのも曲全体に統一感を与えています。第三楽章はト長調のロンド形式(同じテーマが異なる旋律を挟みながら繰り返される形式)です。この曲の翌年に作曲されたピアノ独奏のロンド(KV485ピアノ協奏曲第23番(KV488を思い起こさせる愉悦あふれる旋律を、まるで協奏曲のようにピアノと弦楽器掛け合いながらフィナーレを迎えます。

 

 

 

たくさんの拍手をいただきましたので

グラン・クインテット 変ロ長調 KV361より、第四楽章 メヌエットをお聴きいただきます

ありがとうございました。

 

参考文献

1)海老沢敏ほか監修/モーツァルト事典、 東京書籍 (1991

2)E. Klorman / Mozarts Music of Friends Social Interplay in the Chamber Works, Cambridge University Press 2016

3)Eva Badura-Skoda / The Eighteenth-Century Fortepiano Grand and Its Patrons, Indiana University Press 2017

4D. N. Leeson & N. Zaslaw /  W.A.Mozart Serenade in Bflat Major Gran Partita KV361, Bärereiter-Verlag (1979

5)C. Hogwood / Mozart, Wolfgang Amadeus: Großes Quintett nach der Serenade B-Dur Gran Partita KV361 für Oboe, Violine, Viola, Violoncello und Klavier, Edition HH (2006

 

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